ビジネスQ&A

自社のアイデアや技術を保護するにはどのようにしたらよいでしょうか。

2024年 12月 6日

最近自社で販売している商品の模倣品や類似品が市場に出回るようになり、苦慮しております。知的財産である自社のアイデアや技術を保護するためには、どのような方法があるのかを教えてください。

回答

ビジネスにおいて自社の技術やアイデアを保護することは、他社との差別化を図り、競争優位性を維持する上で非常に重要な取り組みです。技術やアイデアの保護に最も有効な手段は、知的財産法に基づいて法的な保護を受けることです。知的財産の主なものとして、産業財産権に属するものとして発明を保護する特許権や、考案を保護する実用新案権、デザインを保護する意匠権、ロゴやマークを保護する商標権が挙げられます。また、不正競争防止法では商習慣や商業道徳に反する行為から知的財産を保護することができます。法的保護以外の観点では、技術の核となる部分をブラックボックス化し、模倣困難性を高めることで物理的に他社からの模倣を防ぐこともできます。
本稿では、技術やアイデアの保護のために有用な特許権および実用新案権、その他の保護手段について記述します。

1.特許権について

自社の技術やアイデアを保護するための最も有効な手段は、知的財産法により法的に保護を受けることです。特許権は、特許法に定められる「発明」を独占的に実施できる知的財産権のひとつです。発明の独占実施、通常実施権の設定によるライセンス料取得、第三者の不正な実施の排除など、企業において非常に強力な模倣防止手段となります。ただし、要件が厳しく権利取得まで時間を要する点は留意する必要があります。

(1)特許権の要件について

特許成立のためには、特許法に定められた特許が受けられる発明の条件を満たす必要があります。

【産業上の利用可能性】

一般産業として実施できる発明である必要があります。例えば、個人的に利用される発明(職人が一つずつ手作りするものなど)や、学術的・実験的にしか利用できない発明は対象外となります。

【発明の新規性】

今までにない新しいものでなければなりません。特許の出願前にすでに公然のものや広く実施されているもの、書籍やインターネットの情報で公衆が利用可能になっているものなどは新規性を喪失しているものになります。ただし、発明者自身によって公知となっている場合(自身のセミナーで発表したなど)は「新規性喪失の例外」が適用され、新規性を喪失してから1年以内であれば、所定の手続きにより新規性を喪失していない状態であるとみなされます。

【発明の進歩性】

一定程度、既存の技術を卓越している必要があります。従来からある技術を少し改良したものは進歩性があるといえず、要件を満たすことができません。

(2)特許権の取得手続きについて

特許を受ける権利は発明が完成した時に、その発明をした個人に原始的に発生しますが、保護される期間は「出願から20年間」です。また「先願主義」の考えにより、同じ発明をしても完成時期の早さではなく、「先に特許庁に出願した者」に特許権が与えられます。以上のことから、特許の取得を検討しているのであれば登録出願の時期が非常に重要になります。取得の手続きは大きく3段階に分かれます。

【第一段階(出願~方式審査)】

特許を受けるためには、まずは申請書類(願書+明細書)を作成し、特許庁へ特許出願を行います。特許庁では書類が規定通りに作成されているかどうかの方式審査が行われます。なお、出願から1年6か月が経過すると出願公開として発明内容は自動的に公開されることになります。ただし、出願公開に対しては第三者の盗用・模倣の機会を防止するため、補償金請求権が認められています。

【第二段階(実体審査~特許査定)】

方式審査を通過した後、出願者は出願審査請求を行うことができます。期限は出願から3年以内です。審査請求により発明が特許に値するか否かの実体審査が行われ、拒絶理由がないと判断された場合は特許すべき旨の査定が行われます(特許査定)。また、出願審査請求を行わない場合でも「特許出願中」と表記することができます。消費者の興味を引くことや、他社の模倣意欲を削ぐ(先願主義に基づき)ことなどにつながり、経営戦略的な価値は大きいといえます。

【第三段階(設定登録~特許公報掲載)】

特許査定の通知を受けた後に、特許料を納付すると特許としての設定登録が行われ、特許権を得ることができます。特許証の発行および特許公報への掲載により、広く公開されることとなります。

2.実用新案権について

技術やアイデアを保護する手段は特許権のみではありません。類似した手段として、実用新案権により技術やアイデアを保護することができます。実用新案権とは実用新案法に基づく権利です。特許の付与対象が発明であるのに対して、実用新案権は物品の構造や形状、またはこれらの組み合わせとなる考案に付与される独占権となります。特許ほど取得要件が厳しくなく、取得までの期間も短いことなどから取得のハードルが低く、技術やアイデアの種類、内容によっては実用新案権の方が適しているケースも多くあります。

(1)実用新案権取得までの流れ

実用新案権は特許と異なり、実体審査が行われません。そのため、出願と同時に3年分の登録料を支払い、書類の方式審査を通過すればそのまま設定登録を行うことができます。ただし、出願の際には必ず「図面」の提出が求められます。また、設定登録後は実用新案公報に掲載され、公知されることになりますが、実用新案権の無効審判請求は、いつでも、誰でも行える点に注意しておく必要があります。

(2)特許権との相違

実用新案権が特許権と異なる点は以下の通りです。

  • (実用新案権は)物品に関するもののみが対象となる
  • (実用新案権には)実体審査が存在しない
  • 登録までにかかる期間が短く、費用も安価である
  • 権利の存続期間が出願から10年間と、特許より短い
  • 差止請求など権利行使のためには技術評価書の提示と警告が必要になる

上記のとおり、実用新案権は特許よりも取得が容易ですが、権利存続期間が短いことや差止請求などの権利行使に手間がかかることなど、デメリットもあります。しかしながら、こうしたデメリットを考慮しても、寿命が短い商品や模倣困難性の低い(真似されやすい)商品の場合は特許取得よりも実用新案権を早期取得するほうが適しているといえるでしょう。

(3)その他の留意点

実用新案権の活用に関しては、その他にも留意すべき点があります。

【特許への移行】

実用新案権は登録後も3年間は実用新案登録に基づいて特許出願を行うことが可能です。そのため「取り急ぎ実用新案権として登録し、市場や他社の傾向を見ながら特許出願を行うかを検討」することができます。

ただし、デメリットとして再度実用新案権への変更は不可能であることや、特許が取得できても権利期間は「実用新案権の出願から20年間」(特許出願からではない)となることなどは注意する必要があります。

【実用新案技術評価】

前述のとおり、実用新案権には実体審査が存在しません。その代替手段が技術評価制度です。権利行使のためにはこの技術評価を受け、技術評価書を取得する必要があります。例えば、差止請求はこの技術評価書の提示による警告をした後でなければ実施することができません。

特許権と実用新案権の違い

3.その他の保護手段について

自社の技術やアイデアを保護する手段は、知的財産法によるものだけではありません。民法の特別法である不正競争防止法は、一定の商習慣や商業道徳に反する行為から知的財産を保護することに役立ちます。また法的保護以外の観点では、技術の核となる部分を完全にブラックボックス化し、他社の模倣困難性を著しく高める手法もあります。

(1)不正競争防止法による保護手段

不正競争防止法では不正競争と定められる行動類型が定められています。不正競争とみなされる行動は多くありますが、代表的なものとして以下の行為が挙げられます。

  • 混同惹起(じゃっき)行為……周知の商品表示と類似または同一の表示により商品を混同させる行為。
  • 著名商品表示の冒用行為……他人の著名な商品表示と類似または同一の表示を使用し、事業活動を行う行為。
  • 商品形態の模倣行為……既に存在する商品を模倣するデッドコピーを行い、商品の販売等を行う行為。
  • 営業秘密の侵害……詐欺や脅迫などの不正行為により営業秘密を取得する行為。

これらの行為を行っている事業者に対して、民事上では差止請求や損害賠償請求などが認められており、また刑事上でも刑事罰の対象になり得ます。

(2)技術のブラックボックス化

難易度が非常に高い手段ではありますが、法的な保護が受けにくい技術やアイデアの場合には、技術の核となる部分の秘密性を高め、他社から模倣されにくくする方法もあります。

該当する事例としては、有名ファストフード企業のフライドチキンのスパイスレシピがイメージしやすいのではないでしょうか。スパイスの配合は厳重に管理されており、ごく一部の社員しか知り得ないとされています。このように社内外を問わずに技術を機密情報として厳重に保管することで、法的な手段によらずに技術を保護することが可能です。こうした手段も検討する余地があるでしょう。

冒頭で述べたとおり、自社の技術やアイデアを保護し、他社からの模倣を防ぐことは自社の事業を継続する上で非常に重要な取り組みです。自社の技術やアイデアの種類、内容を基に適切で有効な保護手段を判断し、実行してください。

回答者

中小企業診断士 青柳 淳