経営ハンドブック

恒常的な改善提案環境の整備

ノルマやインセンティブを使って環境をつくる

小さな改善でも、それが積み重なれば生産性を高められる。工場でもオフィスでも、積み上げていく改善には意味がある。例えば、小さな改善が1日5分の作業短縮でも、年間稼働日が250日であれば、5分×250日=1250分(20時間50分=1人がおよそ2日半働く時間)の効果があるし、このような小さな改善の数が増えれば大幅な改善を実現できる可能性もある。

生産性向上への基本的な取り組みは、経営者が生産性向上に懸ける想いを従業員に語り、社内に生産性向上プロジェクトを創設、組織的な改善活動として、リーダーのプランの下、現場の従業員たちと共に実施する。

ここでは、日頃の業務の中で、個々の従業員が、生産性を阻む要因と障害の発見やそれを改善する策について、日々意識し、発言していく環境を社内に作り出すことについてまとめておく。この環境づくりは、改善提案の恒常化、また新たな組織的な生産性向上プロジェクト創設のきっかけとしていくことも狙う。

恒常的な改善提案環境を整備する際のポイント

  1. シンプルな仕組みを作る
  2. 恒常化のためにはノルマも必要
  3. インセンティブを用意する

1.シンプルな仕組みを作る

多くの従業員にとって、自分たちが日頃携わっている業務の特異性(問題点、癖)を発見し、その改善を提案することは実際には難しい。いつもの業務の進め方に慣れているため、相当客観的にならない限り、業務で発生しているムダな作業や望ましい業務の進め方に気づかないからだ。

ムダや改善策を発見できたとしても、これを経営者やリーダーに伝えるのも実は簡単ではない。場合によっては図などを使って表現しなければならない。例えば、安全対策であれば、現場の危険な状況を一目で分からせるために、写真を撮るという手間が掛かるだろう。改善策の提案についても、予想される効果について、人件費や原料費の削減値など具体的な数字と共に示す必要もある。

だからこそ、少しでも提案の負担を軽減できるように環境を整える必要がある。まず用意しておきたいのが、書式が統一された提案用紙だ。工場や店舗の改善から、事務作業の効率化まで1枚で表現できるテンプレートにする。これがあれば誰から提案があっても見やすい。パソコンでも手書きでも記入できるようにしておけば提案者を選ばない。

2.恒常化のためにはノルマも必要

ボトムアップ型の改善提案制度の創設では、提案の恒常化を図りたい。そのためには制度の運用の始め方に工夫が必要だ。制度や書式を整えても、実際に提案されなければ成果は出ない。そこで導入当初はある程度のノルマを設定する。ノルマが重すぎると逆効果になるため、毎月1つずつぐらいから始める。その際リーダーには、提出期限まで待つのではなく、毎週、従業員に対して進捗を確認するよう指示しておく。

制度導入当初は、ちょっとした安全対策や資材の節約など、小さな改善案が出てくることが多い。とはいえ、提案が続けば改善効果の大きい提案やユニークなアイデアなども出てくるようになる。優れた提案については発表や表彰を通して、その提案内容や提案方法を従業員同士で共有する。こうすることで従業員の改善視点や提案スキルを養うこともできる。

3.インセンティブを用意する

改善提案制度が機能している企業のほとんどで、人事評価制度に生産性向上への取り組み度合いを評価項目として設定していたり、提案や改善に対して報酬を出したりする仕組みを導入している。

評価制度では、生産性向上活動に対する取り組み姿勢の度合い、効果の金額的貢献度などを半期、あるいは年度で評価する。場合によっては、臨時の報酬を出してもいいだろう。

例えば、臨時に報酬を出す場合でも、提案の完成度、実施後の効果の大きさを検討し、数万円から100万円程度までの報酬を支払う取り組み、また改善提案すれば内容にかかわらず提案数単位で支払う仕組みもある。提案内容に関わらない報酬を出すケースでは、できるだけ多くの従業員に多くの改善提案をさせたいという目的で、報酬の単価を1提案につき数百円程度に抑え提案者に漏れなく支払う。

【事例】実際に企業で使用されている改善提案制度の資料

紙1枚で、改善前と後、効果金額などが分かるようにまとめている点が特徴だ。

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