業種別開業ガイド

定食店

2024年 12月 11日

定食店のイメージ01

トレンド

(1)健康志向メニューの増加

健康志向が高まる中、栄養バランスに配慮したメニューが主流になりつつある。低カロリーや低糖質メニューに加え、「フレキシタリアン」(植物性食品を中心にしつつ時折動物性食品も摂るスタイル)や「ビーガン」(動物性食品を完全に排除)向けの料理も登場している。たとえば、豆腐ハンバーグやグリル野菜をメインにした定食は、若年層から特に支持を得ており、健康と環境保護の観点からも注目を集めている。こうしたメニューは、健康志向の顧客を呼び込むだけでなく、店全体のイメージアップにもつながっている。

(2)地元食材の活用

地産地消の考え方が強まる中、定食店でも地元の新鮮な食材を積極的に取り入れる動きが見られる。特に、燃料費の高騰に伴い、地元産の野菜や魚を活用することが輸送コスト削減にも寄与している。こうした地元食材を使った「地産定食」は、地域の特色を楽しめるため観光客にも好評である。また、地元の生産者との連携が強化され、地域経済の活性化にも貢献する取り組みとして注目されている。

(3)テクノロジーの導入と省人化

新型コロナウイルスの影響で、定食店でもデジタルツールの導入が急速に進み、従来のイートイン中心から、テイクアウトやデリバリー対応の体制が整ってきている。モバイルオーダーやセルフ決済の導入により、少人数での運営が可能となり、省人化が進んでいる。また、厨房では調理ロボットやIoT技術を活用し、食材管理や調理の自動化を進め、効率的な経営が実現している。

(4)エスニック風味や多国籍メニューの導入

定食店でも和食の枠を超えた多国籍なメニューが増加している。たとえば、ナンプラーやニョクマムといったエスニック調味料を使った魚料理や、唐揚げにアジア風スパイスを加えるなど、和の定食に異国の風味を取り入れたメニューが人気である。従来の「定食店=和食」という固定観念が薄れ、料理のジャンルよりも「どんなコンセプトで、どんな体験を提供するか」が重視されるようになってきたといえる。特に若年層や観光客には、こうしたエスニックな味わいを楽しめるメニューが受け入れられており、店舗の個性を引き出すポイントとしても注目されている。

(5)高単価メニューの定着

コロナ禍を経て、夜の飲食機会が減少する中、ランチタイムやティータイムに「少し贅沢な食事」を楽しむ傾向が強まっている。その結果、昼間の外食での客単価が上昇し、定食店でも1,500円以上のプレミアム定食や高級食材を使ったメニューの提供が進んでいる。この傾向は、昼間に満足感の高い食体験を求める消費者の意識の変化を反映しており、定食店でもこうした需要に応えるための新しい価値提供が重視されている。リーズナブルなイメージを保ちながらも、より高品質で特別な料理が提供されることで、定食店のプレミアムな体験が実現している。

近年の定食店事情

飲食業界全体で人手不足が深刻化する中、定食店でも従業員の確保が大きな課題となっている。限られた人員で効率的に運営するため、短時間のシフト制や週休3日での勤務体制の導入が進む一方で、従業員の働きやすさを重視し、職場環境を徹底的に改善する店舗も増加している。こうした働き方の柔軟性は、特に若年層やシニア層の雇用を支える重要な要素となっている。

また、食材コストが全般的に高騰している中、飲み物で売上を立てるのが難しい定食店では、大幅な価格改定が必要となるケースが多い。客単価の引き上げが進む一方で、顧客からは価格に見合う価値やサービスが求められるようになっていることも経営上の大きな課題になっている。

さらに、コロナ禍の行動制限の影響により、1人で食事をする消費者が増加し、この傾向はコロナ禍収束後も続いている。これに対応して一人客向けのサービスが強化されており、一人分の小さめの定食やサッと食べられる丼ものが人気を集めており、セルフサービスやカウンター席の導入などの対応が求められている。

こうした一人客の客単価も上昇傾向にあり、ランチやディナーで個人利用が増える中で、従来よりも少し高いメニューを注文する傾向が見られる。また、この「個食」ニーズはテイクアウトやデリバリーでも顕著に表れており、特に利便性の高さが消費者から支持される傾向にある。このニーズに確実に応えることが売上の下支えになるだろう。

また、消費者の衛生意識が高まったことにより、感染症対策として様々な方法が定食店にも導入されている。テーブルの消毒や非接触型決済、セルフオーダーシステムの導入が広まり、これらの対応は消費者に信頼感や安心感を与えている。商品の包材においても、個別包装や持ち帰り可能なパッケージの採用が進んでおり、衛生面のスタンダードはこの数年で大きく引き上げられた。

なお、原材料費やエネルギーコストの上昇により、仕入れコストの管理が難しくなっており、食材の使用量を最適化し、真空包装機の導入で賞味期限を長くすることでコスト削減を図る店舗が増えつつある。さらに、徹底的な作業の自動化を進めており、ある程度の規模を持った店舗では、デジタルツールの導入だけでなく、配膳ロボや清掃ロボなどの導入をし、最低限の人員で運営できることを前提として設計される店舗も増えている。

昼食(飲食店)の1人当たりの平均客単価(2021年1~8月計)

開業のステップ

開業のステップ

必要なスキル

定食店の商品は、日常的な家庭料理に分類されるため、顧客に「いつもの味」を感じさせる安心感を提供しつつも、家庭での調理よりもハイクオリティなものを安定的に供給することが必要となり、これは特に調理技術とメニュー開発力に関わる重要なポイントである。

家庭で作る料理とはひと味違うプロの技術や工夫が求められるため、調理の安定性とともに、盛り付けや味付けでひと工夫を加え、見た目にも満足感を与える料理を提供することが大事である。

また、接客においては、特に忙しいランチタイムでのスピード感が重視され、効率的なサービス提供と迅速な対応が求められる。これは、一人客や短時間での食事を求める顧客の満足度に直結するといえる。

さらに、定食店の経営では、原材料の仕入れや管理において、厳密なコストコントロールが必須となる。これは定食の価格帯が比較的リーズナブルなため、飲食業界全体と比べて原価率が高いことが一因である。そのため、無駄を最小限に抑えた食材の使い方や、季節や仕入れ価格の変動に応じた柔軟なメニュー構成、地元食材の活用といった方法で、コストを厳密に管理するスキルが、安定した収益を確保するためには必須である。メニューの切り替えの迅速さも求められる業態のため、オペレーションだけでなく企画力や経営判断においてもスピード感が求められる。

定食店のイメージ02

定食店に役立つ資格、必要な許可

必要な許可に加えて、差別化につながる資格の取得を検討し、経営の質を高めることが重要である。

フードコーディネーター:食材の検討付けや調理法、盛り付けに関する知識を学ぶ資格で、定食店におけるメニュー開発や料理の提案力を高めるのに非常に有効である。多様なメニューを提供する必要があり、フードコーディネーターのスキルを活用することで、食材の組み合わせや見栄えの良い盛り付けが可能になる。

食品衛生責任者:必須の資格で、1日の講習で取得可能。

防火管理者:店舗の規模や構造によっては、防火管理者の設置が必要となる。

営業許可:保健所での「飲食店営業許可」の取得が必要である。この許可を取得するためには、店舗が設備基準を満たし、食品衛生責任者が配置されることが条件となる。

開業資金と運転資金の例

開業にかかる資金と月々の運転資金の目安は以下の通りである。地域や店舗の規模によって異なるが、一般的な定食店の場合、参考となる内訳はおよそ以下の通りである。また開業資金に余裕があるならば、開業当初より作業の自動化を念頭に置いた店舗レイアウトを構築することが望まれる。

【店舗条件】
東京都目黒区 駅まで7分 12坪 家賃25万円 席数23席

開業資金と運転資金の例

売上計画と収益イメージ

前項の条件と同様の店舗開業した場合の3年間の収支予測を以下に掲載する。

食材原価率が少しずつ減少しているのは、売上金額が大きくなるにつれ、食材ロスが減少することを考慮している。また、客単価が徐々に上昇する点は、営業歴が長くなるにつれ、サイドオーダーや追加のトッピングなどが増えていくことを盛り込んでいる。創業当初の半年間については、ランチのピーク以外は1名でのオペレーションを想定しているが、運転資金に余裕があれば、当初より2名体制で臨みたい。

売上計画と収益イメージ

助成金の情報

定食店で活用できる助成金として、「人材開発支援助成金」を確認するべきだ。作業の効率化のためにデジタルツールを導入する場合、スタッフを教育する研修費や研修時間の人件費を補助してもらえる制度である。雇用保険に入っていることが必要だが、ほとんどの事業所がこれに該当するため、そのほかの支給条件などを確認し、利用すべきである。また国からの支援だけでなく、各市町村でも創業時の宣伝費や家賃のサポートなど、様々な補助金・助成金の制度があるので詳細を確認してみるべきだ。

定食店のイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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