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離島のハンディ乗り越え900社と取引「佐渡精密株式会社」
2025年 8月 28日

佐渡精密の本社は廃校になった中学校の校舎や体育館を譲り受けたものだ。各教室の入り口にはクラス名ではなく、「研修室」や「利益対策室」といった掲示がされているので、企業だと分かるが、木製の廊下から見える風景は、校舎そのもの。どこかなつかしさを感じさせる。しかし、本社横にある工場には、最新のマシニングセンタやNC旋盤など150台超の工作機械がずらりと並んでいる。そこで作り出されるのは、世界に出荷される医療機器の部品や航空機部品、半導体製造装置部品といった、精密さが求められる金属加工部品。同社の取引先は900社にのぼり、業種も多彩だ。佐渡島という離島にありながら、顧客から選ばれる存在であり続けるのは「顧客の信頼を裏切らない高い技術力と提案力」があるからだ。
多品種小量生産に転換
同社は1970年の創業だが、80年代の早い段階から多品種少量生産体制へと舵を切った。創業時に大口取引先であったカメラ・複写機メーカーが円高で生産を海外に移転した。同社は共に海外に出る選択肢も検討はしたものの、最終的に佐渡に居続けることを決めた。その結果、受注量は激減した。この経験から、特定企業に過度に依存する経営は危険だと痛感し、それ以降は、困難ではあるものの、他社では製造できないような付加価値の高い金属加工を、小ロットで受注する方向を目指した。
先端機器導入と販路開拓

まず、最新鋭の工作機械など生産設備を積極的に導入し、CAD/CAM(コンピューターによる設計・生産)に取り組むなど、技術の獲得に力を注いだ。2009年には航空・宇宙分野の部品製造に求められる品質規格であるJIS Q 9100の認証を取得し、航空機の部品加工にも参入した。顧客の難しい要求に応えるために、切削工具を自作するなど、常に新技術・新分野への挑戦を続けた。
同時に販路開拓として、展示会に出展し新規顧客の開拓に努めた。今では金属加工企業が、自社の技術を展示会でアピールする姿も珍しくないが、東京・晴海に展示会場があった時代から、そうした活動をしていた企業は少なく、多くの取引先を獲得することができたという。インターネットが普及すると、ソリューションサイトを開設して、顧客の抱えている課題を解決する、さまざまな手法を紹介した。そのほかにも、メールマガジンの送付やテレホンアポイント営業など、プル型・プッシュ型の多様な営業活動を駆使した。こうした地道な活動が、取引先900社という実績を生んだ。
同社が製造する金属部品は、チタン合金のインプラントや内視鏡などの医療機器関連、航空機のエンジンや降着装置、半導体製造装置など、さまざまな業種で使われている。半導体関連のように変動の大きなものや、医療関連のような毎年安定した需要のあるものなど、特定の業種に偏らない取引が、結果として経営を安定させることに結び付いている。末武和典社長は「コロナ禍の最中も医療機器関連がけん引し、売上の減少幅を小さくしてくれた」と説明する。
社員参加型の経営へ

末武社長は2016年に父親の末武勉氏(現会長)から社長を引き継いだ。「父親は経験と判断力で社員の信頼を得て会社をけん引してきたが、自分はそうではない。社員と共に将来のあるべき姿を考えたい」と、社員に対して定期的に経営に関するプレゼンテーションを行い、経営課題を共有するなどオープンな経営を心掛けている。
また、中小企業大学校三条校(新潟県三条市)に自身や社員を派遣して、経営を学ぶ機会としているほか、中小機構の専門家継続派遣を活用して技術力や営業力のさらなる向上に努めている。「専門家の方から『展示会での展示のやり方が古い』と指摘されて目からうろこが落ちる思いだった。さっそく改善に取り組んだ」と経営に役立てている。同社は航空機分野に参入する際にも、専門家派遣で生産技術の指導を受けていた。
VA/VEで提案営業にみがき

金属加工業はいくら技術力があっても、取引先から指示された加工をしているだけでは、価格競争に巻き込まれてしまう。同社は顧客のニーズを先取りして、設計提案や部品の組み立て作業まで一貫で対応するといったVA/VE(バリュー分析とバリューエンジニアリング)技術に力を入れている。末武社長は「顧客からもらった図面どおりに作るのではなく、営業担当者が顧客に使い方を聞き、それを社内のエンジニアと相談して『こちらの加工の方がコストを下げられますよ』といった提案を行うようにしている」という。中には図面のない部品を現品から図面を起こして製作したり、部品調達を顧客に代わって行ったりと、踏み込んだサービスにも対応している。こうした取り組みが、顧客を同社に引き付ける要因にもなっている。
また、毎月送るメールマガジン経由で同社のウエブサイトを訪問したセッション数は約1万4000件にのぼる。同社はどういう業種の訪問者が、どのサイトに注目しているのかを分析し、新しいニーズの掘り起こしに活用している。「航空機や半導体関連の技術コラムは上昇傾向、素材だとステンレスに関心があるなど、今後の提案に役立てている」(末竹社長)。
新潟の航空機関連産業育成に参画
同社は新潟市が進める航空機関連産業の育成プロジェクトである「NIIGATA SKY PROJECT」に参画している。金属切削加工や表面処理、熱処理、精密板金などの新潟に拠点を置く企業が「NSCA(ナスカ)」というアライアンスを組み、航空機関連部品の一貫生産体制を構築することを目指している。同社は航空機産業にいち早く取り組んだ経験を他社に伝えたり、実際の共同受注に繋げたりするなど、プロジェクトでの実績を積み上げている。
小学校跡地で宿泊施設開業

同社は2024年8月に、本社近くの小学校跡地でトレーラーハウス型の宿泊施設「佐渡風流~nagomi~」を開業した。高台にあり海を見渡せる好立地にある。無人チェックイン・チェックアウトシステムなど、DXを駆使して極力人手がかからない運営を実践している。末武社長は開設の狙いについて「佐渡島は金銀山が世界文化遺産に登録され観光客の増加が見込まれているが、宿泊施設が不足している。また、当社の社員でも、工場での勤務は年齢や子育て・介護などで厳しいとなった時に、宿泊施設の管理や掃除業務なら仕事量や時間を柔軟に対応することができる」と、島と同社の将来を考えて開設を決めたのだという。災害が発生した時には、宿泊施設を防災拠点として活用するといった多面的な活用を考えている。
新事業への挑戦

佐渡という離島でのものづくりにこだわるのは、地元で雇用の受け皿となり続けることが同社の責務だと考えるからだ。実際、佐渡で同じくものづくりに取り組んでいた企業が2024年末に生産を終了する事態も起こっている。「島でものづくりをするデメリットはこれまでさんざん聞いてきた。それでも当社は佐渡で作り続ける。そのために、技術も提案力も磨いてきた。それに、航空機産業は部品点数が数百万点あり、それがグローバルにさまざまなところから集められる。離島だから不利ということはない」のだという。しかし、航空機だけに依存することは考えていない。同社はこれまでは自動車関連の部品加工は、あえて受注していなかった。自動車メーカーが求めるジャストインタイムにはさすがに対応が難しいためだ。しかし現在、電動自動車で不可欠な「eAxle(イーアクスル)」(モーター・減速機・インバータを一体化したシステム)関連の部品加工に取り組み、参入をはかろうとしている。「この分野なら離島からでも技術力の優位性を示せる」と考えたからだ。佐渡島でものづくりを続けていくために、同社の挑戦は続く。
企業データ
- 企業名
- 佐渡精密株式会社
- Webサイト
- 設立
- 1970年
- 資本金
- 1,100万円
- 従業員数
- 124名
- 代表者
- 末武和典 氏
- 所在地
- 新潟県佐渡市沢根23番地1
- Tel
- 0259-52-6115
- 事業内容
- 医療装置部品や航空機部品などの機械加工部品の製造・組み立て