農工連携の先駆者!

宮原隆和(エルム) 第4回「南さつま発!世界シェア85%」

宮原隆和社長 宮原隆和社長
宮原隆和社長

5分で修復する光ディスク修復器

エルムが世界シェア85%以上を誇る製品とは、「自動光ディスク修復装置」のことである。

この装置を開発するヒントは宮原の独創的な発想の豊かさにある。発想の原点は、あるゲームディスク再販業者から寄せられた業務用光ディスク修復装置の開発依頼と、ビデオレンタルのメディアが近い将来、ビデオからDVDに置き換わるだろうと予測したことから始まった。

「そうなれば貸し出すDVDは絶対傷つく。この傷を修復する装置が必要になるだろうと思ったわけです。」

高性能湿式光ディスク修復装置「EcoSmart」

早速、開発に乗り出した宮原が直面した課題は、技術の壁だった。CDやDVDを修復するには、プラスチックでできたディスクを削り磨くわけだが、わずかなゴミでディスクの表面に傷がつき、なかなか平面かつ鏡面に磨けないのである。

エルムが独自に開発した修復技術は、水をかけながら目の粗さを変えた複数の研磨パッドを使って均等に削り・磨き上げる技術だった。これまでの機械では数回しか傷を修復できなかったのが、20回も磨くことが可能になったのだ。しかも1時間弱かかった深い傷の修復作業時間が、わずか5分間に大幅に短縮された。

修復装置に対する海外市場の反応は速かった。販売開始してから2年後には世界23カ国に輸出された。「材料供給県」と言われ続けてきた鹿児島県から工業製品の完成品を世界に発信した瞬間だった。

この修復装置に続いて開発目標にしたのがレンタルショップから強い要望のあったDVDやCD表面の汚れをクリーニングする光ディスク洗浄器である。わずか3秒で汚れを洗い落とすクリーニング装置の実用化にも、高い壁があった。

光ディスクに付着した指紋などの汚れを除去するには、洗浄液をスプレーする必要がある。「スピード、シンプル、低コスト」の3つの開発課題を克服するには、洗浄液の吹き付け作業を安価に自動化することが不可欠だった。

修復工程

開発に腐心する宮原を助けたヒントは、普段の生活の中にあった。宮原の趣味の一つに家庭菜園があった。ある日のこと、誤ってホースを踏んだ宮原の眼に止まったのは、ホースの先端から飛び出す水飛沫だった。

「これだ!」

光ディスク洗浄器はそれから時を経ずして完成した。洗浄液の入ったチューブを圧縮して自動的に洗浄液を吹き付ける仕組みを考え出したのだ。これによって片手で作業できるようになり、従来、人間だと30秒かかっていた作業がわずか3秒にスピードアップされたのである。

「必要は発明の母」というように、この種の製品ニーズは誰でも思いつくはず。それがなぜ、宮原にしか実用化できなかったのか。宮原はこう解説する。

「世界で1000人の人がこういう製品のイメージを描いていたと仮定します。その中で具体的に考えていた人は多分、100人もいなかったでしょうね。そのうち製品に結びついた家庭菜園を趣味としている人は恐らく私1人でしょうね(笑)。」

「エコクリーン」は昨年12月に発売された。これまでに国内で2,000台、海外で500台販売した。「8月までに国内で5000台は販売できると思います」と宮原は、製品の将来性に自信を深める。

日本のものづくりに危機感

宮原は日本のものづくりに危機感を抱く。その理由はこうだ。

「一番の理由はものづくりに携わる人を日陰者にしてきたことです。日本の発展を支えてきたのはものづくりの人たちなのに、そうでない人たちがはるかに良い給与を貰っていますからね。このままでは優秀な人間の多くがものづくりを敬遠するようになるだろう。米国の大学を出た学生で最も初任給の高いのはエンジニアなのです。ものづくりに日を当てることが必要ですね。」(敬称略)

掲載日:2007年5月2日