業種別開業ガイド

自動車整備業

2023年 5月 31日

トレンド

自動車整備事業場には、地方運輸局長の認証を受けた「認証工場」と、認証工場の中で設備・技術・組織などが一定の基準に適合していると地方運輸局長から指定された「指定工場」がある。事業場数は、国交省のデータによると、認証工場が令和2年度9万1,532か所から3年度には9万1,790か所に。指定工場が3万107か所から3万118か所へと、いずれも微増しているという結果となった。

業態は4種に分かれる。整備の売上高が総売上高の50%を超える「専業」、兼業部門の売上高が総売上高の50%以上を占める「兼業」、自動車製造会社などと特約販売店契約を結ぶ「ディーラー」、主に自社が保有する車両の整備を行う「自家」だ。

日本自動車整備振興会連合会の「自動車特定整備業実態調査」によれば、4年度の自動車整備事業者の総整備売上高は5兆7,388億円となり、5年ぶりの減少となっていた前年度と比較して3.4%増加した。業態別の売上では、専・兼業が3.4%増、ディーラーも3.5%増、自家が1.6%増と、いずれも増加。作業内容別でも、車検整備が2.6%増、定期点検整備が3.4%増、事故整備が4.0%増、その他整備が4.0%増と、いずれも増加した。

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▼総整備売上高の推移

(「令和4年度自動車特定整備業実態調査」日本自動車整備振興会連合会)
(「令和4年度自動車特定整備業実態調査」日本自動車整備振興会連合会)

近年の自動車整備業事情

日本自動車工業会によれば、令和4年の乗用車販売台数は344万8,000台で、前年より6.2%減少した。いっぽう日本自動車販売協会連合会の発表では、同年の新車・年別販売台数(登録車+軽自動車)は527万2,000台で、前年同期比0.7%増となっている。燃料別販売台数では、ガソリンが前年比20.7%減、ディーゼルが12.5%減だが、HV(ハイブリッド自動車)は6.0%増、PHV(プラグインハイブリッド自動車)は65.8%増、EV(電気自動車)は49.4%増となっているのだ。

そこで整備にも、HV、PHV、EV、さらにはASV(先進安全自動車)などへの対応が求められ始めた。令和4年12月時点では、HV、EVの故障修理に対応できる整備工場は4割程度、自動運転車両に必須な各種センサーを調整する「エーミング作業」については、「対応可」と「対応予定」の合計で約6割程度となっている。

ただし、整備・修理の難易度が高かったり、設備が不足していたり、メーカーが情報を十分に公開していなかったりして、次世代カーへの対応はハードルが高い。また、次世代カーに使用される電子制御装置の整備・分解作業を行うためには、講習を受け、この特定整備(分解整備や電子制御装置整備)をするための認証を得る必要がある。さらに各事業場が独自で、さまざまな資格を取得したり、特定のカーブランドや企業の認定を受けるなどの動きがみられる。

少子高齢化や人口減少、そして環境保護の動きなどの影響もあり、乗用車販売台数は減少すると言われて久しい。ただし、サービスの内容や質によって付加価値を高めたり、料金をわかりやすく示したり、SNSなども活用した告知を試みたり、自動車関連の商品やサービスを充実させたりすれば、必要とされ、他の事業場との差別化も図れるだろう。出張整備士や業務委託整備士として整備を行うという選択肢もある。

いずれにせよ、技術力の強化による対応の拡大だけでなく、社会の動きをつぶさに観察し、方向性を見極めることが求められる。

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自動車整備業開業の人気理由と課題

人気理由

1. 進化する自動車の技術に触れることができる。

  • 車に関する最新の情報を得られる
  • 新技術への対応により高度な整備も可能となる

2. 顧客から感謝の言葉を得ることができる。

  • 車の故障で不安な客に安心感を与えられる
  • 直接的な反応を得やすい

3. 経験や技術を直接的に活用できる。

  • 経験が重なれば故障の原因を特定しやすくなる
  • 難しい故障に対処するほど、達成感を得られる

課題

  1. 自動車保有台数は減少するといわれており、将来的には市場が縮小する可能性がある。
  2. 整備士志望者の減少・高齢化、後継者不足が叫ばれ、人材を得にくい可能性もある。

自動車整備業開業の9ステップ

自動車整備業開業の9ステップ

自動車整備業の開業に必要な資格

自動車整備士になるためには国家資格を必要とし、一定の受験資格を満たしたうえで、国土交通省が実施する自動車整備士技能検定『学科試験(一級の場合は筆記及び口述試験)及び実技試験』に合格しなければならない。

学科試験の内容は、構造・機能・取扱法、点検・修理・調整・完成検査の方法、整備用の試験機・計量器・工具の構造・機能・取扱法、保安基準その他の自動車の整備に関する法規など多岐にわたる。また、実技試験では、車・部品・測定工具などを用いた試験が行われ、基本工作、点検・分解・組立て・調整・完成検査、修理、整備用の試験機・計量器・工具の取扱いについて問われる。

自動車整備士は、要求される技能のレベルに応じ、一・二・三級自動車整備士と特殊整備士に分かれる。工業高校の自動車科を卒業すると三級、2年制の専門学校・短大を卒業すると二級の受験資格が得られ、一級の受験資格が得られる4年制の専門学校・大学もある。それ以外でも、自動車整備工場で実務経験を積めば受験資格を得ることが可能。他方、特殊整備士は特定分野に特化した整備資格で、自動車電気装置整備士や自動車車体整備士が含まれる。

ガソリン、ディーゼル、シャシ、二輪と扱う車種によっても分かれている。最も受験者数が多いのがガソリンで、次がディーゼルとなっている。ただし、将来的にはこの分類を廃止し、次世代車に対応できる整備士資格へと改正される計画もある。

そして、前述のように、特定整備を手がける場合、講習を受講したうえで別途、認証を得る必要がある。

次世代車に対応するものとしては「電気自動車などの整備に係る特別教育」があり、教習所や社団法人から受講を申し込むことができる。また、低圧電気取扱特別教育、自動車電気装置整備士の資格も役立つ。ハイブリッドプロ認定資格というものも存在。地域によってはハイブリッド整備士認定資格制度を設けているところもある。その他、大手メーカー、ブランドが独自に設けている資格もある。

自動車整備業を開業するには2名以上の従業員が必要で、指定工場では4名以上の従業員が必要となる。いずれも4分の1以上が上記の自動車整備士資格を保有していて、自動車整備主任者を1名以上おかなければ許認可は取得できない。また、指定工場では、自動車検査員資格を取得している整備士1名以上に対し、検査員として任命する必要がある。それぞれ必要とされる作業場や機械設備も異なるので、確認しておきたい。

自動車整備業の開業時の費用

東京自動車大学校によれば、「整備工場を作る開業資金は、店舗建設費、内装工事費、場合によっては土地代、さらに専用機材や設備をそろえる費用、人件費、運転資金などを含めて2500万円~1億円といったところが目安になります」とのこと。これを参考に、働き方や業態、事業規模などを考えよう。

自動車整備業の売上イメージ

日本自動車整備振興会連合会のデータでは、令和2年度の整備要員1人当り売上高(自家除く)は1428万4,000円で、前年度と比較すると0.8%増とのこと。なお、業態別では、専・兼業は1011万5,000円(1.5%増)、ディーラーは2364万6,000円(0.05%増)となった。整備要員平均年齢(自家を除く)は45.7歳で、前年度と比較すると0.2歳上昇。整備要員1人当り年間平均給与(自家を除く)は396万3,000円で、前年度比3万9,000円(1.0%)増加しているそうだ。

このデータも参考に、自社の開業時期や業態、整備士の人数、経験年数などから、売上高や給与を計算してみよう。

▼自動車整備業黒字企業2,962社のデータ(令和3年1月〜令和3年12月決算)

自動車整備業黒字企業2,962社のデータ(令和3年1月〜令和3年12月決算)

フランチャイズ方式の場合

自動車整備業にもフランチャイズ方式を採っているところがある。この場合すでに知名度のあるブランドを受け継げる点と、開業前に研修を受けて様々なノウハウを身につけることができる点、開業後にも技術サポートを受けられる点などがメリットとなる。

フランチャイズ加盟時の平均的な開業資金はおよそ次の通り(以下参考例)。

フランチャイズ加盟時の平均的な開業資金

そのほかに材料費がかかる。

機材・材料費(例)

毎月の運営資金はおよそ次の通りだ。

毎月の運営資金
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※開業資金、運営資金、売上イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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