業種別開業ガイド

テーラー(注文洋服店)

トレンド

テーラーとは、顧客の注文に応じて紳士服や婦人服などを仕立て販売する事業者である。

1. 成人男性向け市場は底堅く推移

総務省統計局「家計調査」によると、フォーマルウェアを中心とした紳士服、婦人服ともに1世帯あたりの消費支出額は10年前に比べて大きく減少している。この背景としては、大手メーカーの既製服の浸透で単価が大きく下がっていることや、「クールビズ」などオフィスカジュアルが浸透してきたことなどがあげられる。とは言え、紳士用に関しては、2011年頃から消費支出額の下げ止まりがうかがえる。

  • 背広服:三つ揃えスーツ、礼服(モーニングなど)
    男子用上着:ジャケット、ブレザーなどの背広型の上着
    婦人服:ワンピース、ツーピース、ニットスーツ、ドレスなど
    婦人用上着:ジャケット、ブレザーなど
  • 数値は世帯平均値であるため、一度も購入してしない世帯も加味されている。

2. 堅調な子ども服市場への進出

子ども服への家計消費支出額は、長期にわたり堅調に推移している。

  • 子ども服:1歳以上小学生以下を対象とした洋服
  • 数値は世帯平均値であるため、一度も購入してしない世帯も加味されている。

テーラーの中には、この需要を取り込むべく、子ども服のオーダーを受けているところもある。子ども向けスーツに関しては、入園(学)式や習い事の発表会などで着る服として需要がある。

テーラーの特徴

  • テーラーが仕立てる洋服は、主に紳士・婦人用のスーツ、ジャケットやコートなどである。仕立て方法には、依頼者の要望に応じて生地を選び、デザインを一から作り上げる「オーダーメイド」のほか、数種類のパターンから服の仕様を選ぶ「イージーオーダー(パターンメイド)」がある。また、製法としては、手縫い職人がほとんどの工程を手で縫製する「ハンドメイド」、機械を使い製造する「機械縫製」がある。
  • オーダーメイドの作業工程は、(1)採寸、(2)型づくり、(3)裁断、(4)仮縫い、(5)調整、(6)縫製という手順を踏む。熟練した技術を必要とし、手間と時間を要するため、1着当たりの価格は高めで設定される。オーダースーツの平均価格は、ハンドメイドでおおよそ17~20万円程度が相場である。また、イージーオーダーで機械縫製の場合は数万円からの仕立てが可能であり、高級生地を使ったオーダーメイドの場合は100万円を超える場合があるなど、価格幅は大きい。
  • 現在では、廉価な既製服が市場の多くを占有しているが、着心地にこだわる人が、既製服の次のステップでオーダーメイドに近いスーツを試してみる、というケースも見られる。また、経営者や医者など高所得者の中には、単なるブランド品には飽き足らず、「自分だけのための1着」に価値を見いだす人も存在する。自分だけにフィットする着心地や、他人との差別化へのこだわりを追求するのがテーラーだと言える。

テーラー業態 開業タイプ

あらかじめコンセプトを定め、それに沿って店舗タイプを選定することが重要である。テーラーの場合、店舗をもつケース(1)ともたないケース(2)、受注から製造までの全工程を自社で行うケース(a)と一部を外注するケース(b)の組み合わせで、4タイプあると考えられる。

(1)店舗型
一等立地や百貨店内などに店舗を構え、採寸と調整を店内で行い、型づくり、裁断、仮縫い、縫製を、作業所(工場)で行うタイプである。

(2)無店舗型
作業所(工場)のみをもち、採寸、調整などの顧客対応は訪問形式で行うタイプである。

そのほか、製造工程をどこまで自前でやるのかによってもタイプが分かれる。

(a)全工程対応型
生地の仕入れから製造の全工程までを自社で行うタイプであり、カスタムテーラー(ビスポークテーラー)とも呼ばれている。熟練した職人を自社で抱えることになり、人件費が多くかかるが、パターンメイドや一部機械縫製の導入などでコストダウンを図っているところもある。

(b)一部工程外注型
製造工程のうち一部を外注するタイプである。特に熟練技術を要する縫製工程を外注するタイプが多い。このタイプでは、経営者は営業活動に専念することができると同時に、熟練職人の雇用コストの削減にもつながる。

開業ステップと手続き

(1)開業ステップ

開業に向けてのステップは、主として以下の7段階に分かれる。店舗を設けない場合は、出店先の決定などは省かれる。

(2)必要な手続き

テーラーを開業するに際して、特に必要となる許認可などはない。

メニューづくりと施策

  • オーダー服の注文量は季節変動が大きい。特に入学・入社シーズンの前月(3月)や、冬に入る前(秋口)頃に注文が増える。繁忙期前に、キャンペーンの案内を出し、生地の仕入、必要に応じて人員補充の手配もしておかなければならない。生地に関しては、生地専門の卸売業者から取り寄せるのが一般的である。また、他社との差別化のため、高級生地を調達する場合は、事業主自らがイタリアなどの現地へ赴き、現物を確かめてから仕入れている人もいる。
  • 高額なオーダーメイドスーツを購入するのは富裕層などに限られるため、顧客のリピーター化がたいへん重要となる。購入者に対しては、修繕サービスや、御用聞きなどを定期的に行う必要がある。
  • また、多くの顧客を抱えるテーラーは、販促ばかりではなく、既存顧客の紹介で新規顧客を獲得しているところも多い。誂えたスーツの品質の良さは当然のことながら、顧客と信頼関係を築き、気持ちよく顧客紹介をしてもらえるような関係を維持することも重要になる。

必要なスキル

  • まず採寸してから、依頼者の体形に合わせ、デザインや全体のバランスを考慮に入れつつ、型を作る。裁断し仮縫いを行った後に、依頼者と、ポケットの位置や襟の高さなど、細部の打ち合わせを提案も交えながら行う。縫製では、依頼者の体形や生地の強度を加味して補強も加えながら作業を進めていく。このような、採寸、型作り、裁断、仮縫い、調整、縫製のいずれの工程においても熟練の技術や見識が必要とされる。
  • テーラーには、仕立ての技術力だけでなく、センスの良さや顧客に似合うデザイン、好みの生地などを見極める目利きの力も求められる。生地に関しては、着心地、肌触りの良さ、丈夫さや美しさなどを、実際に現物を見て仕入れの判断をするようにしたい。
  • 営業ツールとしては、ホームページの開設が必須である。ホームページ開設の際は、自社コンセプトや価格を明記するのはもちろんのこと、仕立て工程や仕立て例などもわかりやすく提示するとよい。また、ホームページ上で寸法やデザインなどを入力してもらいイージーオーダーを受けるフォームやシステムを導入しているところもある。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

テーラー開業に必要な設備は、ミシン、アイロン程度であり、高額な資金は要しない。以下は、自宅の一部を事務所兼店舗(打ち合わせ・仮縫い所)とし、縫製を外注するタイプでテーラーを開業する場合の資金例である。

【参考】:テーラー(店舗型・一部工程外注型)

(2)損益モデル

■売上計画

自社の生産能力、商圏規模などの特性を踏まえて、売上の見通しを立てる。

(参考例)テーラー(独立店)

■損益イメージ(参考例)テーラー(独立店)

人件費:従業員1名を想定
  • 個人事業主を想定していますので、営業利益には個人事業主の所得が含まれます。
  • 開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況などにより異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

掲載日:2019年3月

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