業種別開業ガイド

調剤薬局

2019年 11月 21日

トレンド

(1)医薬分業により爆発的に増加した調剤薬局

処方と調剤が分離したことで医師と薬剤師が完全に分かれ、それ以降薬剤師として薬局を開業する動きが起こり、爆発的に増加した。

2018年時点で、医薬分業率(外来で処方箋を受け取った患者のうち、院外の薬局で調剤を受けた割合)は70%を超えている。現在日本にある調剤薬局の数は、2017年度末で5万9,000軒を超えており、コンビニエンスストアの総数を上回っている。

(2)業界の現状

調剤薬局業界は一見、大手薬局、大手調剤チェーン、大手ドラッグストアなどがシェアの多くを占めているように思えるが、大手薬局や大手調剤チェーン、大手ドラッグストアのシェアは、トップ企業でわずか3%、年間売上高の上位10社合わせても13%という割合である。

調剤薬局の殆どは個人薬局で構成され、マーケット・リーダーと呼べる企業のいない低寡占市場であり、新規参入の余地は大きい。

(3)成長市場から成熟市場へ

2014年以前の調剤薬局の市場規模は減少傾向にあったが、シェア拡大を狙う上位調剤企業チェーンによるM&Aが活発に進められている。M&Aの件数は、2011年当時には48店舗であったが、2016年には720店舗まで増加し、市場の流れが大きく変わることとなった。

厚生労働省の発表によると、調剤薬局の市場規模は2016年時点で7.8兆円、成長率は前年比で9.3%となっている。

(4)薬剤師が一人のみの薬局の増加

内閣府の「調剤・薬剤費の費用構造や動向等」によると、薬剤師数が急増する一方、保険薬局の店舗数も同様に増加し、保険薬局当たり薬剤師数の増加は緩やかな伸びに止まっている。このため常勤薬剤師1人の薬局の比率が、全保険薬局の約半数を占め、特に人口密度の低い地域では、常勤薬剤師1人の薬局の割合が高い傾向も確認できるという。

ビジネスの特徴

医業分業が進む中にあって、大手ドラッグストア等が調剤分野に進出しており、競争が激化している。

このような環境の中で、地域の顧客とのコミュニケーションを密接に図ることの重要性が増しており、競合店の出店より顧客が減少していないかなどに注意する必要がある。

開業タイプ

(1)基準薬局

日本薬剤師会では、かかりつけ薬局の選択基準となるように基準薬局制度を設けている。日本薬剤師会が定めた基準を満たして都道府県の薬剤師会の認定を受けた保険薬局は、「基準薬局」を名乗ることができる。ただし2015年3月31日をもって日本薬剤師会の制度としては廃止し、都道府県の薬剤師会ごとの制度に移行している。

(2)かかりつけ薬局

2016年4月より、かかりつけ薬局、かかりつけ薬剤師の仕組みを盛り込むことが中医協より答申された。「かかりつけ薬剤師」は、患者から同意を得た薬剤師が、市販薬も含めて患者の服薬状況を把握し、24時間体制で相談に応じる。必要に応じて患者宅を訪問して残薬の整理もする。

(3)健康サポート薬局

かかりつけ薬剤師の基本的な機能を備えた上で、地域住民の健康づくりを積極的に支援する「健康サポート機能」を持つ薬局のこと。厚生労働大臣が定める一定の基準をクリアし、都道府県知事に届出を行った薬局だけが、健康サポート薬局と表示できる。

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

開店準備に関しては、薬事法の制約により、調剤室は6.6平米以上、店舗の総面積は19.8平米以上の規模が必要。加えて患者(顧客)のための待合室を最低6.6平米以上設置する事が必要であり、健康相談コーナーを設ける薬局も増加している。照明は調剤室で120ルクス以上、陳列交付場所で60ルクス以上など、その他建物の構造についても様々な制約がある。

(2)必要な手続き

調剤薬局開設にあたっては都道府県知事への許可申請が必要で、事業所に1人以上の薬剤師を置く必要がある。

関連法規として、薬事法、薬剤師法、健康保険法がある。そのほか、労働基準監督署への労災保険指定薬局指定申請などもある。

他社との差別化・商品構成

大手ドラッグストアや総合商社等が調剤分野へ進出するなど、薬局業界の競争が激しくなっている。競業店の出店や処方元医療機関の影響により、顧客が減少していないか、無理な投資をしていないかを考慮する必要がある。

また、患者数の季節的な変動を考慮した適正な在庫管理も必要となる。

必要なスキル

地域に在住する顧客とのコミュニケーションを密に図り、患者が店に対して信頼感・安心感を覚え、顧客の「かかりつけ薬局」としての機能を果たすことが必要となる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

施設を賃借する場合には、開業前の事務所設置費用や人件費などの先行資金負担を賄うため、売上が安定するまでの当面の運転資金の準備が求められる。

店舗の立地によってはスタッフや顧客の駐車場の費用もかかるため、その分も開業資金として必要となる。また、必要があれば、薬剤師会への入会金や年会費もかかる。

開業資金を自分で用意できない場合には、金融機関からの融資の検討も必要である。独立行政法人福祉医療機構の医師貸付事業では薬局も融資を受けられる。その他、政府系金融機関、都道府県の融資などがある。

【店舗面積100平米程度の調剤薬局を開業する際の必要資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

売上計画例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は医薬品小売業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

調剤薬局の収益源は、調剤に関わる技術料と薬価差益となる。商品価格は公定価格であり、報酬の70~80%が医療保険から支払われるため、売上回収の負担は少ない。

基本的に運転資金需要は旺盛ではないが、一定程度の在庫を持つ必要があり、この資金手当てとして借入が必要になることがある。このような在庫手当てのために、一定の手持ち資金を確保しておく必要はある。また、薬価が下がり、利幅が縮小傾向にあるなか、適正な在庫管理の重要性が増してきている。

その他、主な経費支出としては、人件費や施設の維持費が挙げられる。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

関連記事