中小企業とSDGs
第16回:地球の健康を見つめる「環境大善株式会社」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
2022年 2月 3日
北海道でもとくに酪農業が盛んな道東にある北見市。この地に2006年に設立されたのが環境大善株式会社だ。主力商品は『きえ~る』。酪農につきものの、牛の尿を微生物発酵技術で無害化する過程でできた、人にも地球にもやさしい消臭液である。
謎の液体
いまから25年ほど前、同社の創業者で現会長の窪之内覚(さとる)さんは、北見市のホームセンター「ダイゼン」で店長を務めていた。ある時、顧客から「どの消臭剤を買っても臭いが消えない」とクレームを受けた。お客様のニーズに応えようと、窪之内さんは市販の様々な消臭剤を探したが、2年経っても良い商品に巡り合えなかった。
そんなとき、酪農家の知人が、「牛の尿を乳酸菌で分解した茶色い液体」を持ってきた。酪農業が盛んな北見市では、牛の糞尿による悪臭と、ある環境汚染が公害問題になっていた。土中に染み込んだ尿が付近を流れる常呂川に流れ込んでいるのだ。この川は農業用水として利用されるほか、オホーツク海からサケやマスが遡上し、河口は日本有数のホタテの水揚げ場にもなっている。そのため国や北海道、農協と酪農家が協力し糞尿処理が進められていたが、処理設備は酪農家自身も多額の費用負担を伴うものだった。知人は経営を圧迫しかねないとの心配から、処理済みの液体を販売できないかと、相談にやってきたのだ。
もともと窪之内さんは農家の出身で、確かに園芸には使えそうだと思った。しかし、冬の長い北海道では園芸時期がとても短く、大きな収益にはなりそうもない。液体の臭いを嗅いでみたところ、まったくの無臭だった。「牛の尿の臭いがなぜ消えるのだろう?もしかすると他の臭いも消えるかもしれない」と思った窪之内さんはペットの糞尿や生ゴミ、排水口やトイレなど様々な悪臭にその液体をかけてみた。すると、なぜか臭いが消えたのだ。
窪之内さんは「この液体は宝だ。北見の人々の悩みの種だった牛の尿を価値ある商品に変えることができれば、酪農家を助けられるだけでなく公害問題の解決にもつながる」と考えた。「どうしても世に出したい」と、ホームセンターに環境商品事業部を作り、この液体の商品化に向け各種安全性試験を実施した。原液が有色なため、そのままでは色が染まる素材には使えない。そこで改良が加えられ、透明化する仕組みが考案された。牛の尿を微生物で発酵させると、液体内の善玉菌が悪玉菌を減らす。これが「善玉活性水」で、有機物の腐敗臭やアンモニア臭などの消臭に効果がある。だが、花にかけても花の芳しい香りは消えず、不快な臭いにだけ反応することも分かってきた。
公害の元が公害を制す
1998年、天然成分100%のバイオ消臭液『きえ~る』が誕生。さらに研究を進めていくと、この液体には土の微生物を活性化させる効果があることも分かった。土壌再生にも役立つと、園芸用液体たい肥『土いきかえる』も商品化。2006年にホームセンターから環境商品事業部を譲り受けて独立開業した。
「公害の元が公害を制す」というキャッチコピーで売り出した『きえ~る』は、道内の新聞や全国版の情報番組で取り上げられ話題を集めた。商品の知名度は次第に上向き、洗濯用や置型タイプ、魚の水槽の悪臭・排水管のニオイ・ぬめり予防など、用途に応じたラインナップも徐々に増えていった。今では国内だけでなく海外からも注文が来る。
同社の消臭液や液体たい肥を利用すれば、善玉菌の力で地球環境を健康な状態に戻すことに貢献できる。こうした同社の「アップサイクル型循環システム」は、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」を筆頭に、目標6「安全な水とトイレを世界中に」、14「海の豊かさを守ろう」、15「陸の豊かさを守ろう」など、様々な目標に合致した取り組みだ。
消費財の枠を超えた商品づくりを
それでも、同社は現状に満足していない。毎日の幹部会議で「どのように環境負荷を軽減できるのか?」を議論し、消臭液ボトルをバイオマスボトルにしたり、輸送コストを下げる工夫をしたり、商品を運ぶ際の梱包材の素材にもこだわっている。地球環境の負荷軽減へ徹底的に向き合っているのだ。
好例が2021年10月の消臭液パッケージのリニューアルだ。消臭液は「消費財」。消費財の多くは長く使うことが想定されておらず、基本的には使い捨てだ。1度購入したボトルに愛着を持って長く使ってもらい、中身を詰め替えて使用できるような仕組みを整えれば、消費財の枠を超えた商品づくりができ、環境負荷軽減に貢献できる。思い切って、デザイン性を追求したパッケージにリニューアルした。同社設立以来初の大幅リニューアルだった。
リニューアルを牽引したのは会長の息子で現社長の窪之内誠氏だ。同氏は2017年ごろからデザインの力に着目し、経営に取り入れてきた。自社の商品を手に取ってくれる人に「環境大善株式会社はどのような会社なのか、どんな想いでこの商品を製造しているのか」が伝わるデザインにして、「善玉活性水」を社会に広めていきたい、と考えた。
まずは同社の従業員と会社の理念や方向性に対する意識を共有することから始めた。「地球の健康を見つめる」というコーポレート・スローガンを掲げ、シンボルマークを定め、社名も変更した。従業員に自信と誇りをもって働いてもらえるよう、デザインの力を活用してきた。「デザイン変更前は、消臭効果という機能的な価値に着目して購入してくれる人が多かったが、変更後は環境大善株式会社の想いという情緒的価値に共感してくれる人が増えた。機能的価値と情緒的価値のバランスが取れてきたと思う」と話す。
同社は災害支援にも積極的に携わっている。東日本大震災時には、日本赤十字社からの依頼で『きえ〜る』を寄贈し、仮設トイレや排水、生ゴミの消臭に貢献しました。熊本地震の被災地にも寄贈し、被災地の臭い問題の解決に貢献している。
「今後は研究・開発型の企業として、未利用バイオマスである牛の尿を有効活用できるよう研究・開発し世界に広めていきたい」と窪之内社長。土壌改良や環境保全など大学や企業と連携して様々な研究をしており、「まだやれることはたくさん残っている。それを探すのが自分の仕事」と熱を込めて語る。同社の「地球の健康を見つめる」取り組みはこれからも続いていく。
企業データ
- 企業名
- 環境大善株式会社
- Webサイト
- 設立
- 2006年2月
- 資本金
- 1000万円
- 従業員数
- 19人
- 代表者
- 窪之内誠氏
- 所在地
- 北海道北見市端野町三区438-7
- 事業内容
- 環境微生物群を発酵培養した「善玉活性水」の消臭力・土壌改良などの効果に着目した商品開発、販売、製造など