ビジネスQ&A

目標達成・課題解決ツールのビジネス活用や使いこなし方を教えてください。

2024年 8月 14日

目標達成や課題解決に対してこれまで表計算ソフトなどを使用してきましたが、入力に手間がかかるのと共有し難い面があって、目標達成・課題解決ツールの導入を考えています。ビジネス活用や使いこなし方について教えてください。

回答

ビジネスにおいて課題解決・目標達成を図ることはどのような企業においても重要な要素です。自社の課題解決や経営目標の達成を効率的に行うことは市場において、競争力を高めることに繋がると言えます。課題解決・目標達成を実現する為にはフレームワークやビジネスツールを活用したアプローチが有用ですが、より効果的に活用するためには、1.現状とゴールの間に存在する問題・課題を正確に把握すること、2.解決までの一連のプロセスを明確にすること、3.目的にマッチしたフレームワークやツールを活用すること、が重要です。

1.現状とゴールの間に存在する問題・課題を正確に把握すること

課題解決や目標達成を実現するということは、現状とゴールの間に存在するギャップを埋める、ということです。そのギャップ=問題・課題の本質を見誤ってしまうとのち解決策や施策を実行しても期待通りの効果を得る事ができません。問題・課題をきちんと見定めるためには以下のアプローチ方法が有効です。

(1)目的に立ち返ること

問題・課題の本質的な目的を明確にしましょう。なぜこの問題・課題を解決する必要があるのか、解決することでどのような結果を得たいのかという点を明らかにすることです。例えば、『Aという製品の販売数を増やす』、という目標を立てたとして、その目的は売上を伸張させたいからなのか、製品を通して自社の認知度を高めたいからなのか、という事です。解決策を実行するフェーズにおいて、期待通りの結果を得られなかった場合、その内容を見直す必要性が高まったときにこの目的が明確にされていれば方針や方向性にブレが発生することを避けられます。

(2)時間軸を伸ばして考えること

短期的な施策や解決策の実施は一時的な効果を得る事はできても、市場環境や競合の変化に対応しにくく、新たな問題・課題が発生するリスクが残ります。中長期的な視点で問題を捉え、将来の経営ビジョンを考慮したうえで現在の課題に対してのアプローチ方法を検討しましょう。

(3)視座をあげて検討すること

問題・課題に影響を受けるステークホルダーの視点を考慮しましょう。ここでいうステークホルダーとは企業の問題・課題の解決によって利害が発生する可能性のある方、顧客・従業員・アウトソーサーなどのビジネスパートナーなどを指します。異なる立場、視点から問題を分析し、解決することがそれぞれの立場にどのような影響を及ぼすのか検討しましょう。実際に課題解決・目標達成を実行することになる従業員の方の視点は特に重要です。その課題解決・目標達成を行うことが従業員のみなさんにとって真に意味のあるものであることを納得して頂くためにも大切な観点です。

(4)最後に逆の視点から考えること

課題の特定や目標の設定についての解像度が高まったら、逆の視点から考えてみましょう。逆の視点から考えるというのは、なぜこの問題が発生しているのか、逆説的な視点で課題・目標を再評価するということです。問題に対する隠れた前提や原因との間にある因果関係が論理的につながっているかを確認しましょう。

2.解決までの一連のプロセスを明確にすること

前述の通り、課題解消・目標達成とは現在とゴールの間に存在するギャップを埋めることです。ギャップ=問題を明確にすることができましたら、次に課題解消・目標達成に向けてプロセスを踏んでアプローチしましょう。

(1)問題が発生している箇所の特定

明確にした問題が発生している箇所を特定します。特定のためにはビジネスフローを整理することが有効でしょう。ビジネス上の一連の流れを明確にしたうえで、どの工程で問題が発生しているのかを明らかにします。例えば生産性を改善したいのであれば、生産における各工程で生産性の低い工程がないか、属人化によりボトルネックになっている工程がないかなどです。

(2)原因の追究

次に問題が発生している原因の追究を行います。問題が発生している根本的な原因、真因を明確にできなければ効果的な対策ができず根本的な解決に繋がらない可能性があります。有名な手法として日本の世界的自動車メーカーが発案した「なぜなぜ分析」というものがあります。簡単な事例をあげてみます。

ア 「製品不良率が高いのはなぜか」⇒「検査ミスが多いからだ」
(ここで真因の追究をとめてしまうと検査工程を追加するなどの対策にとどまってしまい、根本的な原因の解決に繋がりません)

イ 「検査ミスが多いのはなぜか」⇒「作業員の負担が多いからだ」

ウ 「作業員の負担が多いのはなぜか」⇒「人手が不足しているからだ」

エ 「なぜ人手不足なのか」⇒「採用がうまくいっていないからだ」
(ここまで深堀すると本当の問題は採用手段にあり、表面上の検査工程を追加したとしても問題は解決しないことがわかります)

このように真因を追求することで根本的な問題を明らかにし、本当の意味での解決を目指しましょう。

(3)解決案・施策案の立案

真因を特定することができたら、解決案・施策案の立案を行います。有効な解決案を立案するためには「できる」「できない」といった思い込みや先入観にとらわれず、自由な発想で多くの案を創出する事が重要です。その中から、最適解を選択していきましょう。その際、過去に発生した類似事例を参照することや、時には内外問わず専門家の意見を得ることも必要なアクションプランです。

(4)解決案・施策案の実行

解決案・施策案を立案したら、実行する為の計画を策定しましょう。5W1Hを明確にするようにスケジュール、社内リソースの配分、担当者とその役割などを決めていくことが重要です。計画の規模によってはWBS(work breakdown structure)を作成し、可視化することで関係者と情報共有することも重要です。ここでもっとも大切なことは実行計画の進捗や効果を必ず定期的に見直すことです。PDCAの考えに基づき、期待通りの進捗や効果が得られていないのであれば、計画を見直し改善しながら推進していきましょう。

課題解決ステップのフロー

3.目的にマッチするフレームワークやツールを活用すること

以上が課題解消・目標達成の標準的なプロセスとなります。フレームワークやビジネスツールを活用すること、それ自体で課題解消や目標達成を実現できるわけではありません。課題解消・目標達成のプロセスを効果的且つ迅速に行うためにフレームワークやツールを活用するものとご理解頂ければと思います。大切なのは各々のプロセスにおいて目的や状況にマッチするフレームワークやツールを選択し、正しい方法で使用することです。

(1)フレームワークの活用

フレームワークは事象を効率的に分析し、認識を共有するために広く使われている枠組みです。フレームワークはMECE(モレなくダブリなく)であることが前提として置かれていますので、考慮もれや余分な情報ノイズが発生しにくく、問題解決や目標達成のためにビジネスシーンで広く活用されています(前述した5W1HやPDCAも課題解消の為のフレームワークの一種といえます)。

その他にも代表的なものとして

ア 市場分析:PEST分析、3C分析、5Force分析

イ 組織戦略策定:SWOT分析、VRIO分析、アンゾフの成長マトリクス

ウ 経営戦略策定:PPM

エ マーケティング:4P、AIDMA

などが挙げられます。

例えば、売上を伸張させるため、新製品や新しいサービスの展開を検討しているような場面では、ビジネスとしての「勝ち」が見込めるかどうかを、3C分析の活用によって判断できます。Company(自社)の強みを活かすことができる製品・サービスであるか、Competitor(競合)は同種の事業を既に行っている、模倣が容易であるなど脅威になり得るのか、Customer(市場)は利益を見込める規模のニーズを内包しているのか。これらの観点で分析を行うことで事前にリスクを洗い出し、対策を検討することもできます。

また、製品やサービスの販売数が伸び悩んでおり、売上低迷の課題を解消しなければならない時などはAIDMAモデルが活用できるでしょう。顧客の購買行動プロセス(Attention:認知、Interest:関心、Desire:欲求、Memory:記憶、Action:行動)のどこで自社の製品・サービスが落とされているのかを分析することで問題となる箇所を特定することができます。

このように自社の課題を明確に把握し、目的に沿ったフレームワークをうまく活用することが重要です。

(2)ツールの活用

課題解決・目標達成におけるツールの活用については、課題解決であれば計画および実行段階における情報・進捗状況の可視化や共有化、目標達成については目標達成の為の意欲向上や目標管理の精度向上などが主な活用目的になります。現在は有償無償問わず多様なツールがwebを通じて展開されていますので、目的に沿うツールを正しく選択して使用する事が重要です。ツールの活用によるメリットには以下のものが挙げられます。

ア 進捗状況の可視化:各タスクの進捗を可視化することで効率的な活動が行えます

イ 優先順位の明確化:期限や重要度を設定することで優先順位を明確にできます

ウ コミュニケーション効率化:共通認識を持つことで効率的なコミュニケーションが図れます

エ モチベーションアップ:達成や貢献度合いを人事評価制度に結びつけることで適正な評価を得られ従業員のモチベーションアップが図れます

オ 分析や改善のノウハウ蓄積:データの蓄積により類似した事象の効率的な解決に繋がります

例えば、組織として達成したい目標に対して個人個人の成果を指標として設定する手法としてOKR(Objective&Key Result)というものがあります(ここではOKR管理をベースに作成された目標管理のツールを指すとお考えください)。企業や組織の目標として「売上前年比〇%増」などと設定したものをツール上で共有し、それを個人の成果目標やアクションプランとして「顧客の新規アポイントメント○○件獲得」といったように明確な指標として設定する、といったものです。

課題解消・目標達成ツールをビジネスシーンで活用することにより、論理的なプロセスを効果的かつ迅速に実施することができます。ぜひ、目的や状況を正しく認識したうえでツールを効果的に活用し、成果の最大化を目指してください。

回答者

中小企業診断士 青柳 淳