中小企業とSDGs
第23回:「三方良し」の精神で取引先、そして社会全体の課題解決に取り組む「株式会社丸信」
持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年9月の国連サミットで採択された17のゴールと169のターゲットからなる16年から30年までの国際目標だ。日本政府もSDGs達成を通じた中小企業などの企業価値向上や競争力強化に取り組んでいる。
国の機関や専門コンサルタントの活動およびSDGs達成に貢献している中小企業などの先進事例を紹介する。
2022年 4月18日
福岡県久留米市に本社工場を置く株式会社丸信は、シールやラベル、紙器などの印刷加工、包装資材の製造・販売に加え、販売プロモーションまでを提供する総合パッケージングカンパニーだ。昨今、環境問題と深い関わりのある包装資材メーカーとして2020年1月にSDGs宣言を行い、積極的にSDGsへの取り組みを実施するとともに、取引先などへの啓蒙活動にも取り組んでいる。
パッケージメーカーの枠を超え、取引先の業績向上に貢献する「お役立ち活動」
同社の企業理念のひとつは「三方良し」の精神。三方(同社、取引先、社会)の役に立つ経営を目指そうというもので、この精神に基づき、取引先に対し、製品の包装資材だけでなく、販売プロモーションまでワンストップで提供し、取引先の業績向上にも貢献している。パッケージメーカーの枠を超えた、こうした取り組みは、とくに食品メーカーが多い取引先の課題や問題を解決しようという数々の「お役立ち活動」事業として広がっている。
たとえば、食品OEMメーカーと商品開発したい企業とをつなぐプラットフォームとして2021年2月に開設した「食品開発OEM.jp」では、企業間のマッチング機会を提供するほか、商品・サービス情報など食品OEMに関わるさまざまな情報を発信している。また、取引先の商品である九州各地の絶品グルメを広くアピールしようと、通販サイト「九州お取り寄せ本舗」を楽天市場内と自店舗運営で相次いでオープンし、取引先の販路拡大をバックアップしている。このほか、専門スタッフ・有資格者によるHACCP取得支援や食品衛生パトロールの実施、食品分析サービスなど幅広い分野で取引先の課題解決に向けたサービスメニューを提供している。
SDGsについても「自社だけで取り組み、自社内だけで広げていく活動ではない」(代表取締役・平木洋二氏)として、取引先にも理解を深めてもらい、一緒になって取り組みを進めていきたいと考えている。その一環として、独自にSDGsの考え方、取り組み方をガイドブックやパンフレットにまとめて取引先に配布。環境に配慮した包材がメーカーに求められるなか、SDGsへの取り組みなどを理解してもらうことで、包材の環境配慮不足を理由に取引を縮小されることがないよう啓蒙活動に力を入れている。
身近にある貧困問題から病児保育付き保育所を設置
同社は、2020年1月にSDGs宣言を行うとともに、SDGs特設ページを開設した。そこでは17のゴール・169のターゲットの中から同社の事業領域における課題を抽出し、(1)働きがいのある職場環境をめざす(2)地球環境に配慮した運営をめざす(3)多様な人材の雇用と育成をめざす(4)会社の持続的な成長をめざす(5)飢餓や貧困ゼロをめざす—との5つの目標を掲げている。
このうち職場環境については、宣言より前の2018年11月に企業主導型保育事業として丸信インターナショナル保育園を開設した。その名のとおり英語教育に力を入れているが、もうひとつの特徴が病児保育だ。同園の開設は、平木氏が久留米市内のNPO法人からシングルマザーの貧困問題について話を聞いたことがきっかけだった。
独り親世帯の場合、子供が病気になったときには預け先がなく欠勤を余儀なくされる。そして急な欠勤が避けられないとなると、親は非正規雇用を選択せざるを得ず、結果として十分な収入が得られない。こうした貧困問題が地元にも存在しており、さらには同社にも病気で休んでいる子供の様子を見るため昼休みにいったん帰宅するシングルマザーの従業員がいることを知った。まさに身近な問題だと認識した平木氏は、「女性が安心して社会で活躍できるように」との思いで、病児保育付きの保育園を設立するに至ったのだ。
同園では、従業員の子供だけでなく、地域の他の子供も受け入れている。さらに病児保育については、日ごろ通っている園児以外でも利用できる。病児保育は費用面でも運営面でも負担が大きいが、シングルマザーの問題を自社だけでなく地域全体の問題として捉え、独り親世帯でもできる限り収入を落とすことなく働き続けられるような環境の整備に力を入れている。
LED化・ハイブリッド化などでカーボンゼロをいち早く達成
地球環境への配慮では、とくにCO2削減に力を入れている。電力消費の大きかった印刷乾燥用のUVランプをLED化したり、社有車をハイブリッド化したりなど、消費電力の削減に取り組んできた。2017年7月からは本社事業所で使用する電力を再生可能エネルギーに切り替えていき、当初の予定より早い2021年8月に、本社事業所から排出されるCO2排出量が実質ゼロとなるカーボンゼロを達成した。これに伴い「CO2ゼロ印刷」という独自マークを策定し、本社事業所内にある印刷工場で製造した製品に表示することが可能になった。環境に優しい工場で製造した商品であることを示すもので、同社はもちろん、同社のパッケージなどを使用する取引先も環境に配慮した企業であることを広くPRすることができる。
また、本社工場がFSC認証工場となり、認証紙の使用を推奨している。FSC認証制度は、適正に管理された森林から産出した木材などに認証マークを付けることで持続可能な森林の利用と保護を図ろうとする制度だ。環境へ配慮した包材は現在、注目度が高いことから、同社の製品については既存の取引先以外からも問い合わせが増えている。製品だけでなく、本社工場内で発行する伝票、見積書、請求書などの書類も認証紙に切り替えているほか、取引先にも推薦している。CO2削減や森林資源の保護など環境への配慮は、自社だけでなく、製紙メーカーも含めたサプライチェーン全体で取り組むべき事柄だと考え、積極的な取り組みを実践している。
SDGsは身近な業務の棚卸しから
平木氏は「自社でSDGsへの取り組みを考えるにあたっては、まず自社で普段実施している業務の棚卸しをすることがポイント」だと語っている。新しい取り組みだけではなく、身近な取り組みとして業務の中で実施していることをあらためて見つめ直し、たとえば保育園設立のように結果としてSDGsに合致するものであれば、「宣言」としてまとめてPRしている。同社は、持続可能な世界の実現に向け、SDGsへの取り組みを今後もさらに広げていく考えだ。
企業データ
- 企業名
- 株式会社丸信
- Webサイト
- 設立
- 1968年6月
- 資本金
- 4500万円
- 従業員数
- 450人
- 代表者
- 平木洋二 氏
- 所在地
- 福岡県久留米市山川市ノ上町7-20
- 事業内容
- 包装資材の販売、シール印刷・加工、パッケージ印刷加工