業種別開業ガイド
書店
2019年 11月 12日
トレンド
(1)市場規模縮小の一方で、新業態店が話題に
インターネット、スマートフォンの普及で若者中心に活字離れが進み、アマゾンなどのネット販売や電子書籍の利用拡大により書店で本を買う機会も減っている。2018年の書籍・雑誌の推定販売金額は1兆2,921億円で、14年連続のマイナスとなった(出典:(公社)全国出版協会・出版科学研究所)。市場の縮小に伴って書店の数も大幅に減少しており、特に個人経営の小規模店舗の減少が著しい。一方で、これまでになかった新業態の書店が相次ぎオープンし、SNSで話題になるなど注目が集まっている。
(2)カフェのある書店
蔦谷書店にスターバックスが併設されるなど、カフェのある書店も近頃は定番となりつつある。ドリンクやフードのメニューも充実させ、本を読みながらゆったり過ごせる空間を提供している。
(3)入場有料の書店
2018年12月に東京・六本木にオープンした書店「文喫」は、入場料1,500円で好きなだけ何時間でも過ごすことができる。あえてジャンル別に本を陳列せず、来店者に本との偶然の出会いを提供する仕掛けの店づくりが注目されている。
(4)品揃えを特化したセレクトショップ的な書店
全てのジャンルの書籍や雑誌を取り扱わず、特定のジャンルやコンセプトにこだわった個性的な品揃えで、規模は小さくても一定の支持を得ている書店もある。また、新品だけではなく古本や個人発行のリトルプレスなど、一般書店では取り扱わない商品を置いていることも多い。
ビジネスの特徴
書店では、店頭に並ぶ書籍のほとんどを取次店から仕入れている。取次店を通して仕入れるメリットは、新刊が自動的に配本されること、売れ残った書籍の返品を受け付けてもらえることである。デメリットは、粗利の低さである。日販やトーハンの大手取次店を通す場合、書店の取り分は定価のほぼ22%に固定されている。また、書籍は原則定価販売のみであり、書店の判断で値引き販売することはできない。なお、古書の仕入れは、古書組合加盟店で行われるセリ方式の交換会や古紙回収業者、一般の人からの買取りが主なルートとなる。この中でも特に大きいのは、一般の人からの買取りである。業態の性格上、収益をあげるにはまず売上冊数を増やし、商品回転率を高めることが必要である。それには、顧客層を把握し、自店の売れ筋が何かを見極めることが重要となる。全ての人を対象とした品揃えよりも、中心となる顧客層に訴求する商品構成や品揃え、わかりやすい売り場づくりなど、自店のカラーを出していくことが求められる。
収益向上のもう1つの手段は、粗利を高めることである。商品によっては仕入条件を買切にしたり、専門書などは出版社から直接仕入れたりすることで書店のマージン率を高めることができる。ただし、こういった取引では原則として返品を受け付けてもらえないため(買切でなければ、返品を受け付ける出版社もある)、自店の商品動向を把握してから行う方が望ましい。その他、売上全体における粗利を上げる手段としては、書籍以外の雑貨を扱う、カフェで飲食物を提供する、といったことが挙げられる。
開業タイプ
(1)セレクトショップ型
大型店やチェーン店、ネット書店との差別化を図り、小さくてもコンセプトやテーマをはっきりと打ち出した独自の品揃えを特色とする。1つのテーマのもと、小説、エッセイ、絵本、写真集、洋書、雑貨などジャンルを横断した品揃えを行い、定期的にブックフェアやイベントを展開する。
(2)カフェ、ギャラリー併設型
本屋の一角にカフェやギャラリー等を併設することで、本を買う目的以外の客の来店を促すことができる。ギャラリーでは展示以外にトークイベントやミニコンサートを行うこともある。
開業ステップ
(1)開業までのステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
(2)必要な手続き
新刊書店の場合、開業にあたっては特に許可等は必要なく、個人事業主の一般的な開業手続きとして都道府県や税務署への開業届出を行う。ただし、古本を取り扱う場合は古物営業法に基づき都道府県公安委員会の営業許可、カフェを併設する場合は飲食店営業許可がそれぞれ必要となる。また、カフェの調理担当者は、保健所主催の講習を受け、食品衛生管理責任者の認定を受ける必要がある。
商品である本を仕入れるために、取次会社との契約も必須となる。取次会社は日販やトーハンの大手取次が代表的であり、開業支援も行っているので、相談してみることをお勧めする。首都圏で開業する場合は、「神田村」と呼ばれる中小取次業者のグループを活用する手もある。それぞれ得意分野があり、大手に比べて小回りが利くなどのメリットがあるので、使い勝手の良い業者を見つけるのがよいだろう。
情報発信
小規模書店では、店の認知度を高めるために、ホームページを開設するほか、SNSの積極的な活用が欠かせない。SNSで売場や棚の写真、おすすめ本、新刊、イベント情報などをこまめに投稿し、来店を促すような情報発信をしていくことが重要である。また、ホームページにはウェブショップを開設し、独自のセレクトで店頭以外での販売機会拡大を図るなど、最大限活用していきたい。
必要なスキル
これから個人が書店を開業する場合、大手書店やチェーン店、ネット書店との差別化を図り、わざわざ足を運んでもらえるような店づくりをしなければ、事業継続は難しいと思われる。スペースが限られる中でどんな本を仕入れてどのように並べるかは、本に関する広い知識と選書・レイアウトのセンスがポイントとなる。
これに加えて自店の売上データや来店客の動向から、売れ筋の商品やジャンル、メインとなる顧客層を把握し、品揃えに反映させていくことが重要である。
また、出版社や取次からの情報は常にチェックし、話題になりそうな新刊は事前に発注をかけるなど、積極的に働きかけたい。
出版業界のトレンドや社会情勢、季節に合わせたブックフェアの仕掛けも、書店の主要業務の1つであり、企画力を発揮することが求められる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
ここでは初期投資を抑えるべく、比較的小規模な書店を賃貸で開業するケースを想定して、開業資金モデルを作成した。
【参考】20坪のセレクトショップ型書店を賃貸で開業する場合の必要な資金例
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、客数、平均客単価を以下のとおりとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※財務標準比率は、書籍・雑誌小売業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
書店に関しては、再販制度を背景として取次店経由の書籍販売における粗利益率はほぼ22%に固定され、雑誌や関連雑貨なども含めた全体の売上粗利益率でも32.2%と低位に留まっている。その粗利の中で人件費、家賃に加え万引き被害による商品ロスの補てん、書棚を含めた店舗造作への初期投資分も回収するビジネスモデルとなる。
従来型書店の閉店が相次いでいるなかで、採算を確保するには(1)客数か(2)客単価の増加を図るための施策が求められるところであり、(1)としてセレクトショップ化による固定客の獲得、(2)はカフェ、ギャラリー併設店が主なアプローチとして挙げられる。書店を開業し事業を軌道に乗せるには、そのような新たな切り口からの展開が望まれよう。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)