ビジネスQ&A

仕事のパフォーマンスと睡眠の関係性について教えてください。

2023年 11月 24日

鋳物工場を経営しています。従業員の仕事のパフォーマンスと睡眠時間には関係があるような気がしていますが、実際のところはどんなものでしょう、教えてください。

回答

我々の健康維持に欠かせない睡眠ですが、仕事におけるパフォーマンスとの関連性も深く、睡眠の質と量が仕事の成果や能力に大きく影響します。睡眠不足が続くと、仕事の正確性や創造性、メンタルヘルスなどに悪影響を及ぼします。仕事が忙しいからと言って睡眠時間を削るような働き方をすると、生産性は低下していきます。企業は従業員が適切な睡眠を取り、効率よく仕事をしてもらうための支援をしていくことが重要です。

1.睡眠の持つ機能と役割

睡眠が持つ機能は多岐にわたり、体と脳の健康を維持するために極めて重要な役割を果たしています。

(1)身体と脳のリセット

睡眠は日中の活動で消耗したエネルギーや脳の機能を回復させ、新たな一日に向けて体内をリセットさせる効果があります。脳の活動によって蓄積した廃棄物や有害な物質も、睡眠中に排除されることで、脳の機能を最適な状態に保ちます。十分な睡眠を確保することで、集中力、注意力、判断力などの認知機能が向上し、効果的な問題解決や意思決定が可能になります。また、学習プロセスにも影響を及ぼします。日中に得た情報を整理し、長期的な記憶に転送するプロセスを睡眠中に行うことで、学習能力や記憶力が向上します。

(2)ストレス軽減と感情のコントロール

睡眠はストレスホルモンであるコルチゾールの調節に関与し、ストレスの軽減に役立ちます。適切な睡眠は心理的な安定を促進し、ストレスへの耐性を高め、感情のコントロールが容易になります。一方、睡眠不足はイライラや不安の増加、うつ症状のリスクを高める可能性があります。睡眠はメンタルヘルスの重要な要素であり、精神的なバランスを保つために欠かせない役割を果たします。なお、バージニア工科大学の研究では、睡眠不足になるほど意志力が弱まり、手抜きをしたり、ごまかしたりするようになる、という報告があります。このように、睡眠は個人の「誠実さ」とも関連し、人間関係にも影響を及ぼすことが分かっています。

(3)身体的健康の維持

睡眠は心血管機能や代謝調節にも影響を及ぼし、高血圧や糖尿病などのリスクを低減する役割があります。免疫系の正常な機能を維持し、感染症への抵抗力を高める効果も確認されています。また、ホルモンとも密接に関連しており、深い睡眠は成長ホルモンの分泌を促進し、組織や骨の健康を支えます。メラトニンというホルモンは睡眠と密接な関係があり、体内時計と睡眠サイクルの調整に影響を与えます。睡眠不足は、食欲を刺激するホルモンであるグレリンの増加や、飽食感を抑制するホルモンであるレプチンの減少を引き起こすため、体重管理に悪影響を及ぼす可能性があります。

このように、睡眠は我々の健康において重要な役割を果たしています。十分な質と量の睡眠を確保することは、日々の活動において最良の状態を維持するために不可欠なものです。

2.仕事のパフォーマンスと睡眠の関係性

我々の健康を維持するのに重要な睡眠ですが、仕事のパフォーマンスと睡眠との関係性は深く、睡眠の質と量が仕事の成果や能力に大きな影響を及ぼします。

(1)業務判断と正確性

睡眠と仕事のパフォーマンスは業務判断と正確性の面で深い関連性を持ちます。十分な睡眠を取ることで脳は適切に機能し、判断力が向上します。睡眠不足は判断力の鈍化や集中力の低下をもたらし、重要な意思決定に影響を及ぼす可能性があります。さらに、良質な睡眠を通じてクリアな思考が促進され、情報を適切に処理して正確な判断を行うことができるようになります。適切な睡眠を確保することで業務における判断力と正確性が向上し、効果的な業務遂行が実現します。

(2)創造性

睡眠は創造性とも密接な関わりを持っています。比較的浅い睡眠だと言われるレム睡眠段階では脳が情報を結びつけ、新たなアイデアや視点を生み出すための創造的なプロセスが進行します。十分な睡眠をとることで、創造性を刺激し、問題解決能力や革新的なアイデアの生成が向上します。睡眠不足は創造力を抑制し、アイデアの出現や発展を妨げる可能性があります。したがって、創造性を重視する仕事においては、十分な睡眠を確保することが重要です。

(3)メンタルヘルス

睡眠はメンタルヘルスにも大きな影響を与えます。不十分な睡眠はストレスや不安の増加、情緒の不安定化を引き起こす可能性があります。仕事のストレスやプレッシャーに対処するためには、良質な睡眠が必要です。十分な睡眠を取ることでストレスホルモンのバランスが整い、心の健康を維持する助けになります。メンタルヘルスの向上は、仕事におけるパフォーマンスと満足度に直結する要因であり、睡眠はその基盤を支える重要な要素です。

このように、睡眠の質と量は組織全体のパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。従業員が十分な睡眠を取れる環境を整備することで、企業の生産性を向上することができます。また、満足度やモチベーションの向上も見込まれ、組織の雰囲気や効率性が向上します。睡眠不足が慢性化すると離職率や健康問題が増加し、組織に悪影響を及ぼします。

平成26年版厚生労働白書によると、日本人の1日の均睡眠時間は統計を取り始めた1976年から下がり続けており、特に有業者は下がり幅が大きく、パフォーマンス低下が懸念されます。

平均睡眠時間の推移(15歳以上)

企業は従業員が適切な睡眠を取れているかについてモニタリングし、経営視点に取り入れていくことを検討するのも良いでしょう。

3.従業員が適切な睡眠を取るための施策例

それでは、従業員が適切な睡眠を取り効率よく仕事をしてもらうためには、企業はどのようなアプローチを行っていけば良いのでしょうか。取り組むべきポイントと具体例を紹介します。

(1)快適な労働環境の整備

快適な睡眠環境を提供するために、職場の照明や騒音、温度などの要素を最適化します。明るすぎない適切な照明やパーティションで区切るなどの騒音対策は、睡眠の質を向上させる要因となります。ブルーライト対策を行うのも効果的です。企業によっては、休憩スペースを設置し、昼寝制度を取り入れているところもあります。昼寝制度とは、企業が社員に対し、作業能率の改善やミスの防止を目的として、就業時間中に仮眠(昼寝)を取ることを認める制度のことです。眠気と戦いながら仕事をするよりも、いったん作業を中断して短時間の睡眠をとったほうが脳の働きが回復し、生産性が高まるからです。

(2)柔軟な勤務制度の導入

従業員に対してフレックスタイムやリモートワークの選択肢を提供することで、個々の生活スタイルに合わせた睡眠スケジュールを確保しやすくします。従業員は育児や家事、介護と仕事との両立もできるため定着率向上にもつながります。長期に安定した雇用は安心感を生み、ストレス軽減につながるため、毎日の質の良い眠りにもつながっていきます。もちろん、このような制度を導入する際には、過度な労働時間を調整し、ワークライフバランスを尊重する組織風土を醸成することも大切になります。

(3)健康促進プログラムの実施

睡眠促進を含む総合的な健康促進プログラムを組織内に導入します。ストレス管理、栄養指導、運動プログラムと組み合わせて、従業員の総合的な健康をサポートします。健康プログラムを通じて、従業員が健康な生活習慣を築く手助けを行います。また、従業員に睡眠の重要性について教育し、睡眠の質や量が健康とパフォーマンスに与える影響を理解してもらうことが重要です。セミナーやワークショップを通じて、睡眠の役割や質の向上方法について情報を提供し、意識を高める取り組みを行います。厚生労働省が提供する「健康づくりのための睡眠基準2014」などの公的資料を活用するのも良いでしょう。

適切な睡眠の確保は健康経営に取り組む企業にとっても重要な要素です。2023年現在では、健康経営優良法人の認定企業が増えてきています。

健康経営優良法人の認定数の推移

睡眠の重要性を理解し、継続的な取り組みを通じて健康な職場環境を築くことで、組織全体の生産性向上につながっていきます。

回答者

中小企業診断士 大橋 孝洋