中小企業とSDGs

第20回:和菓子づくりで社会課題の解決に貢献する「株式会社富田屋」

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。

2022年 3月 2日

富田屋の和菓子
富田屋の和菓子

1928年創業、1966年設立の富田屋は、わらび餅や柏餅などを製造販売している和菓子メーカーだ。大手スーパーへの販売を中心に、節分やひな祭り、お盆などの行事に合わせた四季折々の和菓子を手ごろな価格で販売しているのが特徴だ。同社は、顧客が幸福な時間を過ごすためのお手伝いをし、顧客の笑顔を応援することを和菓子づくりへの想いとして掲げて、日々安心・安全な和菓子づくりに励んでいる。

食品廃棄物削減で意識せずに始まったSDGs経営

富田屋の和菓子
富田屋の和菓子

細谷雄二代表取締役の悩みは、和菓子を製造する過程で発生する食品廃棄物の問題だった。廃棄物の量は毎月22トンにも及び、その大量の食品廃棄物を排出している生産工程を改善したいとして、中小機構近畿本部へ経営相談に訪れた。そこで専門家のアドバイスを受けながら経営改善を図るハンズオン支援事業を活用し、食品廃棄物の排出量削減に取り組んだ。そして、グラフ化によって食品廃棄物の排出量を「見える化」して、日々の排出状況を把握し、その原因を解析。ものづくりの基本である現場の5S(整理・整頓・清潔・清掃・しつけ)活動を徹底し、目的としていた食品廃棄物の排出量削減に成功した。

同社が食品廃棄物の排出量削減のために行った経営改善への取り組み、また、余った和菓子を地域住民や社員に安価で販売するなどの廃棄ロスへの取り組みは、SDGsの目標12「つくる責任、使う責任」に貢献するものだ。問題意識を持って行った経営改善が、実は意識しないうちにSDGsに貢献していた。SDGs経営は、既に取り組んでいる経営改善や事業をSDGsの視点で捉え直すことからでも始められるのだ。

職場風土改善で「働きがいも経済成長も」に貢献

和菓子づくりをする社員の様子
和菓子づくりをする社員の様子

細谷氏は、「パートは、わが社の宝物」と述べるなど、雇用形態によらず社員を大切にする社風を育んでいる。食品廃棄物問題の時も、幹部だけでなく、現場の声を汲み取って、社員全体の意見を活かした。こうした姿勢により、社員が一丸となって経営改善に取り組むようになり、副次的効果として全社員の意識が大きく向上することに結びついている。

また、同社では次の経営改善として、生産ラインにおける新しい設備導入や工場設備のレイアウト変更、人員配置の見直しにも取り掛かり、結果として、効率的な作業体制を実現した。職場環境が大きく改善したことで、非常に風通しの良い、働きやすい職場となっている。

こうした職場風土の醸成や生産ラインなどの改善も、意識せずしてSDGsに貢献している好事例で、パート、正社員の働きやすい環境づくりは、SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」に貢献する取り組みである。細谷氏はまた、社員のシフト作成にも気を配り、社員全体の希望を優先するほか、親の介護や体調不良による長期休暇も認めるなど、全社員が長く勤めたくなる働きやすい職場を目指している。こうした社員を大切にする取り組みもSDGsの目標8に該当する「SDGs経営」なのだ。

コロナ禍への危機感で経営改善意欲がさらに向上

新型コロナウイルス感染症が猛威を振るうなか、社員は皆、「コロナの影響でいつ会社の経営状況が苦しくなってもおかしくない」といった危機感を持って勤務している。その危機感が経営改善への意欲をさらに向上させていると細谷氏は話す。

現在は、社員がさらに気持ちよく業務ができるよう食堂や工場の改修を検討したり、「業務の見える化」にも取り組んだりして、社員の動きと会社の動きの一本化を目指している。特に「営業の見える化」を実現することで、営業部門と製造部門の意見交換が活発化し、「職場の風通しはさらに良くなりそうだ」とみている。

地元の行政と官民一体の挑戦も

富田屋の細谷雄二代表取締役
富田屋の細谷雄二代表取締役

同社の所在地・大阪府富田林市は、SDGsの理念を市政に取り入れてSDGsの実現に取り組んでおり、2020年7月には「SDGs未来都市」及び「自治体SDGsモデル事業」に選定されている。今後、同社が富田林市と協力して官民一体の事業に挑戦すれば、SDGsの目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」にも貢献が可能だ。

例えば、市の小中学校で茶道教室が実施される予定があれば、自慢の和菓子を提供して茶道教室の開催に協力することで、目標達成への貢献になるだけでなく、茶道という日本文化の保護、継承に通じるSDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」への貢献にもなる。そういった茶道文化の普及に貢献することは、和菓子の魅力を発信することにも繋がる。同社にとっては和菓子の消費者を増やしていくこととなり、SDGsの取り組みが長期的に経営にプラスになる一例だ。

既に自社がSDGsの貢献に繋がる取り組みをしていると認識した細谷氏は、「SDGsは大手企業の問題であって、中小企業が取り組む必要性や意味を理解していなかったが、自分たちでもSDGsに貢献でき、それが経営にも活きることが分かった。今後はさらにSDGsの視点からも新事業を含めた経営改善に取り組んでいきたい」と語る。

※この記事は取材当時(2020年12月)の内容です

企業データ

企業名
株式会社富田屋
Webサイト
設立
1966年9月
資本金
8600万円
従業員数
264人
代表者
細谷雄二 氏
所在地
大阪府富田林市若松町東3-1-36
Tel
0721-24-5551
事業内容
和生菓子の製造販売

関連記事