BreakThrough 企業インタビュー

業界初!強く、軽く、そして再利用も可能な炭素繊維強化樹脂メッシュを開発【株式会社奥谷金網製作所】(兵庫県神戸市)<連載第1回(全2回)>

2020年 10月 15日

「株式会社奥谷金網製作所」は、兵庫県の総合金網、パンチングメタル(打抜金網)メーカーです。同社は新分野にも積極的な挑戦を続け、2019年には企業連携により熱可塑性炭素繊維強化樹脂(CFRTP/Carbon Fiber Reinforced Thermo Plastics)を網状に加工した「CFRTP EXメッシュ」を業界で初めて開発。強く軽く、保管や加工もしやすい新部材として注目を集めています。同製品の強みや可能性を改めて整理するとともに、この新たな価値がどのように生み出されたのか、同社の奥谷智彦代表取締役社長にお話を伺い、2回の連載の中で紹介します。

航空宇宙分野、自動車、各種フィルターなど多彩な分野に活用可能

強さと軽さを兼ね備え、耐蝕性も高い炭素繊維強化樹脂(CFRP/Carbon Fiber Reinforced Plastics)は、金属に代わる材料として、航空機やロケットの機体、建築構造物など幅広い部材に用いられています。しかし、熱を加えると硬化して元に戻らなくなる熱硬化性樹脂を素材とするものが大半で、保管に手間がかかり、後加工も難しいなどの課題がありました。

奥谷金網製作所が「東レプラスチック精工株式会社」らと連携して開発した「CFRTP EX メッシュ」は、加熱すると軟化し、冷却すると固化する熱可塑性の機能を持たせたCFRPのシートを網状にエキスパンド加工※したものです。

「CFRPの強さ、軽さに加え、常温保管が可能で後加工や再利用もしやすく、比較的安価で製造できる。そんな性質を持つCFRTPでメッシュ状の製品を提供できれば、航空宇宙分野はもちろん、自動車、エアフィルター、高耐久メッシュスクリーン、意匠性の高い建築素材などより広い分野で利用してもらいやすくなると考えました」

※金属板などの素材に千鳥状の切れ目を入れ、その切れ目を菱形や亀甲形などに押し広げて網目状にする加工手法

強さと軽さに加え、保管と再利用のしやすさも兼ね備えたCFRTP EXメッシュ。
強さと軽さに加え、保管と再利用のしやすさも兼ね備えたCFRTP EXメッシュ。

危機感を持って新分野の加工に挑戦

同社は祖業の織金網や主力事業のパンチングメタルで多数の大手メーカーにその品質を認められ、金属板の厚さよりも小さい穴を空ける「スーパーパンチング」など、業界で困難とされていた独自技術の開発にも成功しています。そうした成果に安住せず、2012年に樹脂というまったく新たな領域に挑戦したのには理由がありました。

「技術は時間経過によって陳腐化していきます。そこで“ゆでガエル”となって後悔しないためにも、ほかにない、面白そうなことにはどんどん取り組んでいくべきだと考えています。樹脂のパンチング加工ならお客様のニーズもあり、既存の設備やノウハウが使えるので参入リスクも抑えられる。これは当社に必要な挑戦だと思いました」

翌2013年には「スーパーパンチング」の技術を応用した「樹脂パンチング」を発表。これが展示会で東レプラスチック精工の関係者の目に止まり、連携へとつながっていきます。

スムーズな連携により約半年で開発を完了

展示会での出会いからわずか4カ月後、東レプラスチック精工のCFRTPシートを奥谷金網製作所がパンチング加工した「CFRTPパンチング」がリリースされました。「CFRTP EX メッシュ」はこの2社が関わる共同開発の第2弾で、エキスパンド加工は奥谷金網製作所の協力会社が担当しています。

「短い繊維を樹脂で固めたCFRTPシートにエキスパンド加工を施すと、繊維がばらけやすいなどの課題があります。この課題解決という未知への挑戦を協力会社の担当者も面白いと感じてくれたのでしょう。開口サイズの調整などにも細やかに対応してくれたおかげで、連携開始からおよそ半年で完成に至りました」

奥谷金網製作所は、このほかにも同業種・異業種問わず多数の企業連携を成功させ、共同特許なども取得しています。第2回では連携の意義や成功のポイントなどについて掘り下げていきます。

連載「本音で語り合える仲間と連携し、ものづくり企業の地位を高めたい」

企業データ

代表取締役社長・奥谷智彦(おくたに・ともひこ)
代表取締役社長・奥谷智彦(おくたに・ともひこ)
企業名
株式会社奥谷金網製作所
設立
1895年創業
代表者
代表取締役社長・奥谷智彦(おくたに・ともひこ)

1895年創業。金網・パンチングメタルの製造を中心に、樹脂パンチングなどの新規事業にも積極的に取り組む。大手メーカー各社から製品・品質認定を得るとともに、経済産業省の「地域未来牽引企業」など、公的機関からも数多く表彰、選定を受けている。企業連携による開発、特許出願も多数。

取材日:2020年8月17日