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ロボットの事業化には、市場・ロボットの適正・使用条件への理解が不可欠【明治大学 理工学部 機械工学科 専任教授/SEQSENSE株式会社 共同創立者・黒田洋司氏】<連載第2回>(全4回)

2020年 5月14日

急激な性能向上と需要の急増を背景に、産業界から大きな注目を集め、政府も社会実装を推進するロボット。しかし事業化にあたっては、ロボットがもたらす“価値”を冷静に見極める必要があると、ロボット工学者であり、ロボットベンチャー企業の共同創立者でもある明治大学教授の黒田洋司氏は指摘します。第2回は、ロボットの事業化を成功させるためのポイントを考えていきます。

まずはロボットの適性を理解する

「日本ではアニメなどの影響か、コミュニケーション機能を備えた人型ロボットなどに価値があると考える人も多いようです。しかし海外では、ロボットはあくまで人の仕事を代替するツール。そのロボットが人のどんな課題を解決するのかという“提供価値”が導入コストを上回らなければ、社会に広がっていくことはありません」

黒田氏が立ち上げたロボットベンチャー企業「SEQSENSE(シークセンス)株式会社」の狙いは、「ロボットならではの強みを活かして着実に働き、課題を解決するロボット」の開発。ロボットを活用した“人とロボットの分業化”“労働力の最適化”で、労働力不足を解消することを目指しています。

「ロボットの大きな強みは、同じ作業を同じ品質で、ミスなく繰り返し行えることにあります。これはロボットが工場の外に出た場合でも変わりません。一方で双方向のコミュニケーション能力などは、まだ人に遠く及びません。ロボットの事業化で考えるべきは、ロボットの適性と市場の有望性です」

ロボットの能力が生かせる有望な市場を探す

警備業界は慢性的な人手不足。労働力人口も向こう数十年間、減り続けることが予想されています。黒田氏は市場調査後、2020年の大型イベントも見据え、その後も需要がさらに高まると考えました。需要が見込まれ、かつ使用環境の面で実現可能性が高いと判断したのは「警備ロボット」です。

「ビルなどの巡回警備なら、対象となるエリアも屋内で範囲が限られています。しかも私有地なので、センサーに影響しそうな要素など、ロボット稼働を妨げ得るノイズへの対策も取りやすい。比較的環境を整えやすいと考えました。これが警備ロボット『SQ-2』につながっています」

対照的に、需要はあるものの厳しそうだと考えたのが、宅配業のラストワンマイル配送です。

「たびたび人手不足が報じられ、海外でも無人運転者やドローンによる配送の研究開発が進められている分野ですが、公道を含む屋外の広いエリアが対象となるので日照や気候などの影響も受けやすい。道路交通法など法令の基準もクリアする必要があり、ハードルは高いです」

ロボット技術の研究論文を書くのであれば、10回中9回成功すれば完璧。しかし商用としての社会実装を考えるなら、エラーは1万回中1回以下に抑えなければならないと黒田氏は強調します。

商用・社会実装を考えるなら、検討すべき課題は多数

「ロボットの要素技術は確かに大きく進化しました。しかし、研究と商用では求められる完成度が桁違いなのです。事業化にあたっては、技術的な条件はもちろん、実際の使用条件なども考え合わせ、冷静に判断することが欠かせません」

黒田氏も、「SQ-2」開発に際して実際に警備会社の協力を得て現場を回り、現場のニーズに沿う形にロボットを改良。三菱地所の協力を得て、ビルオーナーの理解を得るための実証実験も行ったといいます。

政府の「ロボット新戦略」では、ロボットの活用・普及で生産性向上が期待できる分野として、(1)ものづくり、(2)サービス、(3)介護・医療、(4)インフラ・災害対応・建設、(5)農林水産業・食品産業の5分野を挙げています。ほか、物流業界でも倉庫などではロボット活用は一般的。ロボット事業への参入を考えるなら、こうした情報も揃えながら、自社の技術とロボットが提供できる価値、その使用環境を踏まえ、しっかり検討する必要があるでしょう。

連載 「賢いロボットの活用法とロボット事業参入のポイント」

黒田 洋司(くろだ・ようじ)
明治大学 理工学部 機械工学科 専任教授/SEQSENSE株式会社 共同創立者

1994年、東京大学大学院工学系研究科 船舶海洋工学専攻博士課程後期修了。明治大学理工学部機械工学科専任助教授、マサチューセッツ工科大学客員准教授、明治大学理工学部機械工学科専任准教授などを経て、2013年より現職。2016年、自律移動型警備ロボットなどを開発するスタートアップ「SEQSENSE(シークセンス)株式会社」を設立。東京大学生産技術研究所研究員、文部科学省宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構[JAXA]宇宙科学研究所)共同研究員。JAXAの小惑星探査ミッションに参加し、「はやぶさ/はやぶさ2」に搭載された小惑星探査ローバの開発に携わる。

取材日:2020年 2月13日