BreakThrough 発想を学ぶ

企業の競争力強化の鍵を握る「ロボット」とどうつきあうか【千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長・古田貴之氏】<連載第1回>(全4回)

2020年 7月30日

古田 貴之(千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長)
古田 貴之(千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長)

ロボットは、企業の競争力を高める上で無視できない存在です。生産性向上の手段として、また日本の未来の基幹産業の一つとして、政府もロボット産業の育成に力を入れています。この「ロボット」の広がりやさらなる飛躍を考える上で、中小企業の活躍に期待を寄せているロボット研究開発の第一人者が古田貴之氏です。社会で活躍するロボットの開発に力を注ぎながら、ロボットを活用した中小企業の生産性向上にも取り組んできた千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo(Future Robotics Technology Center)」所長も務める古田氏が、なぜ中小企業に注目するのか。4回にわたる連載記事の中でひも解いていきます。

「ロボット」は、人間の課題を解決するツール

「『ロボット』というと、アニメに出てくるような『手足のある人間型の機械』をイメージするかもしれません。しかし私が考えるロボットとは、『感じて、考えて、動く、賢い機械』。人間が仕事や生活の中で感じる課題を解決していけるツールの一つなんです」

fuRoの所長として新たなロボット技術・産業の創造を目指し、福島第一原子力発電所で使われた災害用探査ロボットや、「パナソニック株式会社」と連携して製品化した高性能ロボット掃除機、「アイシン精機株式会社」と共同開発した次世代型モビリティなど、多数のロボットを社会に送り出してきた古田氏はそう語ります。

先ほどの古田氏によるロボット像に、「ロボット政策研究会報告書〜RT革命が日本を飛躍させる」(2006年 経済産業省製造産業局)の「ロボットは、センサー、知能・制御系、駆動系の三つの要素技術を有する、知能化した機械システム」という考え方を掛け合わせると、(1)センサーで外部の状況を“感じ”て、(2)AIなど知能・制御系で物事を“考え”て判断を下し、(3)駆動系によって“動く”という、具体的で幅広いロボットのあり方が見えてきます。

「ロボット政策研究会報告書〜RT革命が日本を飛躍させる」および古田氏への取材をもとに編集部にて作成。
「ロボット政策研究会報告書〜RT革命が日本を飛躍させる」および古田氏への取材をもとに編集部にて作成。

省力化に加え、安全性や品質面の向上も

ロボットの活用は、仕事や生活にどんなメリットを生むのでしょうか。

「『省力化』というのは広く指摘されるところですが、それに加え安全性および品質の向上という面が大きいと考えています。例えば車の自動操縦が実現すれば、人為ミスが減って安全性はより高まりますし、工場でセンサーロボットを使って不良品の検査を行えば、より確実かつスピーディーな検品が実現できるでしょう」

さらにAIやITなどと異なり、ロボットは「現実社会で物理的な働きかけができる」のが特徴。今回のコロナ禍では、この点が脚光を浴びていると言います。

「人と人との接触が制限されるなかで、例えば病院でもSF映画に出てくるようなホームロボットが、入院患者に薬を運んだり、患者とコミュニケーションをとるなどして活躍しています。つまりロボットは、分断された人と人をつなぎ合わせることができる。ロボット技術の目的は、こうしてコミュニティを再生させることだと私は考えています」

日本社会のピンチをチャンスに変える可能性も

さらに、人間ができないことをできるようにサポートするロボットは、日本社会が直面するピンチをチャンスに変え得ると古田氏は力を込めます。

「高齢化はデメリットと捉えられがちですが、高齢者の認知機能や運動能力をロボットでサポートし、その知恵や経験を社会に活かせるようにすれば、高齢化が社会全体の生産性を高めるきっかけになるかもしれない。すると、高齢化先進国としてその技術を世界に売ることも可能になるわけです」

では、中小企業はロボットの可能性をどのような形で活かしていけるでしょうか。第2回では、ロボットで競争力強化を狙う企業が知っておくべきポイントを紹介します。

連載「中小企業は「ロボット」にどのように関わっていくべきか」

古田 貴之(ふるた・たかゆき)
千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo」所長

1996年、青山学院大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程中途退学後、同大理工学部 機械工学科 助手。2000年、博士(工学)取得。同年、科学技術振興機構のロボット開発グループリーダーとして、ヒューマノイドロボット開発に従事。2003年6月より、千葉工業大学 未来ロボット技術研究センター「fuRo(Future Robotics Technology Center)」所長。気鋭のロボットクリエーターとして世界的な注目を集め、政府系ロボット関連プロジェクトにも多数参画。企業連携も推進し、新産業のシーズ育成やニーズ開拓に取り組む。

取材日:2020年 5月22日