売上アップの教科書

サービス 前払いでも+αのオーダーで客単価アップ(ついで買い6回目)

売上UPの「ついで買い」攻略術

2011年10月11日掲載
文:渡辺まどか(中小企業診断士)

会計前のちょっとした会話から
「潜在ウォンツ」を引き出して、+αのオーダーをもらおう

お会計前のちょっとした会話で、お客さまに喜んでいただきながらも客単価をアップできる方法を知っていますか? 特に前払いでサービスを提供する場合は、追加のオーダーをおすすめすること自体難しいと考える方が多いようですが、実はそんなことはありません。

ここに、私鉄沿線の駅近に立地する1.5坪(畳2畳分)程度の靴の修理店があります。地域顧客が多いため、一度に複数の靴を持ち込まれるケースが多く、数時間~数日間お預かりしての対応が基本で、原則前払いです。40代のご夫婦が経営されているのですが、お2人ともお客さまの求めているもの(直接的なニーズや潜在的なウォンツ)を汲み取るのがとても上手です。そのため、お会計前のタイミングで+αのオーダーを得て、お客さまに喜んでもらいながらも客単価アップに成功しています。

ある土曜日の開店直後、30代前半とおぼしき女性が、ヒールのお直しのためにパンプスを3点持ち込みました。応対したご主人がまず確認したのは、女性の身だしなみです。いかにもビジネス仕様のパンツスーツの足元は、やはりパンプスです。

(土曜日のこの時間にスーツということは、休日出勤かな?)
そんな想像をしながらご主人は、こう問いかけます。

靴の修理店

「これからお仕事ですか?」

「そうなんですよ。ここのところ、休日もろくに休めていなくって。」

身だしなみから女性の状況を推測し、自然に会話を進めながら、ニーズやウォンツを探るべく、いよいよ本題に入ります。

「お仕事のときは、いつもパンプスですか? 今日お持ちになったのも、すべてパンプスですが...」

「そうなんです。履きやすさにこだわっていいものを買うんですけど、ヒールの先のゴムがすぐに消耗してしまうんですよね。」

どうやらこの女性客、仕事で快適に履けるパンプスを求めている一方、ヒールの先がすぐに消耗してしまうことには不満を抱えているようです。

「このゴム、素材によって耐久性が異なるのをご存じですか? いい素材のゴムを選べば、それだけ長持ちするんですよ。ちなみに、耐久素材のゴムにグレードアップすると、1足につき+400円頂戴することになりますが、2倍長持ちしますから、修理にいらしていただく回数は半分に減らせますよ。」

ポイントは、やはりお会計の前の会話です。

(1) お客さまの服装や持ち物など商品やサービスとは関係ない会話からスタートして、お客さまのライフスタイルや状況を把握する
(2) 新たなサービスを提供するときは、サービスによってもたらされる「快適さ」、「利便性」だけでなく、「不便さの解消」についても提案する

こうすると、お客さまの状況を判断するための情報がより得られるだけでなく、お客さまの「警戒心」がほぐれます。次に他のサービスを紹介するにしても、商品の押し売り感が薄れ「プロの視点からのアドバイス」として耳を傾けてもらえやすくなります。

また、単に「快適さ」や「利便性」などサービスの「よさ」だけでなく、「不満」、「不便さ」を解消するような紹介の仕方をすると「お得感」を感じてもらいやすくなります。

オーダーどおりのサービスを提供するだけでは、お客さまのニーズに応えることはできても、潜在ウォンツに応えることはできません。ですが、前払いであっても、お客さまの状況を意識しながらちょっとした会話を交わすことで、お客さまの潜在ウォンツを引き出すことができ、+αのオーダーによる客単価アップが可能になるのです。

もちろんこれは、靴の修理だけに当てはまるものではありません。 雑な縫製のボタンの補強を提案するクリーニング店や、肩こりから起こる眼精疲労に効果的なメニューを提案するマッサージ店など、サービスを提供する業態であれば、どんなものにも当てはまるのです。

大切なことは、対象物の利用シーンまでイメージしたうえで、「心地よさ」や「都合のよさ」を実感できる+αの提案をすることです。もちろん、受け入れやすいサービス、喜ばれるサービスは、お客さまの層によって異なります。たとえば営業職の男性客であれば、「靴底が擦り減っていないか?」といったように、性別、年齢別、シーン別など、日頃からお客さまの層別に、サービスの紹介のしかたなどをシミュレーションしておくとよいでしょう。

掲載日:2011年10月11日