~中小企業経営者は、今の景気をどのように感じているのか~

第137回中小企業景況調査【平成26年7~9月期】

売上額DIが改善、持ち直しの動きが見られる中小企業景況

2014年7-9月期の中小企業景況調査月期の中小企業景況調査では、2012年10-12月期の水準まで悪化した前期から一転し、全産業・製造業・非製造業ともに業況DIが改善し、持ち直しの動きが見られた。

各産業において需要が増加し、消費増税後の経営環境に対する不安感が一掃された今期の中小企業景況であるが、その中で、新たな経営上の課題が浮き彫りになり、その対応に奔走する中小企業経営者の姿も確認された。

1.一転して、産業問わず需要の増加が広がる

今期の全産業の主要DI(前期比季調値)を見ると、業況判断DI▲18.7(前期DIとの差(以下、前期差)4.5ポイント増)、売上DI▲16.5(前期差6.6ポイント増)、資金繰りDI▲15.0(前期差1.3ポイント増)と、足下の経営状況に持ち直しの動きが示された。

前期の大幅な悪化を受け、今期の中小企業景況に対しては、消費税率の引き上げによる消費の冷え込みが広がることが懸念されていた。しかし、産業別の売上額DI(前期比季調値)を見ると、製造業▲9.4(前期差10.3ポイント増)、建設業▲8.0(前期差1.4ポイント増)、卸売業▲12.4(前期差22.0ポイント増)、小売業▲28.3(前期差9.2ポイント増)、サービス業▲16.4(前期差1.8ポイント増)と、全産業において需要の増加が示された。

中小企業の売上額DIの推移

2.需要獲得に向けた取り組みと浮き彫りになった経営課題

今期の調査において寄せられた中小企業経営者からのコメントを見ると、幅広い業種において受注や売上額が増加している様子が窺えるものの、それに伴い、浮上した経営上の課題についても言及されている。そこで、今期のコメントから窺える需要の獲得に向けた取り組みと、中小企業経営者の持つ足下の課題認識について確認する。

【コメント】

  • 輸出、リキュール等も伸びている。今後新工場における設備投資が多くなると思う。本社工場が老朽化してきているので出来るだけ新工場へのシフトを考えなければならない。(清酒製造業 岩手)
  • 営業面において各中央市場への積極的な展開をしたことにより発注が増加、売れる商材の開発等を見据えての結果が売上増につながっている。尚一層市場調査等をしつつ日々の商いを丁寧に行っていく。(その他の水産食料品製造業 宮城)
  • ネット関係の売上は増加している。反面、店の売上は人口の減少等や高齢化により需要の停滞が続いている。(時計・眼鏡・光学機械小売業 群馬)
  • ネット情報による問合わせが増加し受注も少しずつ増加しております。引続き多方面の営業の強化に力を入れて行きたいと思っております。(試験機製造業 東京)
  • 引合いが増した分、仕事の選別が出来るようになってきた。あまりに単価の厳しい受注は控えるようになってきた。(冷暖房設備工事業 神奈川)
  • あくまで店舗移転による売上増なので一順するまでは正直なところ分からないです。ただ要因としては駐車場への入りやすさ、カフェスペースでのすごしやすさなどはあると思います。(菓子小売業(製造小売) 三重)
  • 円安で売上は増加しているが、原材料や加工染料代など高値で推移し、エネルギーコストも上昇して採算面では厳しい状況が見込まれる。タイ、ベトナムなどの取り組みを進めざるをえない。(織物卸売業 愛知)
  • 既存の得意先の木製品が国産材に変化して来た。それに伴い受注量が増えている。日本材ブームとなっている韓国への輸出量が堅調で、今後は受注量が増える見込み。(他に分類されない家具・装備品製造業 高知)
  • マイナンバー制度が始まることにより、自治体向けを中心に案件が非常に活発に動いていますが、要員が不足している状態です。(その他の情報処理・提供サービス業 佐賀)
  • ポイントカード(自店カード)による客の囲い込みが、有効に機能しているようで、売上(税抜き)が安定してきている。(各種食料品小売業 鹿児島)

3.見通し:改めて自社に合った経営管理のあり方を考える

消費増税に伴う駆け込み需要とその反動、急激な円安など、経営環境がめまぐるしく変化する中、自社製品・サービスを展開する消費市場を観察した上での需要獲得に向けた冷静な取り組みが功を奏し、今期の調査結果では、全産業において売上額DI(前期比季調値)の上昇という結果が示された。しかし、人材不足と利益確保という大きな課題が残されていることも確認できる。需要が増えれば、その分、ヒトもモノもカネも必要になってくる。これら経営資源をどのように管理するべきか。条件の厳しい受注を控えるといったコメントもあり、今、自社に合った経営管理のあり方を再考する局面を迎えているのかもしれない。

文責

ナレッジアソシエイト 平田博紀

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