業種別開業ガイド

貴金属買取

2020年 3月 19日

トレンド

(1)店舗数の増大

業界最大手のひとつである「おたからや」は、2019年5月末時点で500店舗以上(オープン待ち含む。公式ホームページより)を展開しており、積極的にFC加盟店を募集している。なお、業界団体である日本リユース業協会の「日本リユース業協会統計(2017年度)」によると、リユース品の年間売上高はおよそ4,047億円となっている(同協会会員企業20社の合計)。

(2)貴金属価格の上昇

金の市場価格は2000年代前半から現在まで上昇傾向にある。資源としても価値が高いことから、売却する際のレートの変動も少ない。一般顧客が自宅に眠らせている貴金属類の「掘り起こし」にビジネスチャンスが眠っている。

(3)消費者マインドの変化

リサイクルショップや新古書店の定着、メルカリなどのフリマアプリの成長などから、消費者側にリサイクル・リユースに対する抵抗感が薄れ、所有する物品を買取に出すことについて、敷居が低くなっている。

(4)多様な場所への出店

狭いスペースで開業できることもあって、駅前などの一等地だけではなく、商店街やショッピングセンター内、郊外のドライブインといった、人通りのある様々な場所で店舗展開がなされている。一方で、在庫を抱える必要がないため、インターネット受付を活用し、マンションの一室で開業することも可能である。

ビジネスの特徴

主に一般顧客から貴金属類を現金で買い取り、専門業者へ売却することで利益をあげる構造となっている。

買取専門のため在庫を抱える必要がない。そのため、省スペースでの開業が可能である。設備投資についても、机、イス、パソコンやネットワーク敷設といった、最小限度の対応で済むことが多い。店舗販売を行わないため、商品を並べるためのショーケースも不要である。人件費などの固定費も抑えられるため、高収益が見込める。一般顧客への販売がないという点が、金券ショップ(チケットショップ)とは異なる点である。

一方で、商品買取のための資金を一定額用意しておく必要がある。これが不足していると、せっかく商品が持ち込まれても買取ができないという事態を招くことになる。

開業タイプ

(1)店舗型

実際に店舗を構え、持ち込まれた貴金属について買取を行う。小規模な起業・運営に関する研修や営業ツールの提供を見込み、加盟金や売上の一部をロイヤリティとして負担することで、大手フランチャイズに加盟することも考えられる。

(2)無店舗型

主にインターネットを通じて買取を受け付け、顧客から宅配便にて買い取り対象商品を送ってもらうことで査定を行い、銀行振込にて支払いを行う。

(3)店舗・無店舗併用型

(1)と(2)を併用するため、様々な経路から商品を買取ることができる。事業規模によっては店舗対応をする従業員を雇うなど、人材の確保が必要となる。

開業ステップ

(1)開業のステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)必要な手続き

開業前に、各都道府県の公安委員会から古物商許可を受ける必要がある。申請は、地域を管轄する警察署の生活安全課・防犯係にて行う。許可申請書のほか、申請の際に必要な書類について表にまとめた。こちらは警視庁のホームページにある記載を例としているため、詳細は最寄りの警察署に事前に確認したほうがよい。

また、複数の県に営業所が存在する場合は、それぞれの都道府県の公安員会から許可を受ける必要がある。

古物商許可申請必要書類一覧表

集客・宣伝

年配の一般顧客層については、貴金属買取店舗について質屋のような「お金に困った人が行くところ」というイメージが強く、ネガティブにとらえる傾向がある。そのため、明るくカラフルな看板を作成し、店舗内も白を基調とした清潔感ある内装とするなど、中に入りやすい雰囲気を出すことが望ましい。一方で、顧客のプライバシーに配慮し、仕切りを用意するなど、買取内容が他の顧客に漏れないようにするといった対応も重要である。

また、ポケットティッシュやチラシの配付、ポスティングを行うことで店舗の存在についての認知を促し、離婚や相続といったイベントが発生した際に来店していただくことが出来るよう、あらかじめ種をまいておく必要がある。

必要なスキル

個人で開業する場合は、貴金属査定・鑑定に関するノウハウを独自に身に着ける必要がある。FC加盟した場合は、査定に関する簡易的なツール(スマホアプリなど)が提供される場合があり、商品の買取について特別なスキルは不要である場合が多い。ただし、査定をミスして赤字になった場合、FC本部からは補填を受けられない場合もあるため、一定レベルの鑑定スキルを習得することが望ましい。

また、個人で開業した場合には、買い取った商品を売却する専門業者についても自ら開拓し、販路を確保する必要がある。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

小資本でも開業が可能な業態であり、ここでは賃貸によるモデルケースを示す。

【33平米程度の店舗を賃貸で開業する場合の必要な資金例】

必要資金例の表

※その他、当面の運転資金を確保することが望ましい。

(2)損益モデル

a.売上計画

買い取る商品の種類や単価等によって大きく異なるため、モデルケースを示すことは難しいが、当面の運転資金の状況を基準に計画を立てるのが無難であると思われる。

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は質屋に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の時点

質屋の指標であるため参考程度となるが、売上総利益は40.5%と高水準にあり、一人でも開業できるため人件費等の負担は軽く、さらに無店舗型であれば家賃の軽減も可能である。したがって、営業利益は5.2%となっているが、工夫次第でより多くの利益を計上することも可能な業態である。

一方で、商品買取のための資金を一定用意しておく必要があり支払先行の資金繰りとなるため、一定の手持ち資金を確保しておく必要がある。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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