法律コラム

改正民法(第4回)ー相続制度の見直しー

2023年 10月 13日

物権法改正では、相続法の分野についても改正がなされました。物権法改正は、所有者不明土地の発生防止を主な目的の一つとしていますが、相続があったのに、長年、遺産分割がなされないまま放置されることも、所有者不明土地の発生原因ともなっていました。

そこで、長年、遺産分割がなされなかった場合は、遺産分割を簡素化する制度を設けました。中小企業にとっては、長年、遺産分割すらなされていなかった土地や建物を取得しやすくなったと言えます。以下、事例を交えながら見ていきましょう。

1.相続開始後10年経過した場合の遺産分割

Aは、更地である甲土地を所有していました。Aは個人事業を営んでいましたが、Aの子であるBがAの個人事業を手伝うようになってから、売り上げが飛躍的に増加しました。Aが甲土地を購入できたのもBが稼いでくれたおかげと言っても過言ではありません。Aには、Bのほか、二人の子C、Dがいました。このうち、Cも自ら事業を営んでいましたが、そのための事業資金として多額の援助をAから受けていました。

Aが亡くなり、子であるB、C、Dが相続人になりましたが、遺産分割協議が先延ばしにされたまま、11年が経過しました。不動産業者乙会社が甲土地を取得したいと、B、C、Dに申し出たことから、三人は、遺産分割協議を行うことになりました。

この場合、B、C、Dが甲土地を共有していることになりますが、遺産分割が済んでいなければ、甲土地に対するB、C、Dの具体的な持分がはっきりしません。そこで、乙会社に甲土地を売却するにあたり、遺産分割協議を行って持分をはっきりさせる必要があります。

この事例では、BはAの個人事業を手伝い、売り上げを飛躍的に増加させたとのことですから、BはAの遺産を増加させるために「特別の寄与」をしていたと認定される可能性があります。遺産分割協議では、Bの寄与分が考慮される可能性があり、甲土地についてのBの持分が法定相続分より多くなる可能性があります(民法904条の2)。

また、Cは自らの事業の資金として多額の援助をAから受けていたとのことですから、「特別受益」を受けていたと認定される可能性があります。遺産分割協議では、Cは特別受益の分だけ、遺産の取り分が少なくなるため、甲土地についてのCの持分も法定相続分より少なくなる可能性があります(民法903条)。

このように、寄与分や特別受益を考慮して決める相続分のことを「具体的相続分」と言います。改正前の民法では、Aが亡くなって相続が開始し、10年以上経ってから初めて、遺産分割協議を行ったとしても、こうした具体的相続分を考慮することができました。

しかし、相続開始から10年も経ってしまうと、Bの寄与分やCの特別受益の程度がはっきりしなくなることもあります。当事者の記憶が薄れた状態で、具体的相続分に関する話し合いをしても、なかなか話がまとまらず、遺産分割ができなくなるという事態になりかねません。

そこで、今回の改正法では、原則として、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、具体的相続分を考慮しない旨の規定が置かれました(民法904条の3)。

上記の事例では、相続開始後11年が経過してから、遺産分割協議を行っているため、Bの寄与分とCの特別受益は考慮されないことになります。そのため、甲土地についてのB、C、Dの持分は法定相続分で分けることになり、それぞれ3分の1の持分を有しているものとして、登記手続きをすることになります。その結果、乙会社としては、遺産分割を終えていなかった甲土地を取得しやすくなったということです。

なお、相続開始後10年を経過した後でも、具体的相続分による遺産分割ができる場合もあります。10年が経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てていた場合です。また、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合も、具体的相続分による遺産分割ができると解されています。上記の事例で言えば、B、C、Dの全員が合意した場合です。

【改正前】

10年経過前

10年経過後

具体的相続分による遺産分割ができる

具体的相続分による遺産分割ができる

【改正後】

10年経過前

10年経過後

具体的相続分による遺産分割ができる

具体的相続分による遺産分割はできない

2.遺産共有と通常共有が併存する場合

上記の事例で、更地である甲土地をAとEが等しい割合で共有していたとしましょう。Aが亡くなり、上記の事例と同様の事情を抱えた子B、C、Dが相続人になりました。その結果、甲土地は、Eが6分の3。Aの持分については、法定相続分で分けた場合はB、C、Dがそれぞれ6分の1ずつ有している状態になりました。

Aが亡くなり、11年が経過しましたが、甲土地のAの持分について、遺産分割は行われていません。Cは、甲土地のEの持分とB、Dの持分を全部取得したうえで、甲土地上に、自らが経営する会社の工場を建てたいと考えています。

Cは手始めに甲土地のAの持分についての遺産分割協議をB、Dとの間で行い、その後で、Eと交渉して、共有持分を取得しようと考えました。ところが、B、Dとの間では、話し合いがまとまらない上に、Eとの交渉も頓挫しています。そこで、Cは裁判手続きによって、甲土地の持分取得を目指そうと考えています。

まず、裁判所における共有物の分割方法としては、遺産共有関係を解消する方法と、相続人ではない共有者間での共有関係を解消する方法の二つがあります。

遺産共有関係を解消する方法は、家庭裁判所における遺産分割調停・審判によります。遺産分割調停・審判では、寄与分や特別受益を考慮して具体的相続分を確定するのが原則です。上記事例で言えば、CがB、Dとの間で話し合いをすることがこれに当たります。

もちろん、Cとしては、具体的相続分や法定相続分で分けたいわけではなく、B、Dの持分を取得したいわけです。このような場合、CがB、Dに対して、価格賠償と言い、代償金を支払って、持分を取得することになるでしょう。CがB、Dから持分を購入するのと同じような関係になるわけです。しかし、このような話し合いでも、相続人同士の交渉である以上、遺産分割調停・審判で行う必要があったのです。

一方、相続人ではない共有者間での共有関係を解消する方法は、地方裁判所での共有物分割訴訟によります。上記事例で言えば、EとAの相続人B、C、Dの間で、共有関係を解消する方法です。

共有物分割訴訟では、遺産分割調停・審判と異なり、具体的相続分を考慮することはできません。具体的相続分による持分が確定していることを前提に共有物分割訴訟を起こすか、具体的相続分が確定していない場合は、その分は別途、遺産分割調停・審判を行う必要がありました。

CはEの持分とB、Dの持分をすべて取得したいわけですから、手続きの流れとしては、

  1. 遺産分割調停・審判で、B、Dの持分を全部取得する。
  2. 共有物分割訴訟で、Eの持分を全部取得する。

という2段階の手続きを踏む必要がありました。

改正後は、上記のように、相続開始から10年経過した事例では、地方裁判所の共有物分割訴訟で一括して解決できるようになりました(民法258条の2第2項)。なぜなら、相続開始から10年経過した遺産分割協議では、具体的相続分を考慮しなくてよいことになったためです。

改正後の手順としては、CはE、B、Dを相手として、地方裁判所に共有物分割訴訟を提起します。Cは全面的価格賠償の方法により、Eの持分である6分の3相当の代償金と、B、Dの持分6分の1ずつに相当する代償金を支払います。B、Dとの遺産分割をするために、別途、遺産分割調停・審判を起こす必要はなくなったのです。

ただ、法定相続分で支払いを受けるだけでは、B、Dが不満を抱くことも考えられます。相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合は、具体的相続分による遺産分割ができるわけですから、Cが共有物分割訴訟を提起したときでも、B、Dの権利を保障する必要があります。そこで、改正後も、

  1. B、Dが家庭裁判所に遺産分割調停・審判を申し立てている。
  2. B、DがCの提起した共有物分割訴訟で分割することに異議を申し立てた。

この二つの要件がそろった時は、共有物分割訴訟で分割することができないものとされています(民法258条の2第2項但書)。なお、B、Dによる異議申し立ては、共有物分割訴訟の訴状の受領後2か月以内に行う必要があるとされています(民法258条の2第3項)。

【改正前】

10年経過前

10年経過後

遺産共有の解消は遺産分割調停・審判
通常共有の解消は共有物分割訴訟

遺産共有の解消は遺産分割調停・審判
通常共有の解消は共有物分割訴訟

【改正後】

10年経過前

10年経過後

遺産共有の解消は遺産分割調停・審判
通常共有の解消は共有物分割訴訟

共有物分割訴訟で一括して解消できる

3.相続開始後10年経過した場合において、所在不明となった相続人がいるとき

更地である甲土地をAが所有していました。Aが亡くなり、上記の事例と同様の事情を抱えた子B、C、Dが相続人になりました。Aが亡くなってから11年が経過しても、遺産分割が行われていませんでした。おまけに、Dが3年前から行方不明で所在が知れなくなりました。その様な状況で、不動産業者乙会社が甲土地を取得したいと、B、Cに申し出ました。どのような手続きを踏めば、乙会社に甲土地を売却できるでしょうか?

改正前は、相続人B、C、Dの間で、遺産分割協議によってそれぞれの具体的相続分を確定する必要がありました。また、Dが所在不明なのでDのための不在者財産管理人の選任を申し立てる必要がありました。しかし、不在者財産管理人の選任申立てのためには、管理人の報酬が必要になるうえ、手続的な負担が大きく、使い勝手の良い制度ではありませんでした。

改正後は、この事例のように相続開始後10年経過したのであれば、より簡便な制度で、Dの持分を解消できるようになりました。この場合、相続開始後11年経過しているので、遺産分割に際して、原則として具体的相続分を考慮する必要がありません。甲土地のDの持分は3分の1になるわけですから、この持分に相当する金銭をDのために預けておき、B、Cだけで乙会社との交渉を進めてよいわけです。

まず、Dの持分に相当する金銭は、裁判所が指定する供託所に供託する形で保管します。その上で、B、Cは次の(1)(2)の手段のいずれかを選んで、手続きを進めます。

(1) B、Cが所在等不明共有者の持分取得の裁判を提起し、裁判所の決定によりDの持分を取得したうえで、甲土地をB、Cの共有とします。Dの持分は按分されるため、B、Cが2分の1ずつ共有する形になります。そして、B、Cと乙会社の間で、甲土地の売買契約を締結します(民法262条の2)。

(2)B、Cが所在等不明共有者の持分を譲渡する権限の付与の裁判を提起します。裁判所の決定により、B、CはDの代わりにD持分を乙会社に譲渡する権限を取得するので、B、Cと乙会社の間で、甲土地の売買契約を締結することができるようになります(民法262条の3)。

なお、(2)の手段を取る場合は、所在等不明共有者以外の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することが条件となっています。つまり、B、Cが二人そろって、乙会社に持分の全部を譲渡する必要があります。この事例で、もしB、Cのいずれかが、乙会社への甲土地売却に反対しているのであれば、とりあえず、(1)の手段によって、B、Cの共有とし、話し合いを継続する形になるでしょう。

いずれの手段を取るにしても、B、Cは甲土地を売却しやすくなりましたし、乙会社も取得しやすくなったということです。

【改正前】

10年経過前

10年経過後

不在者財産管理人の選任が必要

不在者財産管理人の選任が必要

【改正後】

10年経過前

10年経過後

不在者財産管理人の選任が必要(※)

所在等不明共有者の持分の取得(譲渡)の手続きによることができる

※所有者不明土地管理人制度の利用も検討されますが、所有者不明土地管理人には相続人の権限はないため、遺産分割協議に参加することはできません。遺産分割未了の場合は、従来通り、不在者財産管理人の選任が必要になります。

監修

大滝行政書士事務所 行政書士 大滝義雄