備えあれば憂いなし、BCPのススメ

目標は2日以内の事業復旧「沼尻産業株式会社」

2020年 2月19日

首都圏に22カ所の物流拠点を持つ沼尻産業(茨城県つくば市)は、東日本大震災での被災経験を機にBCP(事業継続計画)を策定した。荷主である顧客の物流業務を最適化する3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)を核に、法人向けの情報管理代行やネット販売支援、レンタルオフィス事業なども手掛けており、顧客の大切な商品を預かる物流事業者として安心・安全を届けることが不可欠だからだ。このため「人命保護の最優先」「資産の保護と業務の早期回復」を基本方針に掲げ、2日以内の事業復旧を目指している。

5日間停電した被災経験が契機

本社ビル

東日本大震災時に食品配送拠点の岩間共配センターや岩間低温物流センターは、震災後の停電により丸5日間、冷凍倉庫やセキュリティーシステムが使えなくなった。大規模自然災害時の預り商品の損害は免責事項だったとはいえ、顧客に安心を提供する仕組みが不十分と判断。またシステム不全に伴い人海戦術による24時間体制の監視を強いられ、従業員に大きな負担をかけた。

これを受け、各部署の責任者ら4人でBCP策定に向けた委員会を結成。他社事例を複数取り寄せ、検討したが「自社に合うモデルが分からず、途方に暮れた」と業務改革推進室の飯塚孝氏は振り返る。そんな中、茨城県のBCP策定支援事業に参加。他の企業と一緒に学ぶ集合研修形式だったが、「自社の防災対策の現状や想定されるリスクを再確認する作業を行った結果、自然とBCPが出来上がった」という。

非常用発電機と自家用給油所

自家用給油所
自家用給油所

まず基本方針の「人命保護の最優先」では、災害時に従業員が取るべき行動を定めた防災マニュアルを制定した。災害時の初動手順、安否確認の連絡方法などが分かりやすく記載され、必要な対策は随時、追加・実行される。例えば本社や物流拠点で棚・モノなどの落下・滑り・転倒防止措置を採ったほか、各拠点に非常時の連絡手段の一つとして衛星電話を新設した。さらに拠点ごとに食料、生活用品、防災安全機材などを備え、通常はベンチで非常時は炊出しに使える「かまどベンチ」、下水道管路上に設置する「マンホールトイレ」、川の水を飲料水に変えられる「飲料水生成装置」も用意した。

2つ目の「資産の保護と業務の早期回復」では、コンピューターサーバーを備える本社、谷田部物流センター、つくばアーカイブセンターの3カ所に非常用発電設備を導入。電力会社からの電力供給が止まっても、自家発電で稼働できるようにした。これにより荷役機器などが動かない場合も、ピッキングや配送に必要な情報を確保し、人力による出荷が可能になる。またトラックの燃料調達を確実にするため、自家用給油所を導入・設置した。

社内行事で防災意識を向上

現在はCSR(企業の社会的責任)活動の一環として、「環境」「社会貢献」と並んで「事業継続」を掲げ、外部に向けて積極的にPRする。顧客の商品・資産を預かる同社のビジネスにおいて、自然災害に強く早期の復旧を目指す姿勢は、顧客のメリットに直結するためだ。

また消防署の指導を受けて年1回、避難訓練を行う。かまどベンチを実際に組み立てたり、衛星電話や非常用機器が実際に機能するかを確認したりしている。また最寄りの避難所に歩いて移動するなど、社員が実際に避難を体感することも重視している。飯塚氏は「東日本大震災の記憶を風化させず、全社的な防災意識を高めるための新たな仕掛けを考え、社内行事として定着させたい」と語る。

企業データ

企業名
沼尻産業株式会社
Webサイト
資本金
9720万円
従業員数
310人(2019年7月31日現在)
代表者
沼尻 年正 氏
所在地
茨城県つくば市榎戸783-12
創業
1962年(昭和37年)
業種
倉庫・運輸業

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