法律コラム

フリーランス保護新法(第2回)ー報酬支払期日の設定・期日内の支払いー

2024年 9月 6日

当コラムでは、2024年11月1日より施行されるフリーランス保護新法における「報酬支払期日の設定・期日内の支払い」について解説を行います。報酬に関しては、特に業務委託先であるフリーランスとの間でトラブルが起きやすいため、しっかりと内容を把握しておきましょう。また、フリーランスとの業務委託に際して、禁止される事項についての解説も行います。こちらも取引の際に重要となるため、併せて確認してください。

1.下請代金支払遅延防止法や労働基準法による保護

下請代金支払遅延防止法(以下「下請法」)においては、親事業者による下請代金支払期日について、給付受領日後(役務提供委託の場合は役務が提供された日)から起算して60日以内の設定が義務付けられています。また、設定された支払期日内における全額の支払いも同様です。この義務に違反した場合には、公正取引委員会等による勧告や企業名の公表だけでなく、刑事罰の対象にもなり得ます。コンプライアンスが重視される現代の社会では、十分な抑止力といえるでしょう。しかし、資本金等の要件が存在する下請法では、フリーランスを広範に保護することはできません。

企業に雇用される労働者には、労働基準法(以下「労基法」)に定められた賃金支払い5原則に則った賃金の支払いが必要です。この原則により、賃金は「通貨で直接労働者に、その全額を毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う」ことが企業に義務付けられています。労働者については、労基法により期日通りの支払いが確保されているわけです。しかし、雇用されることなく働くフリーランスには、この原則は適用されません。そのため、フリーランスへの報酬支払いを確保するためには、下請法や労基法とは別の法律による規制が必要となります。

2.なぜ支払期日の設定や期日内の支払いが必要か

第1回(書面等による取引条件の明示)で説明しましたように、フリーランス保護新法では取引に際して、報酬の額や支払期日を書面等で明示することが義務付けられています。報酬に関しては、特にトラブルが起きやすくなっているため、当事者間でしっかりと金額や期日について確認しなければなりません。

フリーランス保護新法では、報酬に関して書面等での明示だけでなく、支払期日を設定し、期日内に支払うことも同様に義務付けています。ただし、支払期日は自由に定められるものではなく、一定の制限が課されています。

期日の設定を義務付けても、力関係において優位に立つ発注事業者が決めた期日であれば、どれだけ不利な内容であっても、フリーランスは従わざるを得なくなるでしょう。しかし、それでは期日の設定を義務付けた意味がありません。また、期日自体が適正なものであっても、期日内に支払いがなければ、同様に設定を義務付けた意味がなくなります。そのため、適正な支払期日の設定と支払いの確保により、不当な支払い遅延などからフリーランスを保護するためには、両当事者の自由意思に任せるのではなく、法による厳格な制限が必要になるのです。

3.適正な支払期日の確保

フリーランス保護新法第4条では、特定業務委託事業者である発注事業者は、「発注した物品等を受領した日から起算して60日以内に報酬の支払期日を定め、期日内に報酬を支払わなければならない」と定められています。

この60日は最長期間であり、同条では「60日以内のできるだけ短い期間」を定めることを求めています。また、この義務は発注事業者が、受領した物品等の検査を要するか否かを問いません。そのため、検査のために時間が必要であるとして、60日を超える期間を定めることは許されません。

(1)期間未設定や超過の場合

明確な支払期日を定めないまま、業務委託を行った場合、期日はどのように扱われるのでしょうか。また、定めた支払期日が60日を超えている場合も考えられます。そのような場合には、次のように期日を定めたものとして、支払期日が法定されます。

【当事者間で支払期日を定めなかったとき】
当事者間で支払期日を定めなかったときには、「発注した物品等を実際に受領した日」が支払期日となります。

【物品等を受領した日から起算して60日を超えて定めたとき】
定めた期間が60日を超過している場合には、「受領した日から起算して60日を経過した日の前日」が支払期日となります。

(2)再委託の例外

元委託者から委託された業務を、フリーランスに再委託する場合もあります。このような場合、再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることが可能です。ただし、再委託に際して必要事項を明示することが必要なため、注意してください。また、この場合における元委託支払期日とは、実際に元委託者から支払われた日ではなく、元委託者と発注事業者たる特定業務委託事業者との間で定められた支払いの予定期日となります。

4.特定業務委託事業者の遵守事項

フリーランス保護新法では、フリーランスに対する業務委託に際して、発注事業者に以下の5つの行為を禁じています。

(1)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒むこと

(2)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること

(3)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと

(4)通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること

(5)正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること

また、業務委託に際して、以下の2つの行為によって、フリーランスの利益を不当に害してはならないとされています。

(6)自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること

(7)特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること

上記は、いずれも発注事業者に対して弱い立場にあるフリーランスを保護するための規定です。なお、上記の規定はフリーランスに業務委託を行う全ての発注事業者に課せられた義務ではありません。政令で定める期間(1か月)以上の業務委託の場合に適用されます。これは、一般的に契約期間が長いほど、発注事業者とフリーランスとの間に経済的な依存関係が生じ、発注事業者から不利益な取扱いを受けやすい傾向にあることがその理由です。

それでは、禁止事項を個別に見ていきましょう。

(1)受領拒否の禁止
フリーランス保護新法では、フリーランスに責任がない場合の発注事業者による受領拒否を禁止しています。受領拒否には、発注事業者の一方的都合によって発注が取り消された場合の受取拒否も含まれます。

(2)報酬減額の禁止
フリーランスに責任がある場合を除いて、報酬を減額することは禁止されます。たとえ、減額についてあらかじめ同意があったとしても、それがフリーランスの責任によるものでなければ、理由の減額として同規定に触れることになります。

(3)返品の禁止
フリーランスに責任がないのであれば、受領した物品等を返品してはいけません。検収の有無を問わず、事実上、発注事業者の支配下に置けば受領に該当するため、それ以降の返品は問題となります。

(4)不当に低い報酬額設定の禁止
フリーランスに支払われる報酬は、通常の対価と比較して著しく低いものであってはなりません。報酬額は、以下の要素を考慮して決定することが必要です。

  • 対価の決定方法
  • 差別的であるかなど対価の決定内容
  • 同種又は類似品等の市価との乖離状況
  • 給付に必要な原材料等の価格動向

(5)物品の購入等の強制禁止
発注する物品の品質維持などの正当な理由がないにも関わらず、発注事業者の指定する物品の購入や、役務を提供させることは禁止されます。

(6)経済上の利益の提供禁止
業務委託に際して、発注事業者のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させる行為は禁止されます。利益の提供が以下に該当するような場合には、同規定の問題となります。

  • 提供が特定受託事業者の直接の利益とならない場合
  • 特定受託事業者の利益との関係を明確にしないで提供させる場合

(7)内容の変更・やり直し
正当な理由がある場合でなければ、内容の変更や、やり直しを要求してはなりません。これには、発注事業者が作業に当たって負担する費用を支払わず、一方的に発注を取り消すことも含まれます。

5.適切な支払期日の設定と禁止事項の遵守を

業務委託に際しての報酬は、発注事業者とフリーランスの双方にとって、非常に重要な要素です。コストを抑えたいあまり、不当な廉価で業務委託を行ってしまう場合や、資金繰りの都合から支払いが遅延してしまう場合もあるでしょう。しかし、フリーランス保護新法では、それらの行為は全て禁止されています。トラブルの発生を防ぎ、フリーランスとの間に良好な関係を築くためにも、適切な支払期日の設定と禁止事項の遵守を心掛けましょう。

監修

涌井社会保険労務士事務所代表 社会保険労務士 涌井好文