業種別開業ガイド
靴製造小売業
- 靴には素材別に分けると、革靴・ゴム靴・ケミカル靴・布靴などがあるが、ここでは革靴製造業を中心に考える。日本の靴製造業は大都市集中傾向にあり、東京では台東区、大阪では西成区を中心に、いわゆる下町に集中している。紳士靴に関しては、ベーシックな定番品が多いため大量生産が可能であり、その結果、大手メーカーが成長した。一方、婦人靴は少量多品種生産の傾向が強いため、中小零細メーカーが数多く存在していた。しかしながら、近年は、安価な輸入品の増加により国内メーカーは徐々に淘汰され、事業者数は減少している。
- 一方、家計の履物類全体に対する年間支出額は近年横ばい傾向が続いている。しかし、購入単価が他の靴に比べて高い婦人靴については、支出額が増加している。
- 靴は日用消耗品であるが、非常に嗜好性の強い商品でもある。こだわりのある人は靴に数十万円を費やすことも珍しくない。また、人の足の形は千差万別であり、靴が自分の足に合っているかどうかが歩きやすさに直結することから、ファッション面だけでなく健康面からオーダーメイドの靴を求めるニーズもある。
足に合わせて木型を作り、職人が手作りで仕上げるオーダーメイドの工房についても、職人の高齢化により事業所数は減少している。しかし一方で、長期的な不況・就職難の影響で、手に職を付けることを目指す若者が増えており、靴職人についても注目度が高まっている。こうした背景から、靴職人が開催する靴作り講座は、カルチャースクールのような趣味の領域から本格的な技術を目指すものまで人気がある。若い職人による靴工房も多く、若者の開業が多いこともうかがえる。技術を習得して独立する若者も一定数存在していると考えられる。 - 輸入品の靴は今後も一定数以上の市場を占め続けると考えられるが、高品質やオーダーメイドの靴の需要も根強く存在し続けると考えられる。
1.起業にあたって必要な手続き
開業にあたって必要な資格などはなく、原則的に自由である。一般の開業手続きとして、個人であれば税務署への開業手続き等が必要となる。法人であれば必要に応じて、健康保険・厚生年金関連は社会保険事務所、雇用保険関連は公共職業安定所、労災保険関連は労働基準監督署、税金に関するものは所轄税務署や税務事務所にて手続きを行う。
靴作りの技術については、靴職人に弟子入りするケースや、一般に開講されているスクールに通って習得するケースが多い。また、日本には靴作りの専門学校が少ないため、イタリアやイギリスなどに留学して技術を習得するケースも一部に見られる。
2.起業にあたっての留意点・準備
・業態
靴製造業を新規開業する場合、考えられる業態としては、デザインや企画を主体として製造に関しては外注(海外生産含む)するファブレス製造業と、1足1足採寸から製造までを職人が行うオーダーメイド靴製造小売業と大きく2種類に分かれる。
また、自社製造しながら一部製造を外注したり、一部他からの仕入品を販売する形態もある。既存の靴製造業は大手メーカーの下請けとして量産品を製造する企業も多いが、今後新規開業する場合は、デザインや品質に独自性を持った、よりオーダーメイドに近いオリジナルの靴を製造する方向で考えることも差別化を狙うには良い方法である。
・品揃えとサービス
靴職人が数ヶ月かけて作る1足数十万円する靴は、工芸品的な性質も併せ持ち、デザイン力とそれを表現する技術力が求められる。
一方、独自の機能を売りにした靴も考えられる。たとえば、ウォーキングに適している、高齢者向き、片足ごとに形が違う、抗菌、新素材など、量産品では実現しにくい機能を備えた靴を考案できれば、その専門店としてニッチなターゲットを発掘していく方向も考えられる。
また、靴の製作・販売だけでは売上の限界がきてしまう。特に1人で1足ずつ製作している場合、1足を仕上げるのに数ヶ月を費やしてしまう場合もある。ある程度の規模で事業として店舗経営する場合は、自社での靴製造以外の売上の柱が欲しいところである。ベルト、鞄、財布、他の革小物製品などを同時に製作販売するのも一案である。
また、多くの靴工房が靴作りの講座を開設している。講座は、新規客の間口を広げ、店舗の知名度を上げる。作業場を使って少人数の靴作り講座を継続的に開催することを収入の別の柱としても良いだろう。
・広告宣伝
オーダーメイドの要素が強い工房的な店の場合、より広域な商圏をターゲットとする必要があるため、インターネットと口コミが重要な宣伝ツールとなる。
ホームページに関しては、現状の各店舗のサイトを見ると価格が示されていないことが多い。職人のこだわりが強いオートクチュール的な店ほど価格を表示しない傾向が強い。オーダーメイド靴の価格としては、初期の木型が3~6万円、靴1足で10万円ほどが相場であるが、著名な職人の作品は30~40万円という場合もあり、様々である。1足ごとに、素材やデザイン・機能が異なり、価格が変動的になるのは仕方がないが、おおよその目安でもよいので表示した方が、問い合わせする側の敷居が下がる。
また、事前にある程度のパターンを製作しておき、価格を明示し、気軽にオーダー靴を作る店を目指すのも他社との差別化となり得るだろう。いずれにしても、自社のコンセプトを明確にし、情報開示することが、ホームページで最大限集客する際に重要なことといえる。
3.必要資金例
以下は、靴職人が、路面立地にて工房兼店舗を賃借し、靴作り講習も開講するオリジナル靴製造小売店を開業する場合の資金例です。
4.ビジネスプラン策定例
1)売上計画例
(1)はカルチャースクール(全4回)
(2)は本格的な技術習得コース(半年コース)
2)損益計算のシミュレーション
- ※初期投資一括計上分は、開業費の金額
- ※減価償却費は、設備工事費・什器備品費等の額を5年で償却したもの
- ※必要資金、売上計画、シミュレーションの数値などにつきましては出店状況によって異なります。 また、売上や利益を保証するものではないことをあらかじめご了承ください。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)
最終内容確認2014年1月