中小企業とSDGs

第15回:地元の食文化を次世代へ「株式会社かね久」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 1月27日

遠藤伸太郎社長
遠藤伸太郎社長

株式会社かね久は、1945年創業のパン粉製造会社、金久商店からの事業承継で誕生した。同店の経営者が他社で役員をしていた遠藤伸太郎氏に声をかけたのが始まりで、遠藤氏はまず社員として金久商店に入社し、2014年に営業譲渡を受け代表取締役社長に就任し、同社を設立した。

地域の飲食店に不可欠な存在

ひきたて生パン粉
ひきたて生パン粉

主力事業は飲食店用のパン粉の製造販売で、業務用食料品の総合卸売、商品開発・販路開拓・販売も手掛け、地域商社の役割を担っている。パン粉事業では、常時数十種類の生パン粉と乾燥パン粉を取り扱い、顧客ニーズに応じたオリジナル生パン粉の製造も行っており、地域の飲食店には必要不可欠な存在だ。

オンラインやTVショッピングで牛タン関連商品も通信販売し、牛タン切り落としや厚切り牛タンが人気を集めている。過去には、同社が開発した「金華さばの海鮮生ふりかけ」がJR東日本の運行する新幹線に連結される最上級グレードの車両・グランクラス車内で提供される軽食メニューに採用された実績があり、中小機構とJRフーズが企画した「東北福興弁当」の具材にも使われた。

SDGsに対する同社の取り組みは幅広い。例えば、大豆を活用した新商品がある。環境負荷が少ない植物性タンパク質の大豆を使って「牛たん&大豆肉のひとくちステーキ」「牛カルビ&大豆肉のひとくちステーキ」などを開発、牛が排出する温室効果ガス「メタン」の削減に配慮しながら食資源不足の解決を目指す一方、植物性タンパク資源普及の課題になっている「おいしさ」も実現した。この取り組みはSDGs目標の「2.飢餓をゼロに」「3.すべての人に健康と福祉を」「13.気候変動に具体的な対策を」に繋がっている。

社内外に製造ノウハウを伝える「パン粉マイスター制度」もある。高品質のパン粉製造技術を社内や提供店に維持してもらうため、パン粉に対する知識や技術に応じて「免許皆伝」「ブラックベルト(黒帯)」など5段階のランクを設け、称号を授与する。「免許皆伝」は前身の金久商店時代から勤務している70代の社員で、長年の経験で培った技術を後進に伝授している。他にも宮城大学と連携し、専門知識や技術を活用した新商品の開発も進めており、これら食を通じた人材育成や食文化の次世代への継承は「4.質の高い教育をみんなに」にあてはまる。

企業連携で商品開発

(図表)かね久パン粉マイスター制度
(図表)かね久パン粉マイスター制度

「パートナー企業との連携」も見逃せない。東日本大震災翌年の2012年、金久商店の社員だった遠藤氏は、震災や原発事故の風評被害で苦しむパートナー企業とともに一般社団法人「食のみやぎ応援団」を設立し、販路拡大を目指した。応援団の企業連携で様々な商品・サービスを生み出し、東京電力の社員食堂の食材として石巻のわかめが採用されるなどの成果を上げている。

近年は加工時に出る食品ロスを活用した商品開発にも着手している。代表的なのは「牛たんデミグラスソース煮込み缶詰」だろう。宮城名物「牛たん」のうち、ロスになることが多いタン先やタン元を使って煮込んだソースで、2021年10月現在16万缶を売り上げる人気を誇る。

1日目に地元ワイナリーや閉館後の夜の水族館を、2日目は食を扱うライフスタイルショップや水産加工会社を回る「サステナブルツーリズム」のモニターツアーも実施した。ワイナリーで宮城の食材を使ったランチを堪能し、水族館で食品加工時に出る食品ロスを餌として活用していることを学び、ライフスタイルショップで規格外野菜や大豆肉を使ったサステナブル弁当を食べながらアップサイクルをクイズ形式で学習、さらに水産加工会社ではノンフローズンのサバ缶を試食するツアーで、好評を集めた。

これらの取り組みは「12.つくる責任、つかう責任」を果たしており、企業連携活動で地域への経済効果や雇用を生み出すことは「17.パートナーシップで目標を達成しよう」に結びついている。

食材王国で100年続く事業を

人気商品「牛タンデミグラスソース煮込み缶詰」
人気商品「牛タンデミグラスソース煮込み缶詰」

東日本大震災から10年の節目である2021年1月には、同社が発起人になって宮城県内の中小食品製造販売23社で「食のみやぎ応援団SDGs宣言」を発表した。宣言は「支援いただいた全国・全世界の皆様への恩返し」、「住み続けられる環境」「事業を継続するための資源」「笑顔あふれる地域」を残すために何をするべきかを改めて考え直し、「売り手・買い手・世間」の3方良しに「未来」を加えた4方良しとし、食文化を次世代へ承継し、食材王国みやぎで100年続く事業を目指すとしている。

遠藤社長は「パートナー企業がそれぞれの強みを出し、補い、発信していけば良いものができる」と、「17.パートナーとの連携」の重要性を強調する。今後は、思いを同じにするパートナー企業をさらに増やし、新たな商品開発やサステナブルツーリズム、食の伝統や文化を考えるガストロノミ展開などで、2030年に100億円の経済効果を生み出したいと考えている。「いま人気の商品は、商品売り上げや仕入などを含めると地元に約1億円の経済効果を生み出している。同じようなヒット商品を100個開発できれば100億円も夢ではない」と前向きだ。

遠藤社長はまた「事業承継もSDGsだ」と話す。同社が地域の飲食店に必要不可欠なパン粉の事業を引継ぎ、前身の会社の社員も働き続けていることは、まさに「持続可能」の体現といえる。地元・宮城の食を守り、伝え、パートナーを増やして活動する同社の取り組みは、全てがSDGsの掲げるゴールに繋がっているようだ。

企業データ

企業名
株式会社かね久
Webサイト
設立
2014年2月
資本金
1000万円
従業員数
7人
代表者
遠藤伸太郎 氏
所在地
宮城県仙台市若林区卸町2丁目6-4 Kanekyuビル
事業内容
挽きたて生パン粉「仙台パン粉食堂」、地域商社、業務用食料品卸売業、商品開発設計、新商品開発監修、新商品企画、各種イベント企画監修、開業支援、農水産物原料販売、サプリメント原料販売など

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