人材関連

キャリアアップ助成金

2023年1月内容改訂

近年、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者等、正規雇用でない雇用形態で働く方(非正規雇用労働者)が増えています。企業が生産性を上げていくために、このような非正規雇用労働者が仕事ぶりや能力の評価に納得し、意欲を持って働ける職場環境づくりが求められています。

非正規雇用労働者の企業内のキャリアアップが重要

非正規雇用労働者の数は年々増加しており、労働力調査(基本集計)によるとその数は2,128万人に上ります(2022(令和4)年11月分結果))。これは雇用者全体の37.2%を占めます。非正規雇用を選択した理由はさまざまですが、その理由にかかわらず仕事ぶりや能力の評価に納得し、意欲を持って働きたいという思いを持っています。
企業が人材不足を改善するためには、労働者一人ひとりの生産性を上げ、同時に職場への定着を促すことが必要です。そこで、非正規雇用を取り巻く雇用環境を改善し、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の解消や、不本意非正規雇用労働者の正社員化につなげるため、「キャリアアップ助成金」を活用することができます。

キャリアアップ助成金の概要

キャリアアップ助成金は、正社員化や処遇改善の取組みを推進するためのもので、令和4年度は7コースが設けられています。まずは各コースの概要を確認しておきましょう(選択的適用拡大導入時処遇改善コースは令和4年9月末をもってコース廃止のため割愛)。

コース

取組内容

支給額

(1)正社員化コース

有期雇用労働者等の正規雇用労働者に転換または直接雇用

57万円/人

(2)障害者正社員化コース

障害のある有期雇用労働者等を正規雇用労働者等に転換

120万円/人

(3)賃金規定等改定コース

有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し3%以上増額

50,000円/人

(4)賃金規定等共通化コース

有期雇用労働者等と正規雇用労働者との共通の賃金規定等を新たに規定・適用

57万円/事業所

(5)賞与・退職金制度導入コース

有期雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し支給又は積立てを実施

38万円/事業所

(6)短時間労働者労働時間延長コース

有期雇用労働者等の週所定労働時間を3時間以上延長し、社会保険を適用

22.5万円/人

※支給額は各コースの中の代表的なもの(生産性向上に関する要件を満たしていない場合)を記載しています。ケースにより支給額は異なりますので、詳細は厚生労働省の案内をご確認ください。

正社員化コースの助成を受ける要件(労働者)

7つのコースのうち、ここでは活用している企業が最も多い(1)正社員化コースについて見てみます。なお、ここで見るのは代表的な要件のみで、要件のすべてを挙げているわけではありません。詳細は厚生労働省のホームページに掲載されているパンフレット等をご参照ください。

正社員化コースは、有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換または直接雇用した場合に助成を受けることができます。転換前後の雇用形態と助成金の支給額をまとめると、次のようになります。

転換前

転換後

支給額

有期雇用労働者

正規雇用労働者

57万円/人

無期雇用労働者

正規雇用労働者

28.5万円/人

いずれのパターンも、より安定した雇用形態への転換を推進するものです。ここでの正規雇用労働者には、勤務地、職務内容、勤務時間等を限定した「多様な正社員」も含まれます。

以下に、正社員化コースによる助成の対象となる労働者の要件の概要を列挙します。

ア.一定の要件を満たす有期雇用労働者または無期雇用労働者
賃金の額または計算方法が正規雇用労働者と異なる雇用区分の就業規則等の適用を通算16か月以上受けて雇用される労働者や、有期実習型訓練(人材開発支援助成金(特別育成訓練コース)によるものに限る。)を受講し、修了した労働者が対象となります。

イ.正規雇用労働者として雇用することを約して雇い入れられた有期契約労働者等でないこと
有期雇用労働者等の処遇改善を目的とするものですので、最初から正規雇用となることが決まっている場合は対象になりません。

ウ.以前にその企業やその企業の親会社・子会社等で正規雇用労働者として雇用された者でないこと
転換日または直接雇用日の前日から過去3年以内に、正規雇用労働者であった者は対象になりません。

エ.転換または直接雇用を行った適用事業所の事業主または取締役の3親等以内の親族以外の者であること

オ.就労継続支援A型の事業所における利用者以外の者であること

カ.支給申請日において、転換または直接雇用後の雇用区分の状態が継続し、離職していない者であること

キ.支給申請日において、有期雇用労働者または無期雇用労働者への転換が予定されていない者であること

ク.転換または直接雇用後の雇用形態に定年制が適用される場合、転換または直接雇用日から定年までの期間が1年以上である者であること

ケ.支給対象事業主または密接な関係の事業主の事業所において定年を迎えた者でないこと

正社員化コースの助成を受ける要件(事業主)

続いて、対象となる事業主の要件の概要を見てみます。

ア.有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換する制度を労働協約または就業規則その他これに準ずるものに規定していること
社内の制度として、正規雇用への転換をきちんと規定しておく必要があります。

イ.上記ア.の制度の規定に基づき、雇用する有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換したこと
制度を作った後に転換を行うものであって、転換した後に制度を作っても助成の対象にはなりません。

ウ.上記イ.により転換された労働者を、転換後6ヵ月以上の期間継続して雇用し、当該労働者に対して転換後6ヵ月分の賃金を支給したこと
より安定した雇用形態への転換を推進するものですので、転換後すぐに離職していた場合は対象になりません。

エ.多様な正社員への転換の場合にあっては、上記ア.の制度の規定に基づき転換した日において、対象労働者以外に正規雇用労働者を雇用していたこと
多様な正社員は、勤務場所や職務内容が限定されている労働者です。そのほかに、これらが限定されていない正規雇用労働者がいなければなりません。

オ.支給申請日において当該制度を継続して運用していること
正社員化の制度を社内に定着させることを推進する助成金ですので、すぐに制度をやめてしまうようでは対象となりません。

カ.転換後6ヵ月間の賃金を、転換前6ヵ月間の賃金より3%以上増額させていること
賃金は基本給および定額で支給される諸手当の総額です。

キ.所定の期間内に、雇用保険被保険者を解雇等事業主の都合により離職させていないこと
所定の期間は、転換日の前日から起算して6ヵ月前の日から1年を経過する日までの間です。

ク.所定の期間内に、特定受給資格離職者として受給資格の決定が行われたものの数が、その事業所における転換日の雇用保険被保険者数の6%を超えていないこと
所定の期間は、転換日の前日から起算して6ヵ月前の日から1年を経過する日までの間です。

ケ.雇用する労働者を他の雇用形態に転換する制度がある場合にあっては、その対象となる労働者本人の同意に基づく制度として運用していること

コ.正規雇用労働者に転換した日以降の期間について、その者を雇用保険被保険者として適用させていること

サ.正規雇用労働者に転換した日以降の期間について、その者が社会保険の適用要件を満たす事業所の事業主に雇用されている場合、社会保険の被保険者として適用させている、または社会保険の適用要件を満たさない事業所の事業主(任意適用事業所の事業主、個人事業主)が正規雇用労働者に転換させた場合、社会保険の適用要件を満たす労働条件で雇用していること

正社員化コースの助成を受ける手続き

正社員化コースを受けるためには、労働者、事業主のそれぞれに多くの要件が求められます。これらを満たしつつ制度を適用していくことに留意してください。全体のスケジュール例を以下に示します。

キャリアアップ計画の作成・提出→就業規則等に転換制度を規定→転換に際し、就業規則等の転換制度に規定した試験等を実施→正規雇用等への転換の実施→転換後6ヶ月の賃金を支給→(2ヵ月以内)支給申請→支給決定

まとめ

  1. 非正規雇用労働者の処遇を改善しつつこれらの労働者を活用するために、キャリアアップ助成金が利用できる
  2. 正社員化コースは、有期→正規、無期→正規への転換に活用できる
  3. 満たすべき要件が非常に多いため、あらかじめ整理して準備をしておく必要がある
  4. 毎年度、内容が変更されるため、注意が必要である