法律コラム

改正民法(第3回)ー所有者不明土地管理制度などの創設ー

2023年 9月 22日

中小企業にとって、所有者不明土地管理制度等が役立つのは、主に次の二つのケースが考えられます。

  1. 所有者不明土地等を取得して、宅地開発などを行いたい場合
  2. 会社の近隣に所有者不明で管理されていない土地や建物があり困っている場合

以下、具体例を挙げながら、新しい制度の概要を確認していきましょう。

1.不在者財産管理制度と所有者不明土地管理制度の違い

土地や建物と言った不動産の所有者が不明の場合、その土地を売却したり、老朽化した建物を取り壊す際に、所在不明となっている所有者の意思を確認することができないという問題があります。このような場合、従来は、民法25条以下に定められている不在者財産管理制度が利用されてきました。

不在者財産管理制度では、行方が知れない所有者の代わりとなる管理人を家庭裁判所が選任し、その管理人が所有者に代わり意思表示を行うことになります。例えば、次のような場面で利用されてきました。

不動産会社A会社は、宅地開発のために甲土地を含む一団の土地を取得したいと考えていました。登記簿を確認すると、甲土地は、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの4人が共有していました。しかし、Bさん以下全員の所在が不明となっています。

このような場合、A会社は、宅地開発に関して、具体的な計画性を有していれば、家庭裁判所に、Bさんたち4人の不在者財産管理人の選任を求め、選任された不在者財産管理人を相手に売買契約を締結することで、甲土地を取得することも可能でした。

今回、物権法改正により、従来の不在者財産管理制度とは別に、「所有者不明土地管理制度」が導入されました。従来の制度と何が違うのでしょうか?

結論から言うと、不在者財産管理制度は、不在者の財産のすべてを管理する人を選任する制度であるのに対して、所有者不明土地管理制度は、対象となる土地だけの管理人を選任する制度であるという違いがあります。

従来の不在者財産管理制度だと、上記の事例では、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの4人のために、不在者財産管理人を一人ずつ選任する必要がありました。つまり、最低で4人の不在者財産管理人を選任しなければならず、予納金が高くなるという問題がありました。

さらに、不在者財産管理人は、甲土地だけでなく、Bさんたちの他のすべての財産の管理も担うわけで、そのための予納金をA会社が負担しているような形になってしまいます。

所有者不明土地管理制度を利用した場合は、4人の管理人を選任する必要はなく、甲土地の不明共有者持分(Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの持分)の総体を対象に、1人の所有者不明土地管理人を選任すればよいことになりました。また、所有者不明土地管理人の権限も、甲土地のみに限られるため、A会社としても予納金の負担が少なくて済むわけです。

2.所有者不明土地管理命令の要件

所有者不明土地管理制度は、次の3つを満たした場合に、裁判所が命令を発するという形で管理人が選任される制度です。(民法264条の2)

  1. 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合であること
  2. 管理命令を発する必要があると認めるときであること
  3. 利害関係人の請求があること

1.の「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合」とは、自然人所有の土地であれば、登記簿、住民票、戸籍の調査によっても知ることができないときを意味します。法人所有の土地であれば、法人登記の調査のほか、代表者の住民票の調査を行っても、行方が知れないときを意味します。

2.の「必要があると認めるとき」とは、所有者不明土地を誰も管理していない場合等を意味します。

3.の「利害関係人」は、不在者財産管理制度における場合とは若干異なります。次の事例で見てみましょう。

A会社の社屋がある土地に隣接する甲土地は、管理されていない雑草だらけの更地になっていますが、不法投棄が行われており、景観が悪いばかりでなく、土壌汚染の懸念、悪臭、害虫の発生など様々な面で、A会社が迷惑を被っています。A会社は、甲土地の所有者を探して改善を求めようとしましたが、所有者の所在を知ることができません。このような場合、従来の不在者財産管理制度では、A会社は基本的に不在者財産管理人の選任を申し立てることはできませんでした。

不在者財産管理人の選任は、利害関係人しか申立てができないとされており、この利害関係人とは、その財産が適切に管理されないことで、自己の権利を直接又は間接に害される者を意味し、推定相続人や不在者の債権者などが具体例として挙げられていました。つまり、A会社のように隣人であるだけでは、利害関係人とは言えなかったのです。

所有者不明土地管理制度の利害関係人は、「その土地が適切に管理されないために不利益を被るおそれがある隣接地所有者」も含まれると解されています。そのため、A会社も甲土地について、所有者不明土地管理命令の発令を裁判所に請求できます。

また、このような事例では、A会社が自ら裁判所に請求せずとも、地方公共団体等に対して苦情を言えば、地方公共団体の長から裁判所に請求することもあります(所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法42条2項)。

このようにして選任された所有者不明土地管理人は、次の2種類の行為を行うことができます(民法264条の3)。

  1. 保存行為
  2. 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、利用行為、改良行為をすること

「保存行為」は、財産の現状を維持する行為なので、更地であれば、不法投棄物を撤去し、定期的に雑草を刈り取ると言った行為が該当します。

「利用行為」は、収益を図る行為なので、更地であれば、5年以内と言った短期間で土地を青空駐車場などとして貸す行為などが考えられます。「改良行為」は、財産の経済的価値を増加させる行為のこととされており、更地であれば、青空駐車場として貸し出せるように整地して、砂利を敷くといったような行為が考えられます。

所有者不明土地管理人が、保存行為、利用行為、改良行為の範囲を超える行為をする場合は、裁判所の許可を得なければならないとされています。例えば、甲土地を売却する場合などです。

3.所有者不明建物管理制度とは

上記で紹介した所有者不明土地管理制度は、土地を対象とした制度です。物権法改正では、土地以外にも、建物を対象とした所有者不明建物管理制度も導入されました。例えば、次の様な場合に利用されることが想定されています。

A会社の社屋の隣の土地に建つ乙ビルは、長年使われておらず、廃ビル状態となっています。乙ビルとその土地の所有者を確認したところ、登記簿上は、B会社の所有となっていましたが、B会社は解散しており、B会社の代表者等も行方が知れません。管理されないままに、乙ビルが放置されると事件・事故の発生、治安の悪化などが懸念されるので、A会社は困っています。

従来の制度では、B会社に清算人がいれば、A会社は、その清算人に対して、乙ビルの適切な管理を求めることができました。清算人がいない場合は、市町村に対して、「空家等対策の推進に関する特別措置法」に基づく対応を求めることもできますが、乙ビルが倒壊の危険がある場合ではない限り、市町村としてもできることは限られています。

しかし今回の物権法改正では、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない建物に対して、裁判所が所有者不明建物管理命令を発することができるようになりました。土地と同じように、次の3つにあてはまる場合に発することができます。

  1. 所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない場合であること
  2. 管理命令を発する必要があると認めるときであること
  3. 利害関係人の請求があること

利害関係人には、土地の場合と同様にA会社が含まれます。そのため、A会社としては、市町村に苦情を言っても埒が明かない場合は、自ら、裁判所に所有者不明建物管理命令の請求を行うことができます。

市町村も空家等対策の推進に関する特別措置法によって、空家等に関する必要な措置を適切に講ずる努力義務があることから、利害関係人として裁判所に所有者不明建物管理命令の請求を行うことができると考えられています。その上で、選任された所有者不明建物管理人に対して、乙ビルの適切な管理を行うように求めていく形になります。

また、この事例の乙ビルがまだ使える状態であれば、A会社としては、所有権を取得し、修繕したうえで、貸し出したいと考えるかもしれません。このような場合も、所有者不明建物管理制度を活用することで、選任された所有者不明建物管理人との間で売買契約を締結して、所有権を取得することができます。

4.管理不全土地(建物)管理制度とは

以上の制度は、土地や建物の所有者が不明の場合に利用できる制度です。物権法改正では、上記の場合に加え、土地や建物の所有者がいるものの、所有者が適切な管理をしていないために、近隣の人たちが迷惑を被っている場合に利用できる制度として、管理不全土地管理命令と管理不全建物管理命令の制度が導入されました。管理不全土地(建物)管理命令は、次の様な場合に裁判所から発せられます。(民法264条の9、14)

  1. 所有者による土地(建物)の管理が不適当であること
  2. 他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがあること
  3. 管理命令を発する必要があると認めるときであること
  4. 利害関係人の請求があること

この制度は、土地や建物の所有者がいるのに、裁判所が管理不全土地(建物)管理人を選任するわけですから、よほどひどい場合に利用されることが想定されています。

2.に「他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある」と記されているとおり、例えば、土地の擁壁や建物が倒壊寸前で、近隣に危険が生じる可能性がある。土地や建物に大量のゴミが放置され、害虫や悪臭により、近隣の人に健康被害が生じている場合などが想定されています。

監修

大滝行政書士事務所 行政書士 大滝義雄