中小企業とSDGs

第18回:SDGs活動発信で地域に貢献「株式会社マルワ」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 2月14日

「SDGsは社長率先で取り組む」と鳥原久資社長
「SDGsは社長率先で取り組む」と鳥原久資社長

株式会社マルワは、20年ほど前から環境負荷低減の取り組みを続けている印刷会社だ。温暖化や生物多様性への配慮や、廃棄物や資材の管理、さらには地域活動や緑化など、その活動は多岐にわたる。SDGsの活動を社内で進め、取り組みを社外へ発信することで、地域に愛される企業として進化を続けている。

「発想から発送まで」が強み

社内は外部の見学者を意識して整備されている
社内は外部の見学者を意識して整備されている

業務では「スピーディーかつ柔軟なサービス」を心がけている。顧客は名古屋市や近隣市町村の企業から教育機関、官公庁まで幅広いが、打ち合わせからデザイン作成、印刷・加工、発送代行までをワンストップで行っている。中小企業ならではのフットワークで「発想から発送まで」を提供できるのが強みだ。

印刷物は、配色、文字の大きさや形、レイアウトなどに配慮して、色覚特性者、高齢者、子ども、外国人など「すべての人に伝わりやすいデザインの作成」を心がけ、メディア・ユニバーサルデザイン(MUD)に力を入れている。従業員30人のうち、2人がMUDディレクターの資格を、21人がMUDアドバイザー資格を取得していて、プロならではの提案をしている。

地域の中高生・大学生の職場体験やインターンシップを実施、企業、行政機関、学校などからの会社見学も積極的に受け入れ、地域とのつながりを重視しているのも特長だ。

これからは環境の時代

バナナぺーパーを使ったカレンダー
バナナぺーパーを使ったカレンダー

同社はいちはやく環境問題に取り組んでいた。きっかけは、2005年に地元、愛知県で開催された「愛・地球博(日本国際博覧会)」だ。先代の父から事業承継し、「印刷会社は印刷ができて当たり前。印刷のほかにマルワが尖るためには何があるだろう」と考えていた鳥原久資社長は、万博が環境博に決まっていく過程を目の当たりにし、「これからは環境の時代だ」と気がついた。

2002年に取得済みだったISO14001(環境マネジメントシステム)認証の規定に従い、環境配慮への取り組みを強化。2006年には環境に配慮した印刷物であることを示すGPマークを取得、印刷資材には森林認証制度(FSC)の認証紙や植物由来インキなど環境に配慮した資材を採用した。また2019年に環境省が進める中小企業版SBT・再エネ100%にも参加。2021年8月より調達電力を再生可能エネルギーにし、「ノーカーボンプリント」を実現した。

実を収穫した後は焼却されてしまうザンビア産のバナナの茎を材料に、茎を細かく裂いて乾燥させ、越前和紙の製法で紙にした「バナナペーパー(ワンプラネットペーパー)」の活用も取り組みのひとつだ。鳥原社長は「この紙が普及すれば、環境問題だけではなく、産地の教育や貧困、雇用問題など、SDGsの17目標全てに関わることができる」とみている。

取り組みは社員全員で

20年、21年の委員会発表会はオンラインで実施した
20年、21年の委員会発表会はオンラインで実施した

11年前からISOを進める社内の仕組みづくりにも乗り出した。当時、同社は品質・環境・情報と3種類のISO認証を取得していたが、鳥原社長は「社内体制を認証にかなうよう維持管理するには、どうしても特定の社員に負荷がかかってしまう」と悩んでいた。そこで勉強会で知り合った他社のやり方にヒントを得て「社員全員で関わればできるかもしれない」と社内に品質・環境・情報・社員交流・広報の5つの委員会を設け、全員でISO体制整備に取り組むことにした。

ISO体制が整ってきた2019年には、世の中の注目を浴びてきたSDGsを念頭に「2030年にどんな会社になっていたいか」を社員全員で話し合った。その結果、従来の5委員会を再編成し、MUDなど先進的な取り組みを進める「有名な会社になるための新事業実行委員会」、より働きやすい職場をつくる「働きがいのある環境づくり実行委員会」、環境に配慮した会社を目指す「環境負荷低減実行委員会」の3委員会と、取り組みを社外に発信する「広報委員会」の4つの委員会が誕生した。

全社員は4委員会のいずれかに所属、勤務時間中に時間をやりくりし、自身の所属する委員会活動を推進している。毎年9月には「委員会発表会」を開催して1年間の取り組みの成果を発表する。

委員会や発表会を設けたことで、社員が「自分ごと」として環境問題に取り組む意識が醸成されたようだ。社内には「わが社はSDGsの取り組みを先駆けてやってきた」「発表会には1年間の取り組みをより多くの方に知っていただきたいという思いで参加している」「毎年発表会に来てくださる方もいらっしゃるので、去年よりも進化したところを見せたい」など、前向きな声があふれていた。

SDGsで地域貢献

SDGsすごろく
SDGsすごろく

SDGsに対する取り組みを社外に発信することで、新たなパートナーシップも生まれてきた。放課後の小学校施設を活用し、小学生が、学年の異なる友達と自由に遊んだり、学んだりする名古屋市の「トワイライトスクール」には、同社が企画した「SDGsすごろく」が配布されている。社員がデザイン・制作した『みんなで未来を考えよう。ころころとんとん2030すごろく!』を展示会に出展したら、名古屋市の担当者の目に留まったという。

近年は「SDGsに会社としてどのように関われば良いか」「SDGsの取り組みを社内に根付かせるにはどうすれば良いか」など、お客様から相談を受けることが多くなったため、SDGsを活用した差別化やブランディングを支援する、コンサルティング事業にも着手している。

SDGsの活動を発信し、地域に貢献している同社は「人がつどい社会に発信する会社」という経営理念を体現している。鳥原社長は「創設以来、地元・名古屋で印刷業として信用を得られたのは、地域の皆様の協力があってこそ。今後も地域重視・環境保全・社会貢献を通して地域の発展に尽くしていきたい」と話している。

企業データ

企業名
株式会社マルワ
Webサイト
設立
1958年6月
資本金
1200万円
従業員数
30人(2020年8月現在)
代表者
鳥原久資 氏
所在地
愛知県名古屋市天白区平針4丁目211番地
事業内容
総合印刷関連、販促企画関連、マルチメディア関連など

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