業種別開業ガイド

花屋

2019年 10月 24日

トレンド

(1)歴史のある職業

株式会社大田花き花の生活研究所によると、花・植木小売業の市場規模は、2012年の時点で4,000億円、事業所数は約16,000店とされている。
小売という視点で見た花きの歴史は古く、平安時代中頃から御所に花を届け、京の都で花を売っていた模様。比叡山のすそ野、白川の地に広がる花畑の花を京で売り歩く「白川女(しらかわめ)」と呼ばれる女性の記録があり、今後も市場自体の拡大縮小はあっても廃れる事がない職業と言える。

(2)プレゼントするギフトとしての需要の高まり

高度成長期後に豊かな生活が定着したことで、それまで花というと仏様へのお供えか、生け花などのお稽古ごとというイメージだったのが、ギフトや家庭で花を飾ることが一般化して需要の裾野が広がってきた。

(3)子供がなりたい職業

2015年の「新小学1年生」の『将来就きたい職業』(株クラレ アンケート)で、女の子編では「花屋」が第3位であった。

(4)花育

「花育」とは、「幼児・児童が教育の現場や地域で花や緑に触れる機会を作り、やさしさや楽しさを感じる気持ちを育む取組」のことである。平成26年12月に施行された、「花きの振興に関する法律」には、国及び地方公共団体は、児童、生徒等に対する花きを活用した教育及び地域における花きを活用した取組の推進を図るため必要な施策を講ずるよう努める旨が規定されている。

ビジネスの特徴

花屋の開業は、仕入れルートの開拓次第で、成功するかどうかが左右される。ただ、仕入れルートの開拓はコツを要する。仲卸を通さない分、1本単位(切り花)、1個単位(苗・鉢)の単価は最も安い。その代わりケース単位で買わなければならず、小規模で販売力がない店では、全てのものを市場から直接仕入れするのは難しい。品種によっては、ミックスの箱(一箱で何色か入っている)か、入り数の少ない箱を中心に狙う手はある。

また、市場との直接取引には、市場との契約が必要となる。その際、市場に対して20万円程度の保証金が必要となる。契約が出来れば、市場から個人番号を付与される。個人は、市場で商品を買う権利を与えられる。買う権利のことを、買参権、買う側の人を、買参人という。買参人が、支払が出来ない時などは、保証金から充当される。保証金は市場との取引をやめる時に、個人に全額返される。なお、支払サイトは、1週間後が標準である。現金取引に近いので、通常の運用資金に余裕を持つ必要がある。

また、ロス率の平均が30%と高いため、仕入れに関しては開拓だけではなく、在庫を管理する能力も求められる。

開業タイプ

仕入ルートによって業態が分かれる。

(1)市場直接仕入

a.相対取引

昔はセリ取引のみだったが、インターネットの普及や市場法の改正により、現在では、インターネットによる相対取引が多い。切り花では、7割以上。鉢では、4~5割程度を占める。

b.セリ取引

市場でセリ日当日、セリ人から商品を買う取引を、セリ取引という。各市場が小さかったころは、どの市場も手のサインで取引する手競りだったが、現在は機械競りを導入している市場が多い。

(2)仲卸仕入

店が小さく販売力が弱い場合は、市場直接取引であると箱単位の取引となり、花の本数が多くなり売り切れないという問題が出てくる。仲卸は、いわゆる問屋業である。市場から仕入れたものを、10本単位に分けて手数料をのせて売る。その分、市場直接取引よりは高いが、大量に仕入れる必要がなくなる。

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業のステップ

(2)開業するうえでのポイント

什器備品としては、温度管理機能装置でフラワーキーパーと呼ばれるものがある。この装置を使用すると、花が長持ちするためロスを減らすことができる。
その他には、在庫管理や売上分析に便利なPOSレジやモバイルPOSなどもあった方がよい。ロスを減らすためにも、効率的な在庫管理は非常に重要である。モバイルPOSは、スマートフォンやタブレットを利用したPOSシステムで、従来のPOSレジよりもコストを抑えて簡単に導入することができる。

(3)必要な手続き

花屋の開業には、特別な資格や免許は必要ない。

情報発信

花屋専門のポータルサイトは少なく宣伝手段は限られているため、自社で工夫した集客が重要となる。地域に愛されるような花屋にしたいのなら、まずは地域に限定したチラシのポスティングやweb広告が望ましい。ほかにも、挙式場や葬儀場などのパートナーを探したり地域の法人向けに宣伝したりするなどして、認知度を高めることがポイントとなる。

必要なスキル

必須の資格はないが、フラワーデザイナー、フラワー装飾技能士(国家資格)、フラワーアレンジメント、色彩検定などの資格がある。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

開業に際しては、初期投資を抑えれば300万円程度からでも可能ではあるが、ここではある程度の内装工事を行うことや設備類を導入することを前提として、以下に開業資金の内訳を示す。

【20坪程度の店舗を開設する際の開業資金】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。

売上計画例の表

花屋の売上は特殊で、花の需要は一年を通してかなり増減する。例えば母の日などは1年間の売上の半分をその時期に計上している店もある。また、お盆やお彼岸など仏様の花を中心に販売している店は普段は殆ど売上がなくても年に6回ほどの山場に力を入れている店もある。

このように、自店の売れ筋商品や時期などの特徴をしっかり把握した経営をする必要がある。

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率は花・植木小売業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

売上高粗利益率が41.3%で一見高いが、一般的に生花は仕入値の2倍程度の値づけがされており、本来は50%超の水準にあってもよい。このように、売上高粗利益率が50%を下回っている背景には、ロス率が高いことがある。
したがって、損益計画を立てる際は、ロス率を下げるために、仕入れの経験や感覚をつかむ事が重要となる。
また、収支・支出ともに現金取引が主体で、季節によって売上の増減幅が大きいことから最低限の運転資金は蓄えておく必要がある。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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