業種別開業ガイド

ビルメンテナンス業

2019年 10月 29日

トレンド

(1)市場規模は堅調に推移

ビルメンテナンス業界全体の市場規模は、ここ数年間で約3兆5,000億円前後と、概ね微増傾向で推移しているとみられる(出典:(公社)全国ビルメンテナンス協会)。背景としては、都市部を中心としたオフィスビルや商業施設、マンションなど大型・高層建築物の増加による需要拡大が考えられる。一方で、清掃業務を中心に人手不足が深刻化しており、特に中小のビルメンテナンス業者の経営環境は厳しさを増している。

(2)業務用清掃ロボットの導入

人手不足への対応策として、ビルメンテナンス分野向けの清掃ロボットの開発が進み、実証実験や試験導入などで注目が集まっている。現時点では清掃の全自動化というレベルまではいかないが、ロボットと人でそれぞれ得意分野を分担し、作業の効率化と労働負荷の軽減を目指す。

(3)外国人労働者の受け入れ

2019年4月より改正出入国管理法が施行され、特定の業種で単純労働も含む外国人労働者の受け入れ拡大が認められることとなった。それぞれの業種で定められた試験に合格すれば、特定技能1号の在留資格が得られ、就労が可能となる。人手不足に悩むビルメンテナンス業では、今後5年間で約37,000人を受け入れる見込み。

ビジネスの特徴

ビルメンテナンス業の対象となる施設は、オフィスビルをはじめとして商業施設、学校、病院、ホテル、飲食店、マンションなど幅広く、その業務内容も清掃や衛生管理、設備機器の運転保守、点検整備、保安警備、ビルマネジメントなど多岐にわたっている。

業務別の売上構成比は、一般清掃業務が約6割、次いで設備管理業務が2割弱、警備業務が1割弱となっており、この3業務で約9割を占めている。また、小規模企業では一般清掃業務の占める割合が高く、規模が大きくなるほど設備管理や警備の占める割合が高い傾向にある。

清掃は、利用者に清潔で快適な環境を提供するため、頻繁に行う必要がある。日々の清掃はビルの老朽化を防ぎ、資産価値向上にも寄与する。また、衛生管理として、空気環境管理や給排水管理などの業務も行う必要がある。設備管理は、空調や電気、給排水、エレベータ等のビル設備の安全運転を24時間365日体制で管理する業務である。扱う設備によって必要な技術や知識は全く異なり、業務を行うにあたって多くの関連資格が必要となる。特に最近はビル設備がハイテク化しており、より専門的な知識やスキルが求められる業務が増えている。

業務内容

主な業務内容は以下となる。トータルに業務を手掛けるのか、一部業務に特化するのか、どのような部分で自社の強みを発揮するかを見極めることが重要である。

(1)清掃

  • 日常清掃:トイレ、エントランス、通路など、人が日常使う場所を毎日1回以上清掃する。
  • 定期清掃:床洗浄、カーペットクリーニングなど日常清掃では落としきれない汚れを、月に数回専用の洗剤や器具を使って掃除するほか、窓ガラス拭き、外壁、屋上など年に数回の頻度で掃除する。

(2)衛生管理

  • 空気環境管理:空気環境測定業務や空調設備の点検、清掃を行う。
  • 給排水管理 :貯水槽、給水管、浄化槽、排水管などの清掃、定期点検、水質検査を行う。
  • 害虫駆除  :ネズミや害虫の駆除、防除を行う。
  • 廃棄物処理 :ゴミの収集、処理を行う。

(3)設備管理

ビル内の以下の設備について運転保守、点検、整備を行う。

  • 電気・通信設備:受変電設備、屋内配線設備、照明設備、電話・通信設備など。
  • 空気調和設備 :各種エアコン、冷却塔、ボイラーなど。
  • 給排水設備  :貯水槽、給水管、浄化槽、排水管など。
  • 昇降機設備  :エレベータ、エスカレータ。
  • 消防設備   :警報装置、避難設備、消火器など。

(4)その他管理業務

  • 管理サービス業務  :ビルの受付・案内、電話交換、メールサービスなど。
  • ビルマネジメント業務:ビルのオーナーに代わり、建物の管理や運営を行う。テナントの誘致、賃貸借業務代行、経理業務全般、ビルメンテナンス業者の統括などを主な業務とする。
  • 警備        :対象施設に警備員が常駐・巡回する人的警備と、施設外から通信回線により24時間365日監視を行う機械警備がある。犯罪や事故を未然に防ぎ、建物や利用者の安全を確保する。

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。

開業までのステップ

(2)必要な手続き

衛生管理や設備管理については対象となる設備ごとに法で定められた資格があり、これらの業務を行う場合には有資格者が従業員にいることが必須となる。

そのほか、建築物衛生法に定められたビルメンテナンス業務を行う事業者については、都道府県知事登録制度がある。登録は義務ではないが、官公庁の入札への参加資格要件となる場合があるため、登録をした方が受注拡大につながる可能性がある。

設備管理業務に従事する場合に、必要とされる主な資格は次のとおり。

電気・通信設備

電気工事士、電気主任技術者

空気調和設備

ボイラー技士、危険物取扱責任者、冷凍機械責任者

給排水設備

浄化槽管理士

消防用設備

消防設備士

人手不足解消

ビルメンテナンスの対象となる大型の施設は今後も増加することが予想され、それに伴い清掃業務をはじめとしたビルメンテナンスの需要も拡大していくものと考えられる。しかし、人手不足が深刻化している現状では、人手が足りずに受注を断念せざるを得ないケースも多々発生していると言われており、早急な解決策が必要となっている。特に中小企業では大規模な現場に1社で対応することが難しいため、同業他社と連携して仕事を請け負うこともある。

人材の確保や定着のためには、従業員の労働条件や福利厚生等についても、会社としてできる限り配慮し、働きやすい環境を整えていくことが重要である。

必要なスキル

設備管理等に比べて清掃は軽く見られがちだが、実際には清掃する場所、建材、汚れによって清掃方法、洗剤、器具、機械を使い分け、限られた時間内に清掃を終わらせるなど、専門的な知識・技術・経験が必要とされる。ビルクリーニングの国家検定であるビルクリーニング技能検定は、自身のビルクリーニングの技能を証明するものであり、顧客に対するアピールポイントになる。特に、最も高い技能レベルである1級ビルクリーニング技能士は、都道府県知事登録を受けるために必要な清掃作業監督者には必要な資格でもある。

各種資格の取得により、スキルや知識のレベルアップが図られるとともに扱うことができる業務が増え、同業他社との差別化や事業拡大につながることが期待できる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

人手のいる業種であるため、人員募集のコストを高めにみて開業モデルを作成した。

【参考】50名ほどのスタッフを擁し開業する場合の必要な資金例

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

年間営業日数を週休2日で換算して、売上計画を作成した。

売上計画例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※財務標準比率はビルメンテナンス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。

c.収益化の視点

人件費が経費の大半を占める業態で、売上総利益率は19.3%に留まる。しかしながら、物件ごとに1~3年程度の年間契約を得て受託することが多いため、損益分岐点(利益がゼロとなる点)を上回った契約さえ確保できれば安定した資金収支が見込める強みがある。ただし、大口契約の解除等があると収益への影響も大きい点には注意が必要である。

損益分岐点を引き下げるには、専門技術者を集めて清掃や衛生管理、設備管理から警備、ビルマネジメント業務へと事業範囲を広げ、受託単価を引き上げるか、得意分野に専念した上で無駄な経費を極力排除した効率経営を進める、などの方策が必要となってこよう。

最近では慢性的な人手不足、最低賃金引上げの影響などの課題も多いが、業界大手となるディベロッパー系列会社をまとめても合計シェアは低く、地元の有力不動産オーナーとの人脈、ネットワークを背景とした独立系企業が、なお存続しやすい業種ではあるといえよう。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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