業種別開業ガイド
管理栄養士・栄養士
2022年 6月22日
トレンド
(1)管理栄養士と栄養士の現状と需要
現代の日本では、30~40代などの比較的若い世代でも生活習慣病になる人が増えており、食生活や生活習慣などの面から健康問題を支える必要性が増している。こうした中、食管理・栄養管理のエキスパートとして管理栄養士や栄養士の需要が高まっている。
これまでは、病院や高齢者施設などが主な活躍の場であったが、アンチエイジングなどの流行もあって、その場は広がっている。エステサロンやフィットネスクラブなどで管理栄養士が活躍しているのがその例である。最近では、人生100年時代とも言われるようになり、今後も多岐にわたる分野での活躍が期待される。
(2)管理栄養士の配置を評価する加算が新設
2021年度介護報酬改定により、管理栄養士の配置などを評価する加算として、介護老人保健施設や介護医療院、特別養護老人ホームなどの施設系サービス共通で「栄養マネジメント強化加算」(11単位/日)が新設された。同加算は常勤換算方式で入所者数を50(施設に常勤の栄養士を1人以上配置している場合は70)で除して得た数以上の管理栄養士を配置し、低栄養状態のリスクが高い入所者に対して、医師、管理栄養士、看護師等が協働して作成した栄養ケア計画に基づいた食事の観察(ミールラウンド)を、週3回以上行うことなどが算定要件となっている。改定の背景には栄養改善の推進が打ち出されたことがあり、管理栄養士に対する注目がより一層高まると考えられる。
(3)管理栄養士と栄養士資格の取得難易度
栄養士は、厚生労働大臣指定の栄養士養成施設(大学、短大、専門学校)を卒業後、都道府県への申請を経ることで「栄養士資格」の免許取得は可能で、難易度はさほど高くない。
一方で、国家資格である管理栄養士は、栄養士養成施設または管理栄養士養成施設を卒業後、一定期間の実務経験(管理栄養士養成施設卒業者は実務経験免除)を積んだ後、国家試験に合格する必要がある。直近の結果では、第35回(2021年3月実施)管理栄養士国家試験の合格率は64.2%、2010年~2019年まで平均合格率は48.5%となっている。この数字を見る限り、管理栄養士の資格取得はやや難易度が高くなっている。
(4)管理栄養士と栄養士の免許交付の推移
厚生労働省によると、栄養士免許は毎年約2万件交付されており、累計交付数は約111万件である。栄養士の上位資格である管理栄養士免許は毎年約1万件交付されており、累計交付数は約25万件と、どちらの資格も単年の交付数に増減はあるものの、累計数は年々増加している。
ビジネスの特徴
独立して働く管理栄養士や栄養士の多くは、食品メーカーで商品開発に携わっていた人や、総合病院で栄養指導を中心にしていた人、飲食店で働いていた人など、様々なキャリアを持った人がおり、積み上げてきた経験や人脈を生かして仕事を獲得している。そのため、広く様々なテーマを取り扱うというよりは、「○○専門の管理栄養士」などのように、それぞれが築いてきたキャリアを生かしながら、自分の得意分野で管理栄養士や栄養士としてのスキルを発揮したほうが、仕事を獲得しやすくなる。
その後、フリーランスのメリットを生かし、様々な分野に取り組むことで活動の幅を広げるのが有効であろう。
開業タイプ
管理栄養士や栄養士の資格を活かして開業する場合、特に事業免許などは必要なく、資格さえ取得すればすぐに個人事業主として開業することができる。
ただし、開業ハードルが低いものの、十分な実績や経験がない場合には、開業後すぐに事業を軌道に乗せるのは難しい。そのようなケースでは、クラウドソーシングやSNS上で、管理栄養士や栄養士向けに募集されている、栄養や健康、美容、ダイエットに関する記事の作成や、献立の作成、料理動画の撮影と編集といった業務の請負から、業務を開始するのも一つの手であろう。
開業タイプとしては、主に下記のタイプがある。
(1)フリーランスとして開業
フリーランスとしては、料理教室の講師として収入を得るケースが最も多いようである。その他には、個人向け栄養相談の実施、雑誌やレシピ本、ウェブサイトに掲載するレシピの開発、情報誌などに掲載するコラムの記事を執筆するなどの業務を自身で獲得するなどのケースもある。
(2)企業との業務委託契約の締結
企業との業務委託契約に基づく業務遂行である。具体的には、食品会社やメーカー等でのアドバイザー業務や、レストランの商品企画開発、レシピ監修及びコンサルティング、クリニック・病院における栄養指導・特定保健指導、スポーツチームとの契約による栄養サポート業務、専門学校の講師などが挙げられよう。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
税務署へ開業届を提出。原則として開業後1ヶ月以内に最寄りの税務署に提出する。同時に白色申告もしくは青色申告の場合、青色申告承認申請書を提出する。
ターゲットとなる顧客層
管理栄養士や栄養士のニーズは病院や介護施設といった限られた分野だけでなく、幅広い分野で高まっている。そのため、自身が専門的に追及する分野(料理教室やセミナー、専門学校の講師、食や健康に関するアドバイス・指導、スポーツ選手の栄養サポート、レシピ開発、レストランコンサルティングなど)を明確にし、その分野ごとのニーズを調査することでターゲットを絞り込み、ターゲットに最も訴求できる集客手段を活用することが重要である。
必要なスキル
フリーランスとして仕事を得ていくには、栄養士よりも、国家資格である管理栄養士の資格を取得している方が活躍の場は広くなる。病気の人や身体に障害を持つ人も含めた栄養指導を行うことが認められているためである。また、管理栄養士以外の資格も取得して色々な肩書を持っている人が多く、最近では、特にフードビジネスの専門家であるフードコーディネーター資格を併せて持っている人が多い。
フリーランスの管理栄養士としてセミナー講師や特定保健指導といった仕事をするには、自分の持つ専門知識を相手にわかりやすく伝えるためのコミュニケーション能力も欠かせない。さらには料理教室やセミナーを開催したり、独自のレシピを考案したりする際には、アイデアや企画力、レシピ作成や執筆の仕事を請け負うのであれば、ある程度のパソコンスキルや文章力も求められる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
自宅で開業する場合、最低限パソコンと携帯電話があれば開業でき、初期費用や家賃といった諸経費を抑えることができる。
【自宅を改装し小員数制の料理教室を開業する場合の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下のとおりとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益及び営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は菓子小売業(製造小売)に分類される企業の財務データの平均値を掲載。出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
※売上原価に人件費を含む。
(3)収益化の視点
栄養士の資格を持っている人は多く、それだけで生計を立てていくのは難しいが、管理栄養士を併せて取得しているだけでも、取り扱える業務の範囲が大幅に広がる。さらに、特定保健指導担当管理栄養士、公認スポーツ栄養士、日本糖尿病療養指導士などの資格を併せて取得し、専門性を高められれば、他の管理栄養士などと差別化を図ることができる。
複数の案件を稼働させ実績と人脈を蓄積していく一方で、専門性を高めて業務の幅を広げていくことも収益化には必要である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)