経営ハンドブック

小売業の生産性向上

2024年 1月 19日

小売業の生産性向上のイメージ01

付加価値の高い商品を売ると共に適切なコスト管理を目指す

大手の企業が全国各地にコンビニや大型店舗を展開する一方、地元の商店は廃業に追い込まれ、商店街がシャッター通りと化する事例もあるように、中小規模の小売業は必ずしも順風満帆とは言えない状況にある。

また、人口減少の影響で市場の拡大は困難となっており、販売額も頭打ちの状況にある。さらに、人手不足による人件費の高騰も問題だ。こうした中で、中小規模の小売業が生き残るためには、まず生産性の向上が求められている。

生産性とはモノやサービスをいかに少ない資源で効率的に生み出させているかを示す指標で、様々な種類があるが、中でも重要なのは、労働者1人当たり、あるいは労働1時間当たりで如何に高い成果を上げるかを示す労働生産性である。

労働生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性がある。中小規模の小売業の場合、重視すべきなのが、付加価値労働生産性である。粗利の高い商品を多く売ることによりこの数値を上げることができる。同時に、商品を販売するためにかかる費用を示す売上高販管費率を下げることも大切だ。業務の標準化、IT化・DXの推進、AIの導入などは有効な手段となろう。

小売業の生産性を向上させるためのポイント

  1. 質の高い独自商品を揃えることで他社と差別化すると共に地域外需要の獲得につなげる
  2. 業務の標準化を図ったうえで、非効率な商慣習と従来型の来店促進型小売経営を見直す
  3. IT化・DXの推進、AIの導入を進める

1.質の高い独自商品を揃えることで他社と差別化すると共に地域外需要の獲得につなげる

生鮮食品や日用品を販売する小売業の場合は、扱う商品が他社と同じような品ぞろえになりがちだ。ただ、他社と同じものを扱っているだけでは、顧客は安いお店へと流れてしまう。大量に仕入れて安く販売する大手の小売店との価格競争に巻き込まれ、業績改善は見込めないばかりか、売上げが下降線をたどりかねない。

そこで、近隣の競合店では扱っていない質の高い独自商品を開発したり、仕入れることが一つのポイントとなる。質の高い商品により、しっかり粗利を出せるように、価格を妥協しないことが大切だ。こうした商品をできる限り多く売ることで、付加価値労働生産性を高めることができる。

独自商品によって他社との差別化を図ると共に、顧客には、価格の安さではなく、商品の質の高さ、生産者のこだわり、おすすめの調理法等を積極的に発信することにより、顧客単価、顧客数、売上高の増加に成功した地方のスーパーもある。山梨県北杜市という地方都市、従業員26名、資本金800万円という中小規模のスーパーでありながら、こうした取り組みにより、全国から足を運ぶ顧客が増え、新規出店なしで地域外需要の獲得にも成功したという。【事例】株式会社ひまわり市場(山梨県北杜市)

粗利の出る質の高い商品を扱っていても顧客が来なければ意味がない。特に地方の場合など、人口減少が進む中では、地域外需要の獲得も大切だ。

「ふるさと名物」と銘打ち、その地方でしか扱っていない商品を取り扱うことも地域外需要の獲得に有効だ。地域産業資源を活用し、商品やサービスの付加価値を高めてブランド化を目指す試みを市町村が支援する仕組みもある。ふるさと名物応援宣言、ふるさと納税返礼品開発支援事業などだ。とりわけ、ふるさと納税返礼品は、自社の商品を全国にアピールできる格好の場なので、製造小売業なら積極的に活用すべきだろう。

また、コロナ禍からのインバウンドの回復により外国人旅行者が増えている今は外国人旅行者の取り込みも積極的に行うべきだろう。

2.業務の標準化を図ったうえで、非効率な商慣習と従来型の来店促進型小売経営を見直す

小売業ではベテランの従業員による業務の属人化も問題視されている。業務の属人化が進んでしまうとベテランの従業員の不在時や退職後、店舗運営が行き詰まってしまう。また、業績拡大などで対応量が倍増した場合は、一人や数人の従業員で対応できる量は限られているから遅滞が生じてしまう。そこで、誰でもすぐに業務ができるように、業務の標準化を進めると共にマニュアルを作成することも大切だ。

小売業では、非効率な商慣習が残っていることも問題だ。非効率な商慣習としては、3分の1ルール*が知られているが、消費者にとってメリットがある一方、食品ロス問題の原因ともなっている。そこで経済産業省と農林水産省が3分の1ルール見直しを呼び掛けており、メーカーや卸、小売りなどが連携して見直しが進められ、食品業界全体で2分の1ルールへ緩和する取り組みが進んでいる。また、メーカーも賞味期限の年月日表示から年月表示や日まとめ(例えば10日単位の年月日表示)といった大括りへの変更を進めている。中小規模の小売業も、こうした動きに合わせて、商慣習の見直しを進め、業務の効率化につなげるべきだろう。

*3分の1ルール……食品の流通過程において、製造者(メーカー・卸)、販売者(小売り)、消費者の三者が、製造日から賞味期限までの期間を3分の1ずつ分け合うというもの。メーカーが製造した商品を卸が納品期限(最初の3分の1)までに小売りに納入できなかった場合は卸からメーカーへ返品され、販売期限(次の3分の1)までに小売りが消費者に販売できなかった場合は、小売りから卸に返品される。消費者には商品購入後少なくとも3分の1以上の賞味期間が残ることになる。

さらに、従来型の来店促進型小売経営も見直すべきだろう。人口減少や高齢化、単身世帯の増加、地元小売業などの商店街の衰退により、全国各地で食品アクセス(買い物弱者等)問題が生じている。顧客が店に来店するのを待つだけでは、労働生産性は上がらない。ネットスーパー、宅配、買い物代行サービスや移動販売などの取り組みも行うべきだろう。こうした取り組みも大手小売業が先行しているが、大手が対応していないエリアや扱わない商材もあるため、中小規模の小売業にも参入の余地がある。商品の配達だけでなく、御用聞きとして身の回りの困りごとに対応することで高齢者層との関係を強化することも有効だろう。

オンラインでのPRや販売も重要になる。実店舗への来店を促すためにSNSを利用するべきなのは言うまでもない。SNSの活用により、商品やサービスを地域外へも発信できる。地域内に向けても、新商品やセールなどの最新情報をリアルタイムに提供できる。情報拡散により、潜在顧客の掘り起こしにもつながる。双方向のコミュニケーションにより、顧客に信頼感や特別感を与えることができ、ファン獲得につなげることもできる。

さらに、実店舗と合わせてECサイトを開設することも有効だ。経済産業省の令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)によると、BtoC-EC(消費者向け電子商取引)市場規模は、2年に19.3兆円、3年に20.7兆円、4年には22.7兆円と年々上昇し続けている。

また、全ての商取引金額(商取引市場規模)に対する、電子商取引市場規模の割合を示すEC化率も、書籍、映像・音楽ソフトでは、3年の46.20%から4年に52.16%へと上昇。EC化率が低い食品、飲料、酒類でも3年の3.77%から4年に4.16%へ上昇している。書籍、映像・音楽ソフトのようにEC化率が高い分野の商品を主に扱う小売業の場合は、ECサイトの開設は不可欠と言ってもよいだろう。

物販系分野のEC化率(令和4年)

ネットスーパーやSNS、ECサイトの運用も当初は、新たな人材が必要になるが、早期に業務の標準化を進めると共にマニュアルを作成し、誰でも対応できるようにすべきだ。

3.IT化・DXの推進、AIの導入を進める

小売業は、レジ打ち、バックヤードでのパッキングなど人手が必要な業務が多いこと、営業時間が長いことなどの理由により、人手不足、長時間労働が課題となっている。これらを解決するために注目されているのが、キャッシュレス(スマート決済)、電子タグ(RFID)、電子レシートなどによるスマートストアの取り組みである。

最近では、無人決済システムを利用した無人店舗も全国で広がりつつある。顧客は、棚から商品を取って出口付近に向かうと決済端末のディスプレイに商品が自動表示されて、自分で決済できると言うものだ。さらに、ウォークスルー型店舗(レジ無し店舗)といい、スマホの専用アプリにより、レジなしの自動決済ができる店舗も出てきている。顧客は、決済すらせず、棚から商品を取って店から出るだけでよいというものだ。

こうした無人店舗は、棚に重量を測る機能を搭載し在庫管理を自動で行っていたり、キャッシュレス決済により、現金の管理を必要としないなど、省力化、省人化が徹底している。人手不足により、人件費が高騰している中では、中小規模の小売店としても、こうしたICTシステムの導入も検討すべきだろう。

さらに、AIの導入も有効だ。小売業におけるAIの活用例としては、売上や需要を予測してもらう方法が知られている。小売業界では、何が売れるのか、どれだけの在庫を仕入れるべきかは経営者やベテラン店員の勘と経験に頼っていた。これをAIに置き換えることで、より精度の高い予測が可能となる。

店舗内のカメラとAIを連動することで、顧客の行動を分析し、顧客がどの商品に興味を持つのか分析できる。また、売上データと地域住民の特性や経済状況、地域の天気予報などのデータを組み合わせて、AIに分析させることで、過不足のない在庫管理を目指すことができる。棚の欠品状態や備蓄数もAIに分析させることで、必要な発注数を自動的に計算してもらうことができ、在庫管理業務の効率化にもつなげられる。

もっともこうしたICTシステム、AIを導入するためには、一定の投資が必要になるし、運用するための人材も必要になる。スマートストアの普及、技術革新により、将来的には導入コストが下がるだろうが、中小規模の小売店にとっては、現在のところは、導入を慎重に検討する必要がある。

また、リアル店舗に来店する顧客は、接客、試食、実物を見て試すと言った、人を介したリアルな買物体験を重視していることがあるため、無人化により、顧客満足の大幅な低下を招きかねない懸念がある。そこで、顧客への接客の質の向上を図りつつ、主にバックヤード作業の省力化、省人化を重点的に進めるべきだろう。

関連リンク