業種別開業ガイド
園芸店
2023年 6月 30日
トレンド
昔ながらの園芸店のイメージを脱した、おしゃれなガーデニングショップが増えている。「花苗・花木・果樹」「野菜・ハーブ・球根」「観葉植物」「サボテン・塊根植物・エアプランツ」「園芸用品」といった旧来の商品構成に加えて、住宅敷地まわりのエクステリアや、養魚の飼育環境を作り込んで楽しむ「アクアリウム」向け商品といった分野まで、取扱商品は広がりつつある。
植物の育て方や鑑賞方法を提案するのも園芸店の重要な役割で、季節ごとに様々な種類の植物を組み合わせて植える「寄せ植え」や、植物をバスケットなどに植えて壁に掛けたり吊るしたりする「ハンギング」など、独自のセンスで楽しみ方を提案し差別化を図っている店舗も多い。
また、扱う植物の種類を特化して店の個性を打ち出している店舗は、専門誌などで採り上げられると一気に人気上昇することも珍しくない。パンジー(大輪)・ビオラ(小輪)に販売品種を絞った専門店、オーストラリア植物の専門店など、オーナーのこだわりを強くアピールすることで、コアなファンを獲得している。
水景を再現する「アクアリウム」に対して、熱帯雨林の環境を再現する「パルダリウム」も静かなブームを呼んでいる。室内で手軽に始められ、コケ・シダ類の生育や、両生類の飼育にまでこだわることができ、コロナ禍での家ごもりをきっかけに、その奥深さに魅了されたファンも多い。
いっぽう実店舗では、ただ植物を販売するだけでなく、植物がディスプレイされた空間で地元食材の料理とハーブティーを楽しめるカフェが併設されていたり、初心者向けの園芸教室を開催していたりするところもあり、地域住民のコミュニティ・スペースとして機能しているケースもある。
東京都中央卸売市場「市場統計情報」をみると、コロナ禍における変化の1つとして観葉植物の需要増加が目立ち、令和3年には生育サイクルが合わずに品薄状態になり、卸売平均価格が前年比124%にまで上昇、令和4年にはさらに高騰している。
近年の園芸店事情
公益財団法人日本生産性本部の『レジャー白書2022』によると、余暇活動として「園芸・庭いじり」をする人は令和2年の2410万人よりも増加し、令和3年には2490万人となっている。特に65歳以上の高齢者では、余暇活動の1位「ウォーキング」に次ぐ2位が「園芸・庭いじり」となっており、こうした高齢者層をターゲットとした販売戦略は重要となるだろう。
農水省がまとめた「花き(かき)の現状について」(令和4年12月)では、花きの需要拡大・花き文化の振興を図るためとして、以下の取り組みがあげられている。
- 公共施設やまちづくり、社会福祉施設等の花きの効用が発揮できる施設等における花きの活用
- 児童、生徒等に対する花きを活用した教育(花育)や地域における花きを活用したイベント等の推進
- 日常生活における花きの活用の促進、花きに関する伝統の継承、花きの新たな文化の創出
また同省の調査報告書では、花や緑があることによる効果として「部屋が明るくなった、華やかになった」「優しい気持ちになった」「リラックスできた」「季節の移り変わりを感じた」などがあげられている。
こうした状況をみれば、園芸店という業種を通して、メンタルヘルスケアやライフスタイルにまで影響を与えサポートする可能性が示唆されていると言えるだろう。
園芸店の仕事
園芸店で取り扱うのは、定番商品の鉢もの(鉢植え)、花・野菜・果樹の苗、種や球根、観葉植物、庭木などのほか、関連商品の培養土、肥料、薬剤、植木鉢やプランター、支柱、園芸道具やツール、庭園資材、ガーデン装飾、散水用品、店舗が広ければガーデンファニチャーなど、多岐にわたる。これらの中からセレクトし、季節や流行、ターゲットに応じた品揃えや店舗づくりが重要となる。
栄養や水分の与え方や季節ごとの栽培方法、防虫・剪定方法など、園芸に必要な知識・技術は多岐にわたる。さらに、園芸を室内・屋外のインテリア/エクステリアの一環と考えれば、デザイン的なセンスも問われるだろう。園芸教室を開催してそうした技術を伝えたり、路面のディスプレイで個性的な装飾事例を紹介することで、近隣商圏のファンを集めることができる。
いまでは、自宅でDIYを楽しむ園芸・造園ファンの多くは、動画共有サイトでその方法やコツを学んでいる。専門家として培ってきた技術やセンスを、自ら動画を通して紹介する事で、さらに多くのファンを獲得することも可能だ。
園芸店開業の人気理由と課題
人気理由
1. 自然とも人とも触れ合うことができる。
- 花や緑を育てることの楽しさを味わえる
- 植物好きの来店者との会話を楽しめる
2. センスや個性を生かせる。
- 色彩やバランスなどの感覚を活用できる
- テイストを絞り込めば、個性として生かせる
3. 人生の晴れの舞台の演出に関わる事ができる。
- 人生のさまざまなステージに花を添える仕事としてのやりがい
- 人びとの頑張りを応援し勇気づける仕事としてのやりがい
課題
- 他店と差別化を図るための独自のセンスや技術力が必要。
- 商品の独自性を発揮するためには、そのための仕入れルート開拓が必要。
- 固定客を確保するための工夫が必要。
園芸店開業の8ステップ
園芸店の開業に必要な手続き・役立つ資格
植物を卸売市場から直接仕入れる人は、一般的に「買参人(ばいさんにん)」と呼ばれる。一方、小規模営業の人は、「買出人(かいだしにん)」と呼ばれる。
たとえば東京都が管理する大田花き市場では、卸売業者から仕入れるルートと、仲卸業者から仕入れるルートが存在する。まずは、仲卸で小ロットの品を仕入れるため、「買出人章」を取得。3年以上経過して仕入れの実績を積めば、セリに出て大量の品を仕入れることが可能となる「売買参加権(買参権)」も取得できる。ただし花き市場の中には申請を必要としない市場もあるため直接、市場に確認が必要だ。
園芸店を開業するにあたり、上記以外に必要な資格は特に存在しない。ただし、資格をもっていれば質の高い提案をし、来店者の信頼を得るのに役立つ。
代表的なものは日本家庭園芸普及協会が資格認定する「グリーンアドバイザー」で、「植物の育て方についての正しい知識や、園芸・ガーデニングの魅力や楽しさを伝えることのできる人に与えられる称号」とされている。「フラワー&ガーデンショウ」をはじめとするさまざまな協会事業の企画や運営に参加する機会が得られ、登録証やステッカーを用いて取得をアピールできる。「園芸ソムリエ」などの各種称号を取得する入り口にもなる。
日本生活環境支援協会が手がける「ガーデニングアドバイザー」も、「基本的なガーデンデザインの知識・技術・技能を有していることを認定」している。日本フラワーデザイナー協会が主催する「フラワーデザイナー資格検定試験」は50年以上の歴史があり、フラワーデザイン、フラワーコーディネートの知識が得られ、販売にも役立つ。
その他、色彩検定や観葉植物に関する知識を問われる「グリーンマスター」なども存在する。コンセプトやターゲットに応じ、使えるものがあれば検討しておきたい。
園芸店の開業費用
園芸店の開業においては、店舗の賃貸料、内装・外装費、什器・資材の費用、園芸植物を仕入れるための費用、運搬車両などが必要になる。水道光熱費、電話代などのランニングコストもかかるため、3カ月〜半年間の運転資金、できれば売上の1年分を用意しておきたい。以下は概算としての費用例である。
園芸店の売上イメージ
定期的に生花や観葉植物が必要となる企業や店舗との契約が取れれば、年商1,000万円を超えるケースもある一方、個人で園芸店を開業した場合は300~500万円程度の売上が多い。最近ではオンラインショップで贈答用の観葉植物に特化して販売することで成功している事例もある。植物そのものに、立札(名札)・メッセージカード・リボンなど付加価値をセットにして配送するサービスだ。利用者のニーズをとらえてそれに応えられるアイデアさえあれば、園芸店という業種の枠組みを拡張して、売上を向上する余地はまだまだありそうだ。
以下に「花・植木小売業」「苗・種子小売業」の黒字企業の営業データを参考として示す。複数店舗展開をしている事業者も多く、その全体の合計数値となっている。
※売上イメージの数値は、開業状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)