中小企業とSDGs

第19回:進化する老舗のDNA「和田八蒲鉾製造株式会社」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 2月28日

同社の製品
同社の製品

和田八蒲鉾製造株式会社は、蒲鉾やちくわなど水産練り物を製造する老舗企業だ。イトヨリダイ、シログチなど5種類の魚を絶妙なバランスで配合した商品の評価は高く、関西圏の有名料亭やミシュラン星付きのレストランから、大手百貨店・生協・スーパー向けまで、幅広い顧客に販売している。近年は、年末年始の迎春用商品販売以外の売上を拡げるため、ハロウィンやバレンタインなど季節イベントに合わせた新たな商品づくりや海外向けの販路拡大にも挑戦している。

製造現場改善で食品ロスが少ない工場実現

同社の企業理念
同社の企業理念

企業理念である「一味真(ひとあじまこと)」にこだわった商品は、素材の味・食感などの魚本来の持ち味を最大限に活かしている。反面、つくりすぎた商品はどうしても日持ちせず、廃棄ロスが発生してしまうという問題があった。そこで同社は中小機構近畿本部に相談し、アドバイザーの助言で経営課題の解決を図るハンズオン支援事業を活用した。

ハンズオン支援では、廃棄ロス数量の可視化や発生原因の追究・改善、生産管理の仕組みの強化などを行い、「つくりすぎのムダ」の削減に取り組んだ。工場メンバーが全員参加で取り組んだ結果、生産管理に対する社員の意識が高まり、過剰生産の抑制が実現しただけでなく、工場の監査を行った大口取引先から工場の管理レベルが認められ、取引の増大にもつながった。

水産資源の枯渇や開発途上国の食料不足などの社会課題の解決が求められる中で、仕入れた魚肉をムダなく製品化して消費者に届ける同社のこの改善活動は、目標2「飢餓をゼロに」、目標12「つくる責任 つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」などのSDGs に貢献する取り組みだ。また、社員が協力して生産性向上のための創意工夫に取り組み、仕事への参画意識を高めることは「仕事がしやすい職場づくり」にもつながっており、目標8「働きがいも経済成長も」にも貢献している。

他社と連携し商品開発

同社工場
同社工場

同社の末澤市子社長は他社との連携にも積極的だ。大阪府が大阪を代表する食品として認定した「大阪産(もん)」のしいたけ農園や淡路島の若手農家が生産したブランド玉ねぎが規格外のサイズで販売できずに困っていた際には、生産者とタッグを組んで商品開発を行い、廃棄ロスを防ぎつつ地産地消にも貢献した。同社の新たなブランドデザインを検討する際にも、単なるデザインの刷新にとどまらず、紙製の包装パッケージへ転換する準備が進められている。創業以来原点として重視している「魚と真摯に向き合う姿勢」の考えから、原料となる水産資源や人体への影響が懸念されるマイクロプラスチックを問題視しているためだ。

ハンズオン支援で改善された工場の様子
ハンズオン支援で改善された工場の様子

持続可能な生産・消費のサイクルを構築していくこれらの取組みは前出の目標12「つくる責任 つかう責任」や、目標14「海の豊かさを守ろう」に貢献する。SDGs につながる目標に向けて異業種のパートナーと連携することは、目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にもつながる取り組みだろう。

和食文化の継承・伝達を

改善活動を振り返る末澤社長
改善活動を振り返る末澤社長

ひとくちに蒲鉾といっても、食感・味付け・食べ方の地域差は大きい。末澤社長は「大阪に蒲鉾が根付いているのは、海から離れているため鮮度維持のために加工せざるを得なかったことに加え、近隣の京都に影響を受けた出汁文化、高品質な蒲鉾を買い支えることができた商人の購買力などの賜物」と話す。

同社が行っているのは、単に蒲鉾のおいしさを伝えるだけでなく、日本の伝統食や地域文化の中にある「水産練り物」の1つである蒲鉾を伝えていく地道な活動だ。

新ブランドデザイン
新ブランドデザイン

社外で子供や留学生向けに蒲鉾づくりの実演をしたり、大阪ガスとのコラボレーションで蒲鉾の飾り切りや伊達巻づくりを伝えたりして蒲鉾の魅力を発信している。伝統的な蒲鉾づくりやおせち、出汁文化の食育イベントにも参加、2019 年1 月からは京都御苑の「御所の弁当」に平安時代の蒲鉾を再現した「平安王朝蒲鉾」の提供もしている。社内向けにも、全国の水産練り物を紹介したマップや各地域の蒲鉾の特色を説明した資料や、材料になる魚種と特徴、蒲鉾の基本的な製造方法などを説明する資料を共有し、蒲鉾文化をしっかりと伝承できるよう工夫している。

社内外を問わず蒲鉾づくりの技術や文化を広めていく姿勢は、目標4「質の高い教育をみんなに」に貢献するし、日本の伝統文化の伝承に貢献できるという社員のやりがい醸成につながるという意味で、目標8「働きがいも経済成長も」を体現する取り組みになっている。

今後は海外展開も

蒲鉾づくりの実演
蒲鉾づくりの実演

様々なSDGs に関わる取り組みを実践する同社だが、これらは当初からSDGs を意識して取り組まれたものではなく、結果的にSDGs につながったものだ。無意識のうちにSDGs に貢献する取り組みを行ってきたからこそ、顧客や社員、外部パートナーからのサポートを得られ、同社の活動の幅が拡がってきたとも考えられる。今後、改めてSDGsへの貢献を意識し、新たな取り組みを検討したり発信を強化したりすることで、同社の活躍フィールドは世界中に拡げることができるだろう。

平安王朝蒲鉾
平安王朝蒲鉾

末澤社長は「今は国内中心の販路だが、ゆくゆくは良質の魚を求めて、海外にすり身の文化や技術を指導して回った伯父のように、世界に日本の練り物文化を伝えていきたい」と意欲的だ。高タンパク・低カロリーの「フィッシュプロテイン」に対する世界的な健康意識の高まりを追い風に、目標2「飢餓をゼロに」、目標14「海の豊かさを守ろう」などにつながる取り組みを海外でも実践できれば、協力の輪は広がっていくと思われる。創業から受け継がれてきた老舗のDNA を武器に、SDGs を共通言語として海外でも事業を展開する道が拓けることを期待したい。

企業データ

企業名
和田八蒲鉾製造株式会社
Webサイト
設立
1931年5月
資本金
2000万円
従業員数
49人
代表者
末澤市子 氏
所在地
大阪府大阪市福島区福島5-4-21
事業内容
水産加工品製造業

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