業種別開業ガイド

給食業

トレンド

(1)働き方改革にともなう福利厚生の向上

株式会社矢野経済研究所の調査によると、2017年度の市場規模は4兆7,219億円となっており、主に高齢者および事業所向けの給食サービスが市場を牽引している。従業員の満足度向上や人材定着の観点から、企業が社員食堂の設置や給食サービスを利用することについてのニーズは高い。
一方で、社員食堂を設置するには設備的な問題も大きく、それを解消するためのデリバリーやケータリング、無人販売形式などの様々なサービスが登場している。

(2)新調理システムの導入

以前までは「クックサーブ」と呼ばれる、当日調理を行い、その場で提供する仕組みが主流であったが、調理者ごとの技術の不均一が課題となり、メニューが限定されてしまうデメリットもあった。さらなる安定性・安全性向上のため、大手給食サービスにおいて「クックチル」と呼ばれる新技術が導入されている。
この新技術は、調理済みの料理を急速冷却し、保管することが可能であり、提供するタイミングで加熱・解凍する仕組みとなっている。このため、食品衛生と効率化の両面での効果が期待できる。いわゆる「作り置き」とは一線を画する技術であるといえる。

(3)健康志向の高まり

外食やコンビニ弁当よりも、バランスのとれた食事を求める傾向が高まっている。映画化もされた「タニタの社員食堂」のように、ヘルスケアに携わっている企業が、食を通じて社員の健康維持に取り組む例も増えてきている。

バランスのとれた食事

ビジネスの特徴

企業や病院といった各施設において、主に特定多数の顧客を対象に食事を提供する。委託者が用意する施設を活用して事業を行うため、設備投資に関する負担は少ない。光熱費や設備使用料については、委託者との契約内容によって異なる。
委託者が捻出可能な費用が縮小傾向であることもあり、惣菜を無人で販売する形式や、弁当のデリバリーといった様々なニーズに対応する業態が登場している。
費用の大半は食材費と人件費が占めており、その収益は従業員やパート・アルバイトの賃金水準に大きく影響を受ける。また、受託する施設の場所に応じて、対応可能な仕入れや廃棄処理のためのルートを確保する必要がある。

委託者ごとの傾向

(1)企業(事業所)

民間企業の社員食堂については、参入競争は厳しい。一方で、自衛隊の基地や駐屯地の食堂が民間委託されるケースも発生している。

(2)病院

病院については、入院患者への食事を提供する事業と、職員や来院者に提供される給食事業がある。患者に提供する食事については、ひとりひとりの病態にあわせた献立の作成が必要である。人間ドックを実施している場合は、その際の昼食など特別メニューの提供を求められることもある。いずれの場合でも、委託者である病院の栄養評価基準を満たした内容での提供が必要となる。

(3)学校

学校給食については、民間企業への外部委託傾向が進んでいる。各学校の調理場のほか、共同給食調理センターの運営を外部事業者に委託するというケースも多い。

(4)高齢者関連施設

少子高齢化社会の到来に伴い、需要は増加している。一方で施設側の予算は潤沢とは言えないことも多く、給食について多くの予算を割けないことから、低価格でのサービス提供が求められる傾向にある。施設によっては調理設備が十分でないこともあり、調理師の人材派遣としてのニュアンスが強く出る傾向にある。

(5)保育所

都市型の保育所では調理用の施設を確保できないことも多く、セントラルキッチンで調理された食事をランチボックスに詰めてデリバリーするという形式がとられることも多い。

子ども用の食器

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

事業計画の作成・資金調達→仕入・廃業ルートの確保(セントラルキッチンの準備)→調理人材の確保→プロボーザル等への参加・受託者選定→受託者との契約→開業

(2)必要な手続き

【食品衛生法に基づく営業許可】

企業や学校、病院など、実際に出店する際に、食品衛生法に基づく営業許可が必要となる。申請は管轄する地域の保健所食品衛生課にて行う。この点は、一般の飲食店と同様である。

【食品衛生責任者の配置】

各施設には食品衛生責任者を1名置くことが義務づけられているため、その任を受けた者は管轄の保健所にて講習を受ける必要がある。もしくは、調理師、栄養士、製菓衛生師等の資格を持つ人材がいれば、そちらを食品衛生責任者とすることも可能である。

【健康増進法に基づく届出】

健康増進法における「特定給食施設」(特定多数人数に対して継続的に1回100食以上または1日250食以上の食事を供給する施設)については、該当する施設設置者の届出や管理栄養士の配置が義務づけられている。届出先は、出店地域の保健所食品衛生課となっている。

【食品製造業等取締条例】

健康増進法における「その他給食施設」については、食品製造業等取締条例に基づく届出を、出店地域の保健所食品衛生課行う必要がある。

導入形態の多様化

以下に述べるサービス形態は、施設にて食事を提供する給食業とは別に、食に関する多様なニーズに応える形で実績を伸ばしており、年々その存在感を増してきている。

(1)無人販売方式

さばの味噌煮、ひじき煮、玄米ごはんといった惣菜を無人販売形式でオフィスに設置するサービスが登場している。業界最大手のひとつである「ぷち社食サービス オフィスおかん」については、残業中など様々な時間帯に利用できることもあり、導入実績が1500社以上にのぼっている(2019年5月現在)

(2)高齢者向け宅配サービス

高齢のため家事や買い物が困難な方の自宅へ、調理済みの食事を日々配達するサービス。現在では大手企業から地場系給食事業者まで、幅広く参入してきている。一人暮らしのお年寄りを顧客とすることも多く、買物弱者の救済や地域見守りといった福祉的な側面から、自治体と協力した事業となることもある。

机に並べられた給食

必要なスキル

なによりも人手が必要な事業であるため、調理師(調理師免許の有無は問わない)を十分に確保することが最優先となる。
また、公的施設の事業者決定にあたってはプロポーザル入札方式が取られることが多く、自社を選んでもらうための企画提案力が必要となる。また、選定にあたっては飲食店実績や出店地域への理解度(地元特産品を活用した地産地消メニューの考案など)が重視される傾向もうかがえる。
近年では公平性の観点から毎年度入札を行う例もあり、継続して受託するためには、日頃から改善点や顧客ニーズを把握し、分析するといった管理能力も必要となってくる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

委託者が用意する施設を活用して開業することを前提とし、1日300食以上の食事を提供する施設を運営することを仮定して、開業資金モデルを示す。

開業資金例

(2)損益モデル

a.売上計画
年間営業日数、1日あたりの食数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

売上計画例

b.損益イメージ
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益イメージ例

※標準財務比率は持ち帰り・配達飲食サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点
基本的に設備資金負担は少ないことから、開業資金などの投下資金に対する利益率は比較的高く資本効率は良い。東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」によると、総資本回転率(回)は1.7となっている。
ただし、委託者の厨房設備の一部負担や契約時に保証金を差し出すケースなどはある。また、セントラルキッチンやクックチル等の新技術導入に伴う専門調理器などが必要になるケースもある。
一方、資金負担の大半は食材費や人件費であり、これらの負担をうまくコントロールすることが求められる。セントラルキッチンなどを上手く活用し、人件費の削減や作業効率化などにより採算性を上げていくことが重要である。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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