業種別開業ガイド
靴修理・靴磨き店
2025年 2月 21日
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トレンド
靴修理・靴磨き店は、履物をメンテナンスし、長持ちさせるためのサービスを提供する専門店である。主なサービスには次のようなものがある。
- 靴修理
ソールやヒールの交換、ステッチの修繕、革部分の補修など。ソール交換は特に人気の高いサービスで、消耗が早いスニーカーや革靴が主な対象となる。 - 靴磨き・ケア
革靴やスニーカーの表面をきれいにし、光沢や柔軟性を保つサービス。高級靴磨きや防水加工、抗菌処理などのオプションもある。 - アクセサリー販売
シューツリー、クリーム、ブラシなど、日常の靴ケアに必要な商品の販売も行う。
国内の靴修理・靴磨きの市場規模や、そうしたサービスを提供する店舗数の推移を示す統計はないが、靴・履物市場を見ると近年は底堅い需要と新しいトレンドで横ばい、または微増に転じている。コロナ禍で大きく落ち込んだ2020年から徐々に回復し、今後は1.2~1.3兆円の市場規模に推移すると予測される。
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また、靴・履物のアイテム別の市場規模を見ると、紳士靴や婦人靴がほぼ横ばいであるのに対して、スポーツシューズ(スニーカー含む)の市場が拡大していることが分かる。これにはビジネスシーンをはじめとしたファッションのカジュアル化が寄与していると考えられる。
これらの予測から、靴修理・靴磨きのサービスに関しては、紳士靴・婦人靴の多くを占める革靴は今後も一定のニーズが見込めるが、それに加えてスポーツシューズ向けのサービスを充実させることも売上を伸ばす一つの鍵になる。
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近年の靴修理・靴磨き店事情
近年の靴修理・靴磨き店には、以下のような傾向が見られる。
スニーカーケアの需要拡大
スニーカーがファッションアイテムとして人気を集めており、クリーニングや修理、カスタマイズに特化したサービスが拡大している。コレクター向けの高級クリーニングキットや、オリジナルカスタムサービスも注目されている。
修理によるリユース志向
環境意識の高まりから、使い捨てではなく修理して長く使う選択肢が広がっている。特に高級革靴や特別な思い出のある靴の修理を選ぶ人が増加傾向にある。また、環境負荷の少ない材料や方法を用いた修理を希望する客もいる。
オンラインサービスの普及
靴を郵送して修理を依頼するサービスや、AIによる修理見積もり、進捗管理が可能なアプリが増えている。これにより、地方から依頼を受ける店舗もある。また、靴磨き用品や修理道具のオンライン販売も活発化している。
プレミアムサービスの拡大
高級革靴やブランド品に特化した修理・ケアサービスが登場している。丁寧な手作業や高品質な材料を用いたサービスが好評。
抗菌・抗真菌ケアの普及
コロナ禍以降、抗菌や防臭を目的とした靴ケアサービスの需要が増加。衛生面を重視する消費者向けの商品やサービスを選ぶ客も見られる。
これらの傾向は、靴修理・靴磨き業界が従来の単なる修繕の枠を超え、ライフスタイルや環境意識、ファッションの進化と関連していることを示している。
靴修理・靴磨き店の仕事
靴修理・靴磨き店の仕事は多岐にわたる。以下にその詳細を紹介する。
靴修理
- ソール(靴底)交換:革靴、スニーカー、ブーツなど、靴底の摩耗や破損に対応。
- ヒールの修理・交換:ヒール部分が削れた靴の修理や新しいヒールの取り付け。
- ステッチ修理:革靴の縫い目のほつれや破れを修繕。
- 革の補修・塗装:革のひび割れや色あせを補修し、新品同様に仕上げる。
靴磨き・ケア
- クリーニング:スニーカーや革靴の汚れを取り除き、専用の洗剤やブラシで丁寧に清掃。
- 革靴磨き:革の種類や状態に応じたクリームやワックスを使い、光沢を出す。
- 防水・抗菌加工:撥水スプレーや抗菌剤を使って、靴を保護し、衛生状態を保つ。
- 靴のカスタマイズ:サイズ調整。フィット感を改善するため、中敷きや革の伸縮加工を実施。
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靴修理・靴磨き店の人気理由と課題
靴修理・靴磨き店は、比較的始めやすく、環境に配慮した社会的価値の高いビジネスである。また、工夫次第で成長の可能性を広げられる業界でもある。
人気理由
- 安定した需要
- 低コストでの開業が可能
- デジタル技術を活用した拡大の可能性
- 社会貢献とエコ活動の側面
- 技術職としてのやりがい
課題
- 価格競争と利益率の低下
- 顧客リテンション(維持)の難しさ
- 熟練職人の減少
- オンライン対応の遅れ
- 環境対応の要求
開業のステップ
靴修理・靴磨き店の開業には、個人で独立して開業するか、フランチャイズに加盟して開業するかの大きく2つのパターンがある。それぞれの一般的な開業ステップは以下のようになる。
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靴修理・靴磨き店に役立つ資格
靴修理・靴磨き店の起業に必要な資格はないが、特定の技能や知識を証明する資格を取得することで、信頼性や技術力を高めることができる。
皮革製品製造技能士(国家資格)
革製品の製造・修理技術を証明する国家資格で、特に靴修理に役立つ知識が学べる。1級、2級といったレベル別に試験がある。
皮革製品メンテナンス技術士
革製品のメンテナンスに関する資格で、靴やバッグなどのケア技術を学べる。主に靴磨きや革の補修技術が求められる分野で役立つ。
シューケアマイスター
革靴の手入れや靴磨きなど、靴のケアに関する高い知識と技術を認定する制度。靴磨きや靴修理、靴の販売全般に有益な資格。
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開業資金と運転資金の例
前述の通り、靴修理・靴磨き店の開業には個人開業とフランチャイズ開業の2つのパターンがある。個人開業の場合は、事業計画の規模により店舗を借りるか自宅を改装するか、自身で選べる。フランチャイズ開業の場合は、数人の小規模サロン型とネイリストを多数抱える大規模サロン型がある。ここでは、自宅を改装した個人開業と、従業員2人の小規模フランチャイズ開業の比較で紹介する。
開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。
- 物件取得費
前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など - 内外装費
壁床リフォーム、照明設置、換気設備、空調設備、看板設置など - 備品・消耗品費・原材料費
作業台、収納家具、修理用工具、靴磨き用品、パソコン、電話など - 広告宣伝費
チラシやSNS広告など
※フランチャイズの場合には、別途加盟金や保証金などがかかる。
以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。
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個人開業は低コストで始められる半面、運営スキルが求められる。一方、フランチャイズは初期投資が大きいが、ブランド力やマニュアルを活用でき、初心者でも始めやすい。
売上計画と損益イメージ
最後に、靴修理・靴磨き店を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
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年間の収支から支出(上記運転資金例)を引いた損益は次のようになる。
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個人開業かフランチャイズ開業かを問わず、靴修理・靴磨き店の起業に際しては、どんな街に出店するか、そしてその街に暮らす人々のニーズに合ったサービスを提供できるかどうかという部分がひとつの鍵になる。
例えば、オフィス街に出店するなら主なターゲットはビジネスパーソンである。革靴に関するサービスや最近ではスニーカーのサービスを用意するのもいい。仕事の合間や昼休みに受けられるクイックサービスも重宝されそうだ。
一方、商店街や住宅街に出店するなら、一般的な家庭向けにあらゆるサービスをバランスよく整えておきたい。そのほか、靴と合わせて皮革製のバッグやコートなども請け負う、あるいはカフェ店などと協業して気軽に立ち寄ってもらえるようにする、といった工夫も喜ばれそうである。起業の第一歩である事業計画書の作成の段階から、ターゲットの属性やニーズ、そして利用しやすい店づくりを心がけたい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)