市場調査データ
カプセルホテル(2024年版)
2024年 12月 20日
カプセルホテルとは、カプセル状の個室を寝室として提供する日本発祥の簡易ホテルである。1979年に大阪で誕生したカプセルホテルは、従来は男性のビジネスマンや学生が主な利用者であったが、設備や内装の充実、女性専用フロアの増加なども背景に女性の利用客や海外旅行客の利用も徐々に増えてきている。現在のカプセルホテルの利用状況や人々の意識を、20代以上の男女1,000人を対象にしたアンケート調査から探っていく。
1. 現在の利用状況
カプセルホテルの利用状況について聞いたところ、回数にかかわらず利用しているユーザーの数は8.2%(82人)、現在は利用していないが以前利用したことがある人は22.2%、一度も利用したことがない人は69.6%という結果になった<図a>。現在のユーザー数(利用率)は全体の1割弱で、2017年に当サイトで行った同種の調査時の6%と比ベると2.2ポイントのアップと微増にとどまった。
現ユーザーの利用頻度を見ると、「年間で数回程度利用している」が最多で5.8%、次いで「半年に数回程度利用している」が1.3%となっている。
2. 性別・年齢別に見た利用状況の内訳
性別・年齢別の利用状況を見ると、性別ではほぼすべての年代で女性より男性のほうがユーザーの割合が高い<図b>。具体的には、女性全体の利用率が2.4%であるのに対して男性全体では14.0%である。唯一20代では女性の利用率が男性より高かったが、これは20代女性回答者の母数が11人と少なく、その中で「年間で数回程度利用している」の回答者が2人いることによる特異値と考えられる。実際に「以前は利用していたが現在は利用していない」人まで含めると、明らかに男性の利用割合が高い結果が出ている。
年代別に細かく見ると、女性には特に大きな傾向はなく、男性は30代・40代の利用率が高くなっている。20代男性は「月に2、3回程度利用している」や「年間で数回程度利用している」人の割合が他の年代に比べて高いが、こちらも20代女性と同じく回答者の母数が33人と比較的少ないこと、また「利用したことがない」人の割合が63.6%と他の年代の男性に比べて高いことから、一部の人が利用している実態がうかがえる。やはり利用者の中心は30代・40代の男性と見ることができるだろう。
3. 利用の理由(現ユーザーおよび利用経験者)
カプセルホテルを「利用したことがない」と回答した人を除く304人(現ユーザーおよび利用経験者)に利用する理由を聞くと、最多の回答は「旅費を抑えることができるから」の54.3%(165人)で5割以上を占めた<図c>。次いで「ビジネスや観光で気軽に利用できるから」の21.4%(65人)で、費用面や利便性でカプセルホテルを選択する人が多いようだ。また「終電を逃してしまったから」も21.1%(64人)が選択しており、やむを得ない場合に比較的気軽に利用できる選択肢となっていることがうかがえる。
4. 利用にかける費用(現ユーザー)
現ユーザーにカプセルホテル1回の利用にかける費用を聞いた設問への回答では、「3,000円〜5,000円未満」が32.2% (98人)と最も多く、3,000円〜5,000円が利用料金のボリュームゾーンである<図d>。一般的なホテルの宿泊料に比べて低料金であり、前述のカプセルホテルを利用する理由(費用を抑えるため)を裏付ける結果といえる。
なお、2017年の同種調査では「3,000円〜5,000円未満」の回答が最も多く、全体の69%を占めていた。一方で3,000円未満とする回答は2割程度にとどまり、今回の調査結果(「2,000円〜3,000円未満」が25.0%、2,000円未満が合計で35.2%)と比較すると、現在はさらに低価格化が進んでいることがうかがえる。
5. 利用の基準(現ユーザーおよび利用経験者)
現ユーザーおよび利用経験者にカプセルホテルを選ぶ際に重視するポイントを聞くと、最も多かった回答は「低価格、お得感」で35.1%(107人)と3分の1以上を占めた<図e>。次いで「駅やランドマークからの距離」が13.8%(42人)で、やはり価格と利便性が重要であることがわかる。一方、「室内の過ごしやすさ」と回答した人も17.7%(54人)と2割弱おり、価格や利便性に次ぐ第3の要素として見逃せない。
6. 性別・年齢別の利用の基準(現ユーザーおよび利用経験者)
性別でカプセルホテルを選ぶ際に重視するポイントを見ると、女性に比べて男性のほうがより価格面を重視する傾向が強い。「低価格、お得感」は回答者全体では35.1%であったが、女性では23.6%、男性では46.8%であった。女性が男性に比べて目立って高い数値を示したのは「室内の過ごしやすさ」(全体17.7%、女性21.8%、男性13.6%)、「そのほか(衛生面など)」(全体25.2%、女性32.4%、男性18.0%)であった。
性別・年代別で細かく見ると<図f>、女性と男性では異なる傾向が出ている。女性は年代が高くなるにつれて「駅やランドマークからの距離」と答える人の割合が高くなり、反対に「低価格、お得感」の割合が低くなる傾向が見られる。男性は「駅やランドマークからの距離」は現在の中心的な利用者である30代や40代で他の年代に比べて割合が低く、他の年代では高くなっている。その30代・40代男性だが、30代では「室内の過ごしやすさ」が、40代では「低価格、お得感」が他の年代に比べて明らかに高い割合となっている。
7. 今後の利用意向
カプセルホテルの今後の利用意向を聞いたところ、「ぜひ利用したい」は7.2%、「どちらかと言えば利用したい」は16.2%であり、これらを合計すると全体の2割以上(23.4%)が積極的な利用意向を持っていることがわかった<図g>。現ユーザーの割合(8.2%)に対して10ポイント以上高く、2017年の同種調査(14%)と比べても利用意向は高まっていることがうかがえる。記述式自由回答欄では「安いから」と費用面の利点を挙げる回答が圧倒的に多い。ただし、なかには「安い上に大浴場・サウナがあるから」「ワクワク感が楽しい」といった回答も見られ、価格だけにとどまらない魅力を見出す人もいるようだ。女性からは「きれいなら・安全であれば利用したい」という回答が複数寄せられた。
一方で利用に消極的な人は43.1%であった。その理由を見ると、「狭いから」「他の人の音が気になる」「普通のホテルに泊まりたい」などが挙げられた。「不衛生に思える」や「安全面に不安が残る」といった回答も比較的多く寄せられており、カプセルホテルに対してマイナスのイメージを持つ人が少なからずいることがうかがえる。
また、「どちらとも言えない」と回答した人は33.5%で最も多いが、その理由としては「利用したことがないため(どんな様子であるのか)わからない」という回答が多く見られた。女性からはやはり安全面や衛生面を懸念する回答も複数寄せられている。
8. 性別・年齢別の今後の利用意向
性別・年齢別の今後の利用意向〈図h〉を見ると、年代を問わず女性に比べて男性の積極的な利用意向が高いことがわかる。男性は60代以上を除くと積極的な利用意向が3割を超えている。女性は男性に比べると積極的な利用意向を持つ割合は低いが、それでも現ユーザーの割合(2%前後)に比べて利用意向は高めである。
9. まとめ(ビジネス領域としてのカプセルホテル)
今回のアンケートでは、カプセルホテルの利用率は8.2%と全体の1割弱という結果だった。しかし今後の積極的な利用意向がある回答者の割合は23.4%と2割以上を占め、現在よりユーザーの拡大は期待できる。特に20~50代の男性の利用意向は3割を超え、新たなビジネスチャンスとして見ることができるだろう。
カプセルホテルをはじめとする「簡易宿所」の施設数は、2000年度前半に一度落ち込んだ後、近年大きく伸びを見せている(*1)。そのなかで新たにカプセルホテル事業を立ち上げて顧客を獲得するためには、現ユーザーの主な利用理由である「低価格」「利便性」だけではない何らかの付加価値が必要となる。一つには共有スペースの充実が挙げられる。例えば大浴場やサウナ施設、カフェやバー、パーティールームなどの娯楽施設、ビジネスパーソン向けのコワーキングスペースを備えるなどの方法がある。普段なかなか利用できない高級アメニティや美容家電が試せるスペースを設けたりなど、他業態とのコラボレーションも考えられる。
課題としては回答者からも多く寄せられた安全面や衛生面への対応と、それらを含めたカプセルホテル全体のイメージアップということになるだろう。特に、これまで利用した経験がない人にはカプセルホテルの実態や魅力があまり伝わっていないことが調査からはうかがえる。そのため、例えば「お試しパック」などのキャンペーンを設けて通常より割引価格で試してもらったり、あるいはSNSやホームページを通したPRも一案であろう。
また、「日本独自の文化の体験」と銘打って、海外からの観光客を呼び込むことも考えたいところだ。国内需要にとどまらずインバウンドを意識した店舗づくりも考慮すると、さらなるユーザー層の拡大が見込めそうだ。
(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を基にした一般的な内容になっています。個別の施策等を検討される際には、別途、専門家に相談されることをお勧めします)
調査概要
- 調査期間:
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2024年7月5日〜7月22日
- 調査対象:
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国内在住の20代男女、30代男女、40代男女、50代男女、60代以上男女。
サンプル数(n)1,000人
- 調査方法:
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インターネットによるアンケート調査
最終内容確認2024年12月