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賢いロボットの活用法とロボット事業参入のポイント【明治大学 理工学部 機械工学科 専任教授/SEQSENSE株式会社 共同創立者・黒田洋司氏】<連載第4回>(全4回)

2020年 5月28日

4回にわたって、ロボット工学者であり、自ら立ち上げたロボットベンチャー企業でロボット事業も手掛ける明治大学教授黒田洋司氏にお話を伺いながら、ロボット分野における中小企業の可能性を探ってきました。最終回は、ロボット事業に対する政府の方針や、ロボットの導入や事業化に際した中小企業へのアドバイスなどを紹介します。

多数の中小企業がロボット導入で生産性を向上

ロボットを人手不足やサービス部門の生産性向上といった課題を解決するための切り札にすると同時に、世界市場を切り開く日本の成長産業にしていく——。その戦略を策定するため、政府は2014年に有識者による「ロボット革命実現会議」を招集し、翌15年2月に日本経済再生本部が「ロボット新戦略」を策定。そこからさまざまな取り組みが進められてきました。

その一例が、企業へのロボット導入を推進するための「ロボット導入実証事業」(経済産業省)です。ロボットの導入費用の一部が補助されるこの事業によって、ロボット活用による作業者負担の大幅軽減や、作業時間の半減、製造工程の省人化、熟練作業者の技術の再現などに成功した企業が多く生まれています。

また、ロボット導入に際して「生産性向上特別措置法」「中小企業等経営強化法」等による税制優遇や金融支援も実施されています。ロボットの導入費用を補助する自治体も出てきていますので、導入時はそれらを上手に活用すると良いでしょう。

目標を見極め、冷静な検討で賢くロボットを導入

ロボットを上手に活用することで、企業では省人化によるコスト削減、生産性向上、品質の安定などさまざまなメリットが見込めます。ただし、そこで注意すべきは「ロボット導入ありきで話を進めないこと」です。

「繰り返しになりますが、ロボットはあくまで課題解決の手段です。人の作業量を減らして人手不足解消を目指すのか、あるいは業務改善と省人化で収益率アップを目指すのかなど、課題と目的をしっかり見定めることが第一。課題解決の手段はロボット以外にもあるわけですから、コストを冷静に比較し検討することが大切です」

近年はロボットの低価格化も進み、人と同じラインで作業を行える「協働ロボット」も登場するなど、導入のハードルは下がっています。

社会に必要とされるロボットなら世界にも広がる

ロボット製造に関わることで、新たな事業展開を目指す企業は何に気をつけるべきでしょうか。

「ロボット業界への参入を考えるなら、ロボット関連技術の情報はもちろん、マーケットの現状や将来展望、リスクなどについても情報収集した上で、自社の技術の強みを見極め、それを最大限に活かせることは何かを検討すべきでしょう」

特に市場が確立していないサービスロボット分野は不確定要素も大きく、既存の収益構造から離れるのが難しい大企業がイノベーションを生み出すことには困難が伴います。そのため海外では、スタートアップ企業がサービスロボットの開発を支えていると黒田氏はいいます。機動力はあるものの、経営の安定に向け、投資を着実に利益につなげていく必要がある中小企業の場合、連携なども視野に入れ、“挑戦”できる仕組みをどう作るかがポイントになるでしょう。

「今の日本では、ロボットの社会実装はまだ十分とは言えません。その現実を直視し、原因は何か、どうすれば解決できるかを真剣に考え、本当に社会で必要とされるロボットを開発する。それができれば、きっと世界中に広がっていくはずです。日本の産業復活の鍵は、ここにあるのではないかと私は考えています」

連載「賢いロボットの活用法とロボット事業参入のポイント」

黒田 洋司(くろだ・ようじ)
明治大学 理工学部 機械工学科 専任教授/SEQSENSE株式会社 共同創立者

1994年、東京大学大学院工学系研究科 船舶海洋工学専攻博士課程後期修了。明治大学理工学部機械工学科専任助教授、マサチューセッツ工科大学客員准教授、明治大学理工学部機械工学科専任准教授などを経て、2013年より現職。2016年、自律移動型警備ロボットなどを開発するスタートアップ「SEQSENSE(シークセンス)株式会社」を設立。東京大学生産技術研究所研究員、文部科学省宇宙科学研究所(現宇宙航空研究開発機構[JAXA]宇宙科学研究所)共同研究員。JAXAの小惑星探査ミッションに参加し、「はやぶさ/はやぶさ2」に搭載された小惑星探査ローバの開発に携わる。

取材日:2020年 2月13日