経営ハンドブック

海外展開の基本的な戦略

「輸出」「直接投資」「インバウンド」で攻める

国内は人口減少で需要が縮小する一方で、世界の人口は増え続け、2060年には100億人を突破する見込みだ(国連「世界人口の見通し 2019」)。これまでアジアやアフリカで開発途上とされてきた国々の経済発展の段階を迎えつつあり、国民所得も高まっている。中小企業にとっても、拡大する海外市場を視野に入れておく必要があるだろう。

海外需要を取り込む基本的手段としては、日本の商社や現地の販売代理店などを通じて商品を販売する「輸出」、現地に工場や店舗を設ける「直接投資」、訪日外国人を対象とする「インバウンド」の3つが挙げられる。それぞれについて、成功のポイントを見ていく。

海外展開を成功させるポイント

  1. 輸出:価値を認めてくれる取引先と組む
  2. 直接投資:現地に精通する人材が欠かせない
  3. インバウンド:言葉の問題を解決する

1.輸出:価値を認めてくれる取引先と組む

日本で生産して海外で売るためには、日本の商社を通じて現地に流通させる、海外の販売代理店と直接取引するといった方法がある。

独自技術で品質が認められているメーカーであれば、海外に販売ネットワークを構築している日本の商社が役立つだろう。貿易に伴う書類の作成といった作業面でも支援してもらえるはずだ。

一方、小ロットの商品は、日本の商社が持つ流通ルートには乗りにくい。そこで、現地に流通ルートを持つ海外販売代理店へ依頼することになる。欧米でも日本酒を販売する酒蔵を営むA社(新潟県)も、ワインなどを扱う販売代理店を通じて海外展開している。組むときに大事にしているのは、規模よりも、自社商品への理解だ。現地の大手販売代理店は広いネットワークを持っているが、価格の交渉がシビアだったり、担当者の交代で取引が打ち切られたりといった経験もあった。これに対して、「自社商品が好きで扱ってくれているところならば、小売店や飲食店に価値を正しく説明してくれるし、長い付き合いができる」(A社)。そこで、A社では海外担当者が現地でセミナーを開くだけでなく、販売代理店の責任者を日本の酒蔵に招いて商品理解を深めてもらうといった取り組みをしている。

輸出に当たっては、現地の慣習や宗教にも配慮する。例えば、食分野では宗教で食べることが許されていない食品や材料がある。イスラム教徒に対する「ハラル」、ユダヤ教徒に対する「コーシャ」を取得することで問題がないことを訴求できる。さらに、イスラム教徒やユダヤ教徒以外の消費者にも、安全で健康的な食品であることをアピールできるメリットもある。

2.直接投資:現地に精通する人材が欠かせない

海外に生産拠点を設けるメリットとしては現地の安価な労働力や生産環境でコストを削減し、生産性や収益性を高めること、販売・サービス拠点を設けるメリットとしては現地の新規顧客を獲得して売り上げを伸ばすことが挙げられる。

産業用・医療用の電球を製造するB社(宮城県)が海外進出したきっかけは、2008年のリーマンショックだった。業績が大きく落ち込んだ際に、技術力を生かした新規事業として、飛行場照明の分野に参入することを決断した。先行メーカーに価格面でも対抗するため、海外での生産を検討。この結果、ベトナムに製造工場を立ち上げることにした。このときに頼ったのが、日本企業の海外進出を支援するジェトロ(日本貿易振興機構)だ。ここで紹介されたベトナムでの製造に精通したパートナーのアドバイスを受けながら、用地や人材を確保した。現在は、日本の工場は研究開発に重点を置き、海外で最新の技術を取り入れた量産体制を確立することで、収益率を高めていこうとしている。

直接投資で注意しなければいけないのは、人材の問題だ。日本人とは考え方も習慣も異なる。整理・整頓の意識が希薄だったり、自分の権利を声高に主張したり、転職が当たり前だったり……。こうした違いを受け入れつつ、日本の仕組みを納得して働いてもらうようにするため、対話が欠かせない。軌道に乗るまでは、B社のように現地に精通したパートナーに協力してもらうことも重要だ。

3.インバウンド:言葉の問題を解決する

訪日外国人数の伸長はすさまじい。2000年代初めの政府目標は800万人。それから政府が観光立国を標榜し、2018年には3,000万人を突破した(日本政府観光局による)。環境庁の調査では、2018年の訪日外国人による旅行消費額は4兆5,189億円にも達する。

訪日外国人の増加を見込んで手を打ってきた会社が、ウェブサイトで高速バスのチケットなどを販売するC社(大阪府)だ。訪日旅行客専用の商品を開発したうえで、予約サイトを英語と中国語、韓国語に対応した。また、店舗には、外国人スタッフを配置すると同時に、日本人スタッフには英会話教育を実施した。この結果、2014年には約7万人だった利用者が、今は10万人以上と欧州やアジアからの訪客を中心に増やすことに成功した。

インバウンドを取り込むには、言葉の問題が大きい。そこで、外国語で説明した文章やピクトグラム(絵文字)を用意しておくといった準備が必要になる。また、現金を持たない外国人が増えるとみられており、キャッシュレス決済の対応も求められている。

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