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電子出版業

2023年 7月 14日

トレンド

電子出版業のイメージ01

これまでの出版業界では、作家〜出版社〜取次〜書店〜消費者、という商流が通常であったのに対し、電子出版業界の商流はより柔軟で、それだけアイデア次第で多様なビジネスモデルを構築し、独自の顧客層を開拓する可能性がありそうだ。

作家個人が出版社や取次を通さずに、直接電子書店と契約し販売することも可能であり、また出版社自体がアプリを配布するなどして直販するケースも多い。電子出版においても取次業務を提供する事業者がおり、数多くある出版社と販売サイトとの間で書籍データや売上・支払データの管理、売れ行きなどマーケティングデータの提供など煩雑な業務の代行を行っている。

出版業界全体で見ると、ピーク時1996年の売上2兆6,564億円から2021年時点で1兆6,742億円と激減しているが、電子出版単体で見れば2014年の1,144 億円から2021年には4,662億円へと急成長している。また電子出版売上の内訳は、コミックが4,114億円と約9割近くを占めるのが現状だ。

出版物の推定販売金額
公益社団法人全国出版協会 出版科学研究所 掲載 ※取次ルート/出典『出版指標 年報 2022年版』
電子出版の市場規模
公益社団法人全国出版協会 出版科学研究所 掲載 ※取次ルート/出典『出版指標 年報 2022年版』

中でも、大手コミック雑誌に連載中の人気作品を、アプリを使って配信する形式のサービスは人気が高く、広告収入型やサブスクリプション型のモデルで大きく売上を伸ばしている。しかし、このモデルは営業利益率が10%前後と低く、配信業者が自社で作家を発掘するなどオリジナルコンテンツの開拓が課題となっている。

電子書籍の一形態として再び注目を集めているのが「オーディオブック」だ。プロのナレーターや声優が書籍の朗読を行い、アプリを用いてスマートフォンやタブレット、スマートスピーカーで聴取するサービスだ。もともとラジオ放送やカセットテープ・CDといったパッケージで普及していた形式だが、電子書籍と同様の配信方法でサービスが提供されるようになり、その便利さから新たな利用者層を獲得しつつ売上を伸ばしている。

スマートフォンの普及が「オーディオブック」の利用増を後押ししたのは明らかだが、米大手Amazon.comの子会社Audibleが2015年に日本市場へ参入したことで、さらに活性化し、国内でも2024年には260億円まで成長すると予測されている。

このように電子出版業界は、これからますます成長する兆しを見せているものの、コミックを中心とした豊富なコンテンツを所有する出版社や、会員を多数抱えるプラットーフォーマーの参入で寡占状態であるのは間違いない。

しかし、長い歴史の中で培われてきた出版業界の専門力や豊富なコンテンツをDXによって再活性化し、新たなターゲット層に向けて提供することで市場を切り開く余地は、まだまだあるはずだ。

電子出版業のイメージ02

電子出版業開業の人気理由と課題

人気理由

1. コンテンツのラインナップや提供方法次第で急成長が見込める

  • コミックなどの人気タイトルを揃えられればヒットが狙える
  • スマートフォンやタブレットの普及と共に売上が伸ばせる
  • サブスクリプション型など新しいビジネスモデルに対応できる

2. 従来の出版業に比べてコストを抑えた事業展開が可能

  • 紙、印刷、製本の費用が不要
  • 倉庫の確保や入出庫・配送の経費が不要
  • 紙の余剰消費などの環境負荷削減に貢献できる

3. データ管理の利便性を活かせる

  • コンテンツの改訂管理が簡単
  • マーケティング分析やプローモーション計画が実行しやすい
  • メディアミックスの展開を計画しやすい

課題

  1. 大手参入により寡占状態である
  2. コミック以外のコンテンツが伸び悩んでいる
  3. 従来の出版業から参入する場合、デジタル・コンテンツ制作や販売のノウハウが必要

電子出版業開業の9ステップ

電子出版業開業の9ステップ

電子出版業の商品企画と販売方法

これから電子出版業を開業しようという場合、どのようなコンテンツを扱うのか、どのように販売するのかを、まず決定する必要がある。コンテンツ配信に特化したサービスを提供するなら、電子書籍著作権代行業者を通して権利を獲得するか、作家と直接契約する方法がある。また、自社で作家を発掘したほうが、当然、営業利益率は高くなる。SNSやブログで既に多くのファンを集めている作家のコンテンツを出版するやり方なら、ある程度の販売数があらかじめ見込めるため有効だ。

また、これまで紙の書籍出版を長く続けてきた事業者であれば、そうした過去資産をデジタル化して再版するという活用方法もある。コンテンツの企画制作に集中するなら、電子書籍取次に委託すれば、複数の電子書籍書店との間のめんどうなやりとりをすべて代行してくれて便利だ。大手出版社らが株主となって、株式会社モバイルブック・ジェーピー、株式会社クリーク・アンド・リバー、株式会社ブックリスタ、株式会社メディアドゥ、株式会社ブックウォーカーといった取次の系列化が行われている。

いずれにせよ、電子書籍は再販制度の適用対象外で小売価格を指定できない。そこで、書店や取次との間で「ホールセール(卸売)」契約を結ぶ場合が多いが、書店が出版社の販売業務を代行する「エージェンシー(委託販売)」契約として、小売価格を出版社が決定する場合もある。ただし、エージェンシー契約のほとんどは、実績のある出版社と書店との間で決められているので、開業したばかりの電子出版社の場合、やはりホールセールで販売していくことになるだろう。

「ホールセール」の場合、一般的に,希望小売価格を100%とすると、そのうち出版社は約60%、電子取次は約10%、電子書店は約30%程度で設定されているが、版元の実績などによって多少の差が設けられている。ただし、書店によって条件はさまざまなので、マーケットの規模・ターゲット層・求めるクオリティ・予算などを熟慮し、流通・販売法を選択したい。

また、著作権などの侵害を防ぐため、コンテンツの利用や複製を制御・制限する技術や機能の総称を「デジタル著作権管理(DRM:Digital Rights Management)」という。それぞれの電子書店が利用しているアプリでなければ読むことができず、読者は読む権利を購入することになる。クリエイターや著作権者の権利を保護することに結びつくが、読者にとっては特定のデバイス、ビューアやアプリでしか読めず、一度購入したコンテンツが恒久的に読める保証はない。それに対してソーシャルDRMと呼ばれる配信方式では、書籍データそのものを購入することになり、購入すると電子透かしで個人情報を書き込まれるが、どのような閲覧環境でも読めるようになる、という仕組みだ。ユーザーの利便性と著作権の管理は、いずれも電子出版業に取り組む際には重要なポイントとなるため、最新の各社の対応を把握しておきたい。

以下は、電子出版業を含む出版社の黒字企業経営指標の概況となる。おおよその目安として参考にされたい。

電子出版業を含む出版社の黒字企業経営指標(参考)
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※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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