闘いつづける経営者たち

「野地彦旬」横浜ゴム株式会社(第3回)

03.課題はコスト競争力

「残念ながらコスト競争力は競合他社に劣っている」。野地彦旬社長は自社の課題についてこう明かす。世界最適調達を進めつつ、主原料である天然ゴムの内製化を推進。天然ゴムはタイヤの原材料のうち重量で約3割を占めるだけに、そのコスト削減は製品価格にも直結する。

タイで天然ゴムを加工

タイの天然ゴム加工工場

同社は2010年、タイのスラタニ県に天然ゴムの加工工場を初めて建設した。周辺のゴム農園からゴム液を調達してタイヤに使う天然ゴムに加工している。菊地也寸志執行役員は「大きな武器を得た」と胸を張る。タイヤの生産量は年々増える傾向にある中で、天然ゴム使用量の30%程度を内製化する方針だ。今後、タイ以外の国でも天然ゴムの加工工場を検討している。

ただ、原料工場を運営するメリットは単に調達の安定化だけではなく、原料の研究開発をできる点にある。同社は現地のソンクラ大学と連携し、天然ゴムの可能性を探る取り組みに着手した。同大学はタイ南部を代表する大学。そして天然ゴムに関するトップの研究機関で、植生や加工まで幅広い知見を持つ。

同大学と取り組んでいる研究テーマが、ゴム樹から出るゴム液を回収する際に発生する中・低品位の天然ゴム原料の有効活用だ。タイヤ用に使えなかった低品質の安い原料を使って一定の品質を持つ天然ゴムの開発に挑んでいる。原料に関するノウハウを蓄積することで将来はカンボジアやミャンマーなど産地の開拓にもつながる。

汎用品のシェア確保へ

天然ゴムの開発で連携するタイのソンクラ大学

低燃費タイヤに使う溶液状のSBR(スチレンブタジエンラバー)などは、日本が世界をリードする得意分野だ。だが、世界最大のタイヤ市場は米国を抜いて中国になった。先進国では高付加価値商品が中心だが、成長市場の新興国ではボリュームゾーンの汎用(はんよう)品のシェア確保が今後の成長戦略に不可欠。菊地執行役員は「いかに安い原料を使いこなせるかだ」と強調する。

調達は、地域にあったマーケティングや商品戦略にあわせた取り組みが必要。このため、中国やインドなどのほか、ロシア・東欧の原材料メーカーの情報収集を急いでいる。新たに進出する国・地域でもすばやく対応するためだ。

提携先の独自動車部品大手のコンチネンタルと調達や物流の共同化を検討しており、野地社長は「中国や東南アジア、欧州などで相互補完できないか探りたい」と、今後の提携強化を示唆する。

「まだまだコストダウンの余地はある」。野地社長はタイヤの品質と原価の見直しにも言及する。現在、同社のタイヤには3段階の価格帯がある。野地社長は「低価格帯の商品にしては過剰品質のケースもある。使用原料を変えることでコストも変わるだろう」と指摘。多様な切り口からコスト削減を実現し、世界市場に打って出る。

プロフィール

野地 彦旬 (のじ ひこみつ)

1958年10月30日生まれ。神奈川県出身。82年3月早稲田大学理工学部卒業。82年4月横浜ゴムに入社。タイヤの設計から生産、工場運営までメーカーの根幹となるモノづくり全般に携わる。三島工場工場長やヨコハマタイヤフィリピン社長を経て10年6月に取締役常務執行役員タイヤ管掌兼タイヤグローバル生産本部長となり、11年6月に社長に就任した。ゴルフだけでなく水泳、乗馬、スキューバーダイビングまでこなすスポーツマン。

企業データ

企業名
横浜ゴム株式会社
Webサイト
設立
大正6年(1917年)10月13日
資本金
389億9百万円(2011年3月末現在)
所在地
東京都港区新橋5丁目36番11号
事業内容
タイヤの製造販売
売上高
5,197億4千2百万円(2011年3月期・連結)

掲載日:2012年3月1日