ビジネスQ&A

人材育成ツールについて教えてください。

2023年 10月 4日

社員に対して人材育成に各種ツールを導入して効果を高めたいです。どんなツールがあるのでしょうか。

回答

強い組織を作るためには、個のメンバーが成長に向けて自分の意志で学び、経験を積むように仕掛けていくことが大切です。人が成長していくために必要なステップを3つに分けました。ステップごとに必要なツールを示します。

【目標と課題の設定】 成長目標と本人の課題を提示する(ステップ1)
【学び】 自己成長のために知識や気づきを得る機会を提供する(ステップ2)
【経験と振り返り】 実務経験の機会を提供し、自らを振り返る機会を作る(ステップ3)

目標と課題の設定

成長目標と本人の課題を提示する(ステップ1)。

必要なツール

  • 役職・等級、職種別に期待する人材像・スキルマップ(一覧表)
  • 個人毎の成長目標とスキル課題の記入シート

まず、企業の人材を育成する上で最も重要な前提は、育成する対象の人に「どのように成長変化してほしいか」を明確に示すことです。企業としての人材育成と言いながら、育成する側の上司や担当が変わる度に育成方針が変わっていたのでは、強い組織をつくるための人材育成として、継続性と効果に問題が出てきます。

この前提をもとに、最初に準備すべきツールは、「役職・等級、職種別に期待する人材像」です。どんな役職や職種ごとに、「どんな仕事に取り組んでほしいのか」、「どのような成果を出してほしいのか」を明らかにし、一覧表化します。

次に準備したいのは、「役職・等級、職種毎のスキル」です。最初に準備した「役職・等級、職種別に期待する人材像」とセットで社員に提示できるようにします。そして、育成しようとする社員と育成する上司が面談を行い、成長期待の伝達、不足するスキルについて話し合い、その人ごとの成長目標とスキル課題についての目線を合わせます。

面談の中で話し合ったことは、本人が記録し、上司が確認していくようにします。企業によっては、個人の成長のための取り組みの内容と成果を評価制度の一部として取り入れている企業があります。評価制度と社員の成長をセットで運用する場合は、面談の結果を本人に記録してもらい、上長が確認の上、保管。その後に記載内容を本人と上司が参照しながら面談していくプロセスが必要になります。

「役職・等級、職種別に期待する人材像・スキルマップ」を作成する際の注意点は、どの業種や会社でも必要となるビジネスマンとしての汎用的な役割や必要なスキル(以下、職種共通スキル)と、業界や個々の会社特有の専門知識やスキル(以下、専門スキル)を分けて設定することです。

強い組織を作るためには、組織を牽引して人材を育成できる高い職種共通スキルを持った管理職が必要です。また、業界特有に必要となる専門スキルを持った現場人材が育たないと、会社として事業を継続することができません。経営側で、どの人材に、どのように成長してもらうかという狙いを持ち、職種共通スキルと専門スキルを伸ばすための教育や育成を仕掛けていくことが必要になります。

▼役職・等級、職種別に期待する人材像・スキルマップ(一覧表)のイメージ

役職・等級、職種別に期待する人材像・スキルマップ(一覧表)のイメージ

学び

自己成長のために知識や気づきを得る機会を提供する(ステップ2)。

必要なツール

  • スキマ時間を有効に活用できる動画コンテンツ
  • 職種毎の教育コンテンツ体系

一昔前の仕事の学習といえば、社員を集めて行う「集合研修」、現場での指示と指導による「OJT」の2種類でした。昨今は、情報通信技術やITツールの進化、働き手のITリテラシー向上、働き方改革などの時代の変化に伴い、学習や成長支援のやり方に変化が出ています。

学習のためのツールでは、動画学習プラットフォームを提供するプロバイダが増え、実務のOJTや集合研修と組み合わせて使う企業が増えています。「うちの仕事は特殊だから」、「動画なんてほとんど効果はない」と敬遠されてきた時期もありましたが、昨今は様々なカテゴリーのビジネス学習動画コンテンツが提供され、ビジネスマンが自分に必要な知識を、隙間の時間を使ってスマホやパソコンで見て学習することが普及しつつあります。「人材像・スキルマップ」に合わせる形で、学習テーマとコンテンツ一覧を提示し、社員に主体的な学習を促していくために、部分的に動画学習を取り入れていく形が効果的です。実務上の独自の知識やノウハウの共有を行うための集合研修、実務経験に即して行うOJT、外部機関による社外研修と組み合わせて、社員の成長に必要な教育コンテンツの体系を拡充させていきます。

他方、動画学習など、本人に任せっぱなしになり、学習の取り組みについて育成側が全く関与しないケースも散見されます。本人に任せっぱなしになると、やらないでそのままになってしまうケースや、せっかく学習した知識を実務で活かせずに学習にかけた時間とコストが無駄になることに繋がります。育成側と本人の間で「成長目標と課題設定」を行った後も定期的に面談を行い、本人に学習の計画を立ててもらい、その後の進捗や学びの実感を聴いていくことをセットで取り組むことが肝要です。

経験と振り返り

実務経験の機会を提供し、自らを振り返る機会を作る(ステップ3)

必要なツール

  • 学習と経験の振り返り記入シート
  • スキル評価シート

学習した知識を使いながら、訓練や経験をする機会が人材育成の中では最も有効かつ重要なステップです。メンバーが学習したことや経験を振り返り、自分が成長できていること、さらなる成長の可能性を実感できるように上司や育成担当者がフォローできるか否かで、その企業の人材育成の成果は大きく変わっていきます。

学習や経験の機会を振り返り、社員ひとりひとりが自分の成長を主体的に考える風土を作るために、学習と経験の履歴を記入してもらい、本人や上司が後で振り返って見られるようにするツールが有効です。一定の社員数が在籍する事業者向けに、人材管理ツールとして社員毎の経験や学習を蓄積して参照できるシステム(タレントマネジメントシステム)が展開されています。中長期的に育成すべき社員人数が多い(50人以上)事業場の場合は、そうしたサービスを使うことが効果的です。社員の人数が限られている事業場では、Excelで個人の学習と経験を記入するフォーマットを導入し、定期的に育成対象者と上司が記入済のフォーマットをみながら面談する運用を行います。

育成対象者と上司が面談を行う際、メンバーの個性により、自己の評価が過大評価になる、過小評価になることがあります。上司の立場として、メンバーの個性を中和する質問や問いかけを行うことで、メンバーが経験した事実を元に自分を客観視できるように支援をします。自己を過大評価しやすいメンバーに対しては、「できるようになったこと、成長したと思うこと」をなるべく具体的に確認していくようにします。また、自己を過小評価する傾向にあるメンバーに対しては、メンバーが成長したと思える点を上司が積極的に伝えていくことで、メンバーが自分の変化を肯定的に振り変えることができるように支援します。メンバーが、自分自身の成長や課題を客観視できるようになることが、「自律的に人が育つ強い組織」に変化していくことに繋がります。

▼学習と経験の振り返り記入シートのイメージ

学習と経験の振り返り記入シートのイメージ

▼スキル評価シートのイメージ

スキル評価シートのイメージ
回答者

中小企業診断士 吉井 洋