中小企業とSDGs
第3回:地方創生へ独自の若者定住プロジェクト「有限会社タケイ電器」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
岐阜県中津川市の有限会社タケイ電器は、地域に根ざして今年創業50年を迎える〝まちの電器店〟だ。代表取締役は武井理氏(47)。26歳で父が経営する同店に勤務し、32歳になった2003年に父をガンで亡くして以来、家業を切り盛りしてきた2代目社長だ。
同氏は、環境の悪化・人口減少・地方衰退問題などから社会の持続可能性に危機感を持ち始めていたこともあり、太陽光パネル設置の提案などで再生可能エネルギーの普及活動に取り組むようになった。この活動を通じて昨年10月、外務省の特設サイト「ジャパンSDGsアクションプラットフォーム」に掲載された。
「先代の時代までは普通のまちの電器店だったが、このままでは経営が先細りになると考え、リフォームや家庭用太陽光発電などに取り組み始めた。SDGsの考え方の大半が弊社の仕事と符合している。小さな会社でも活動の理念は国連と一緒。外務省の特設サイトで大企業と同等に紹介されたことで、自分たちの考えが間違っていなかったという自信に繋がった」と取り組み当初を振り返る。
同氏の熱意は従業員にすぐ伝わった。「従業員は自分たちの活動を誇らしく思い、より高い意識で仕事に打ち込んでいる。自分たちの再生可能エネルギー普及活動は、国連の目標と一致しているという自負が営業などの説得力にも繋がっている」という。
総出力10kW以上の産業用太陽光発電事業には、12 年 7 月 にFIT 法(固定価格買取制度)が始まってすぐ着手した。それ以前から一般家庭に省エネ設備による電力の使用効率改善策を提案し、低炭素社会実現の一助となるよう努めている。
ソーラーシェアリングでIターン呼び込む
タケイ電器は、再生可能エネルギーの普及活動にとどまらず、地方経済の衰退問題の解決にも取り組んでいる。
「近年の東京一極集中による影響は地元中津川にも及んでいる。この窮状を打開するためにも、農地に太陽光発電設備を設置し、発電事業と営農を両立するソーラーシェアリング(営農型発電)事業を通じて、持続可能な農業を応援する仕組みをつくりたい」と地域課題の解決策を描いている。
実現に向けたプロジェクトが、同社が事業主体となっている「彩プロジェクトIRODORI」。これは、太陽光発電による売電収入で営農するソーラーシェアリングとIoT(モノのインターネット)技術を活用し、営農者の高齢化や営農の低収益による耕作放棄地を復活させ、持続可能な農業を実現することによる中津川への移住・定住促進策だ。
「彩プロジェクト」では、中津川に若者のIターンを呼び込み、用意してあるシェアハウスに住んでもらって、太陽光発電装置の設置工事や農業に従事する。もちろん給料も支給する。福祉関係者と連携し、障がい者にも営農を手伝ってもらう。観光農園の経営なども視野に入れて進める方針。「彩プロジェクト」は生活の根幹となる食とエネルギーの自給自足を促す仕組みづくりであり、循環型社会の実現と新しい働き方の提案につながるとして、本気で取り組む覚悟だ。
将来はビジネスモデルに
「これらの取り組みはすべて中津川の地方創生につながる。将来はビジネスモデル化して、他の地域と持続可能な地方ネットワークを形成していく。このビジネスモデルで成長した地域同士がさらに連携して相乗効果を上げることが理想だ」とビジョンを語る。
「この手は未来をつかむため、この足は未来へ進むためにある。まずは弊社が出来ることをコツコツやって地元を盛り上げる。ひいては中津川に住む人、才能がありながら埋もれている人に光を当てていきたい」
同氏は、多様な価値観や生き方を実践で示し、人から受けた恩を別の人に返す「恩送り」が連鎖する社会の実現を目指している。SDGsへの取り組みは、この目標を達成に導く大きな原動力になっている。
企業データ
- 企業名
- 有限会社タケイ電器
- Webサイト
- 設立
- 1969年10月
- 資本金
- 900万円
- 従業員数
- 9人(パートタイマー含む)
- 代表者
- 代表取締役 武井理氏
- 所在地
- 岐阜県中津川市中津川2975-1
- Tel
- 0573-65-5377
- 事業内容
- 家電販売、電気・空調・太陽光発電など各種住宅設備工事、住宅リフォームなど