業種別開業ガイド
花屋
2025年 1月 17日
トレンド
切り花や鉢花などの観賞用植物(花き)の市場規模について、農林⽔産省が2024年7⽉に発表した資料によると、国内消費は約1.1兆円(個⼈消費8,813億円、業務⽤需要2,491億円)となっている。
日本の花き市場を大きく支えているのは、冠婚葬祭などのイベント需要だ。新型コロナウイルス感染症が急速に拡大した2020年には、花の消費機会となる卒業式や入学式、婚礼宴会、葬儀などが自粛され、業務用需要が大幅に落ち込んだ。また個人消費においても、コロナ禍の行動制限によって店頭販売が鈍化した。
農林水産省は花きの消費拡大を図るため、2022年より「花いっぱいプロジェクト」を実施し、花や緑を生活に取り入れるメリットを発信した。花や緑には、ストレスの軽減や体調を整える効用があると言われている。コロナ禍には屋内で過ごす時間が増え、実際に花や緑の必要性を再認識した人は多い。
一般社団法人花の国日本協議会が行った調査(2020年)では、9割の人が「以前に比べ花やグリーンを飾りたくなった」と回答しており、さらに「花やグリーンを飾る頻度が増えた」という人は5割を超えている。実際に花や緑を飾ると「部屋が明るくなった(40.0%)」「優しい気持ちになった(28.3%)」「リラックスできた(24.5%)」という効用があげられている。
総務省の家計調査によれば、1世帯当たりの切り花の年間購入額は1997年の13,130円をピークに徐々に減少しており、2022年には7,992円となった。また年齢別の購入額を見ると、40代以下は平均を大きく下回っている。購入目的の半数以上がお供え用という農林水産省の調査結果もあり、50代以上との差が生まれている要因と考えられる。
これまで花は特別感があり、自宅用ではなくギフトとして購入する人が多かった。生活に直接必要のないぜいたく品と捉えられ、景気や社会情勢に左右されやすい側面があったと言える。しかし、コロナ禍をきっかけに花を生活に取り入れる人が増え、安価で手軽に花を購入できるサービスが広がっている。
国産花き生産流通強化推進協議会の資料によると、花を買う場所として従来の花屋(76%)に加えスーパー(40%)での購入が伸びている。また、洋服屋やカフェなど異なるカテゴリーのコラボ型店(7%)の利用も増えている。出掛けたついでに購入できる価格帯やサイズ感が、利用されやすいポイントとなりそうだ。
コロナ禍の巣ごもり需要により、2021年にはネットショップでの購入率が倍増した。実店舗のある花屋でも、ネットショップを併設するところは多い。リーズナブルな価格で定期的に花が届く配送サービス(サブスクリプション)は、花業界にも浸透しつつある。民間の調査によると、ネット購入も含めたサブスク市場は右肩上がりで推移しており、2023年には300億円の市場規模になると予想されている。
近年の花屋事情
(1)消費者の行動障壁を払拭する商品・サービス
農林水産省が行った調査(2020年)によると、6割以上の人が花や緑に興味があると回答した一方で、1年以内に購入した人は4割にも満たない。花や緑に興味があるのに購入をためらう理由として、「すぐに枯れてしまう」「花の種類や選び方、飾り方が分からない」「価格が高い」「手入れが面倒」などが上位にあがっている。また、飾る習慣のない若年層に「花瓶がない」という回答も多かった。
花を購入してもらうには、このような消費者の行動障壁を払拭する商品やサービスを提案する必要がある。最近では「そのまま飾れる花束」を提案する花屋が出てきている。ラッピングの中に鮮度保持剤を含んだ保水ゼリーが入っているため、そのまま飾れて面倒な水換えも不要なものだ。花の管理に手間をかけなくて良いイージーケア商品は、購入をためらう層へ効果的にアプローチできるだろう。
(2)フラワーロス対策
花き業界では以前から廃棄率が問題になっていたが、コロナ禍の需要低迷によりフラワーロスが深刻化した。国内生産量の20~30%が廃棄されてしまうという。
フラワーロスが起こる原因としては、まず需要見込みが立てにくいことがあげられる。花屋は来店客の好みや要望に合わせてその場でアレンジメントを施すため、多種多様な花を仕入れておく必要がある。売れずに鮮度が落ちた花は廃棄せざるを得ない。適正な量を仕入れて売り切る工夫は、重要なフラワーロス対策となる。実店舗を持たずネットショップのみで開業する場合は、注文が入った分をその都度仕入れる効率的な運用が可能だろう。
(3)規格外になった花の活用
市場では茎の太さや長さなどいくつかの基準が設けられており、品質が良好でも基準をクリアしないものは規格外となる。収穫の約2割は市場に出回らない規格外の花だという。規格外の花を生産者から直接買い取ってサブスクリプションとして展開したり、状態の良い花をドライフラワーに加工して商品化したりするところもあり、フラワーロスの解消に大きく貢献している。異業種企業のサステナブル(持続可能)な取り組みとして、店頭やネットショップで廃棄予定だった花を販売する例もある。
フラワー需給マッチング協議会では、「スマートフラワー」という新しい規格を提案している。従来の花の長さを10cm短くして約70cmとすることで、箱の形状や出荷数が変わり、物流の効率化が図れる。イベントなどの装花には長い丈が必要だが、一般家庭用の花は短く切るため、その手間とコスト、ごみの削減にもつながる。
(4)SDGsの拡大
一般社団法人花の国日本協議会では、花き業界のSDGs(持続可能な開発目標)活動として「well-blooming project(ウェルブルーミングプロジェクト)」を開始し、全国約400店舗の花屋で使い捨てラッピングを減らすキャンペーンを実施した。
SDGsの浸透とともに、地球環境に配慮した消費を心掛ける人は増えている。花を買うことは地球に優しい行動であること、そしてその花は人の心を癒してくれるということを発信し、花屋として循環型社会の一翼を担っていきたい。
花屋の仕事
花屋の主な仕事は「仕入れ」「商品管理」「店頭業務」「活け込み」「運営管理」「集客」に分けられる。
- 仕入れ:仕入先(花き市場、仲卸、卸販売サイト、生産農家など)からの定期的な仕入れ
- 商品管理:水揚げ、ロス処理、水換え、温度管理など
- 店頭業務:接客、花束・ブーケの作成、配達、ワークショップ講師など
- 活け込み:施設や店舗の空間装飾など
- 運営管理:在庫管理、スタッフ管理、経理、各種書類作成など
- 集客:SNS運用、ネットショップの運営、ワークショップの企画など
花屋の人気理由と課題
人気理由
- 特別な資格が必要ない
- 少ない初期費用で開業できる
- スキルやセンスを生かせる
課題
- 店頭販売以外の収入源の確保
- 他店舗との差別化
- ロス削減
花屋は、母の日や歓送迎会などイベントの有無によって売上が左右される。そのためサブスクサービスといった定期契約や他企業とのパートナーシップなど、イベントに左右されない安定した収入の確保が長く事業を続けていくためのポイントとなる。
開業のステップ
花屋には移動販売やフランチャイズ加盟、無店舗型などさまざまな方法があるが、ここでは個人店(実店舗あり)で開業する例を紹介する。開業のステップは以下の通り。
花屋開業にあたってしっかり検討するべきなのが、仕入先の選択だ。仕入先は主に花き市場、仲卸、卸販売サイト、生産農家がある。それぞれ購入単位や1本あたりの仕入値が異なる。
なお、花き市場と仲卸で仕入れの際には、買参権や買出人章という権利証が必要となるため、事前に申請しておく必要がある。
花屋に役立つ資格
花屋を開業するのに必須となる資格はない。ただし、事業を行う上で強みになる資格や、便利な資格はある。
ブライダルブーケやイベント会場での花のアレンジ、ワークショップでの指導などに有利な資格が、厚生労働省管轄の国家資格「フラワー装飾技能士」だ。花の基礎技術を学ぶ2級技能士、フラワーデザインの基礎理論を学ぶ1級技能士がある。生花を使用した装飾の技能が一定レベルであることを証明でき、仕事の可能性が広がる資格となっている。
公益財団法人日本フラワーデザイン協会が実施する「フラワーデザイナー」は、50年以上の歴史がある民間資格で、業界では有名な資格の1つだ。3級から1級まで段階的に取得でき、1級を取得していると高いフラワーアレンジメント能力があることを示せる。
最近では、品種改良によって青や紫といった花も登場しており、フラワーアレンジメントには絶妙なカラーセンスを要する。他店との差別化のために、色彩検定やカラーコーディネーターの資格取得も役立つだろう。
また、地域密着型の店舗では、配達サービスがあると顧客満足度につながる。自転車でも配達は可能だが、大物を運ぶ場合や仕入れの際には自動車運転免許があると便利だろう。
開業資金と運転資金の例
開業するための必要な費用としては、以下のようなものが考えられる。
- 物件取得費:前家賃(契約月と翌月分)、敷金もしくは保証金(およそ10カ月分)、礼金(およそ2カ月分)など
- 内外装費:壁床リフォーム、排水工事、空調設備、看板設置など
- 備品・消耗品・仕入費:フラワーキーパー(冷蔵庫)、作業台、販売用の花、ハサミ、花器、バケツ、ラッピング用資材など
- 広告宣伝費:SNS広告、ホームページ制作費など
以下、開業資金と運転資金の例をまとめた(参考)。
実店舗を持たずネットショップのみで開業する場合は、物件賃貸費は不要となる。また、花屋の居抜き物件を利用すれば、開業費用を大幅に減らすことができるだろう。
売上計画と損益イメージ
花屋を開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。
年間の収入から支出(上記運転資金例)を引いた損益は下記のようになる。
個人店の場合、コンセプトを定めた店にファンが付く傾向が高い。例えば、豊富なフラワーベースを扱う花屋や、インテリアに特化した観葉植物専門店、オーダーメイド可能なドライフラワー専門店など、独自の世界観とストーリーをSNSで発信して、顧客のファン化を狙いたい。
経営を軌道に乗せるためには、流動客だけでなく、いかに安定した固定客を持つかが鍵となる。イベントやショップの定期装飾、フラワーアレンジメント教室など、一定の安定収入を得られる工夫をしよう。
また、小学校や幼稚園などイベントがある公共機関とのつながりがあると強い。卒業・入学シーズンには毎年、式典会場の装飾や送別会の花束が必要となる。実店舗を持つ場合は、街に根付き、地域の花屋として頼られる存在になることを目指していきたい。
※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)