売れない時代に売れる理由。販売低迷期の成功事例

「コメリ」農村コンビニで全国制覇、都市部に逆上陸狙う

田畑の中のオンリーワン

農村部から都市部へ—。農村部を対象にしたホームセンター業態で飛躍的な成長を遂げた新潟県を地盤とするコメリが、満を持して都市部攻略に打って出る。農村部で農業資材や建築材料などを販売する“農村コンビニ”の「ハード&グリーン(H&G)」は、今では農村にはなくてはならぬ存在になっている。しかし、すでに店舗数は1000店近くになり同業態での展開には限界が近い。少子高齢化で過疎化が加速する地方の農村部での店舗展開から、次の一手が必要な局面に入っている。次の一手はこれまでとは打って変わって住宅密集地を商圏にした業態だ。その全貌はまだ明らかにしていないが、コンビニの利便性とホームセンターの商品構成を合わせた“ホームコンビニ”だ。次の成長に向けて“農村コンビニ”を軸にした業態戦略から、新たな挑戦を始めようとしている。

地方の農村部に行くと、畑や田圃の真ん中にポツンと店舗がある光景に出くわす。コメリの農村コンビニ「H&G」だ。農業従事者や工務店関係者なら、知らぬ人はいないといわれるほど地域に定着した業態だ。地方では下駄替わりの軽自動車や自転車で気軽に行け、農業用品ばかりでなく、日用品や季節商材など日常のものは一通りそろう。それこそサンダル履きでパッといってパッと買えるコンビニ性が売り物だ。

平均売り場面積は約1000平方メートル。本部集中仕入れや、物流センターによる店舗別品ぞろえなど、店舗の作業を徹底して減らしたローコスト運営が特徴だ。1店あたりの平均年間売上高は、1億6000万円から1億7000万円程度。この額は、売り場面積がH&Gの6分の1程度の、都市部のコンビニの年商と同程度だ。

人口が密集していなくとも、来店頻度がそれほど高くなくても、経費をかけない運営で十分に収益が上がるモデルを確立している。北海道や東海には店舗が手薄な地域もあるが、ほぼ全国を網羅している。

団塊世代狙うホームコンビニで都市部へ

だが、そんな農村部のニーズを満たしてきた「H&G」もすでに全国の農村部を中心に約940店になった。取締役執行役員の早川博氏は「当社は1店あたりの商圏人口を平均1万人とみており理論的にはまだまだ出店が可能」という。しかし同時に「人口動態の変化で人々の住まいは変わる。それこそ、過疎地から都市部へ、都市近郊から都市中心部へと移動していく」と、新たな店舗作りへの挑戦の必要性も感じている。

そこで同社が着手したのが、住宅地で通用する“ホームコンビニ”の開発だ。つまり、「H&G」に次ぐ柱になる次世代型の業態の開発だ。来期(2014年3月期)からの展開に向けて、既存店の随所でカテゴリー単位での実験を展開している。まだ業態の全貌はベールに包まれた状態だが、アウトラインは明らかにしている。

今や農村にはなくてはならぬ存在になっている「ハード&グリーン(H&G)」

まず出店立地は厳密に絞り戦略だ。関東圏では、横浜市西区を起・終点として、首都圏を大きく環状に結ぶ道路国道16号やや内側のサークル状を主戦場にする計画だ。相模原市から東京都八王子市、埼玉県川越市、さいたま市、千葉県柏市、千葉市と結ぶこの道路の内側は、高度成長期以降に都心に勤務するサラリーマンのベットタウンとして開発が進んだ。今はリタイヤした団塊世代が多く居を構えている。時間に余裕ができた団塊世代が、住宅の手入れや趣味に多くの時間を費やすことが容易に想像される地域。このニーズを吸い上げようという訳だ。当初の展開地域は埼玉の大宮駅周辺からスタートする。

確かに、首都圏にはコンビニはたくさんあるが、ホームコンビニ的な発想の店舗はない。ホームセンター自体は都心部などでも散見されるが、DIYを中心とした品ぞろえの大型店が多く、釘1本買うのに店内を歩き回らなければならない。小商圏を対象とし、住まいに緊急性のある品ぞろえに絞り込んだホームコンビニ的な業態はまだない。変わる都市生活者の潜在需要を掘り起こす新戦略といえよう。

新業態の売り場面積は農村部中心のH&Gの標準フォーマットである1000平方メートルと違い、500—600平方メートル程度になると見られる。国道16号の内側は地価が高く、とても農村と同じ店舗は不可能だ。

肝心の商品政策は、同社が強い工務店や農業関係者向けの商材も用意するが、一般家庭向けの住宅関連商品、園芸用品や植物、さらに住宅に関連したサービスやペット用品などが中心になるとみられる。首都圏展開と前後して、関西圏でも同じような展開に乗り出す予定だ。もちろん、新業態の開発に並行して主力業態の「H&G」も空白地を中心に積極出店を続ける。

肥料売場も充実する

中央コントロールで低コスト運営

同社の店舗オペレーションは、店舗での作業を極力減らす中央コントロール型。そのため「物流は生命線」であり、物流センターの配置が、店舗のオペレーションを左右するし、出店政策自体を左右する。センターという後方支援体制を整えてから一気呵成に出店するというのが同社の基本戦略だ。つまりロジスティクスがあってこその店舗オペレーションであり、これがローコスト運営の源泉となっている。

現在、同社の物流センターは全国に8カ所。年内か13年初めに9カ所目の物流センターを茨城県稲敷市に開業することが決まっている。首都圏店舗への物流は、これまでは群馬県高崎市にあるセンターと福島県郡山市にあるセンターが担ってきた。しかし、高崎も郡山も首都圏店舗の増加で能力の限界に近づいている。新業態戦略の始動にあたっては、新センターの必要性が高まっていた。このため、稲敷市の新センターは300店くらいの物流をこなす能力を備え、開業当初から100店程度の物量をこなす計画だ。

コメリが今後、「H&G」業態を中心にして全国制覇を進める上で避けて通れないのが、“農業国”である北海道地域の攻略といえる。ホームセンター業態には従来、紳士協定のような「地域不可侵の暗黙の了解」があったとされ、その名残からコメリも北海道への出店は慎重だった。しかし、そんな紳士協定も崩れた今、コメリがいつ北海道に本格上陸するかが業態では注目の的となっている。

農村ホームセンター「H&G」の全国展開に突き進み、新業態でポストH&Gの布石を打つ同社。フロンティア精神に溢れている。

企業データ

企業名
株式会社コメリ
Webサイト
代表者
捧雄一郎社長
所在地
新潟県新潟市南区清水4501-1
Tel
025-371-4111
事業内容
ホームセンター

掲載日:2013年2月12日