業種別開業ガイド

障害・発達支援

2021年12月 28日更新

トレンド

(1)障害者数の推移・発達障害の人数

内閣府の「障害者白書」よると、2006年に655.9万人であった障害者数※は、2018年版には963.6万人と、増加の一途をたどっている。身体障害、知的障害、精神障害の3区分別にみてもいずれも増加傾向となっている。また、厚生労働省が行った「平成28年生活のしづらさなどに関する調査」によると、医師から発達障害と診断された者の数は48万1千人と推計されている。

※身体障害、知的障害、精神障害の合計

(2)障害児施設・事業の種類

近年では、発達障害の認知の高まりや療育を必要とする児童の増加及びその保護者への支援、発達障害の診断基準や考え方の変化により、児童発達支援事業所へのニーズが高まっている。

障害児支援には、日帰りで通う「障害児通所支援」と、施設に入居する「障害児入所支援」の2種類がある。事業と内容については下記のとおり。

障害児通所支援と障害児入所支援の内容

(3)多様化するニーズや支援

先述のとおり、障害者数は増加の一途をたどっているため、今後はさらなる高齢化に伴う障害者の重度化、高齢障害者数の増加やサービス利用ニーズの多様化が見込まれる。支援を行う事業所数も増加しているが、今後はより多様化するニーズに対応するため、質の確保や向上、効果的な支援が求められてくる。

障害を持つ子どものリハビリの様子

事業の特性

事業所の開設には法律を始め、地方自治体で制定されている条例など、様々な関係法令があるため、各法令やルールを遵守した公的サービスの提供が求められる。また、事業所で受け入れる障害の特性に応じて、利用定員や設備、連携する病院などの運営基準や専門職の人員基準を満たさなければならない。このような公的サービスとしての基準を満たし公共性を担保したうえで、事業者として収益確保に努めた運営が要求される。

ただし、制度ビジネスであるため1度黒字転換すると、継続的に利益を見込めるというメリットもある。

開業タイプ

障害者を支援する事業の形態は、障害の特性や度合いから多種多様となっている。支援する障害の特性に応じて、運営基準や人員基準を満たさなければいけないため注意が必要である。

(1)入所系

施設に入所する障害者に対して、入浴・排せつ・食事等の介護、生活等に関する相談・助言など、日常生活上の支援を行う。

・障害者支援施設
・共同生活援助(グループホーム)
・福祉型障害児入所施設
・医療型障害児入所施設

(2)通所系

障害者支援施設などで、入浴・排せつ・食事等の介護、生活等に関する相談・助言など、日常生活上の支援などを行うほか、身体機能や生活能力の向上のために必要な援助を行う。

・地域活動支援センター
・就労継続支援事業所
・児童発達支援事業所
・保育所等訪問支援
・就労移行支援事業所
・児童発達支援センター
・放課後等デイサービス

(3)在宅系

一人で日常生活を営むことに支障のある人を、在宅で介護を行う。ホームヘルパーが障害者の自宅を訪問し、身体・生活の援助及び家族の支援を行う。

・居宅介護(ホームヘルプ)
  主な資格:介護福祉士、介護職員初任者研修
・重度訪問介護
  主な資格:介護福祉士、介護職員初任者研修
・行動援護
  主な資格:介護福祉士、介護職員初任者研修、行動援護従事者養成研修修了者
・同行援護
  主な資格:介護福祉士、介護職員初任者研修、同行援護従事者養成研修修了者

入所者の身の回りを支援する介護士

開業ステップ

事業所の開所には様々な関係法令があり、指定申請前に把握する内容が多い。また、開所するには、開所予定地の自治体との事前協議が必要となるため、早い段階で日程などを確認しておくことが望ましい。

例として、児童発達支援事業を開業する際の条件は以下となっている。
(1)法人格を有していること
(2)障害特性(支援する内容)により、職員数や設備の基準を満たしていること

また、運営の基準として、1.利用定員が10名以上(主たる利用者が重症心身障害児の場合は5名以上)、2.連携する医療機関を決め、医療との協力体制の確立する、3.受付窓口の設置などがある。

(1)開業のステップ

開業のステップの図

(2)必要な手続き

人員、設備などの基準を満たした上で開所予定地の都道府県(地域によっては市区町村)に事業者指定申請を行い、指定(許可)を受ける必要がある。また、法人格を有していない場合は、取得手続きを行う。人員や設備の基準は、支援する内容によって異なるため、開所予定地の自治体との事前協議を必ず行い、確認する必要がある。

必要なスキル

各種法令についてはよく理解しておく必要がある。
障害者施設で役立つ資格には以下がある。

■国家資格
 1.社会福祉士
 2.介護福祉士
 3.精神保健福祉士

■他の資格
 4.社会福祉主事任用資格
 5.介護職員初任者研修
 6.介護福祉士実務者研修
 7.ケアマネジャー(介護支援専門員)
 8.福祉用具相談員
 9.ガイドヘルパー(移動介護従業者)

発達障害の理解に役立つ資格には以下がある。

1.発達障害学習支援サポーター資格制度(初級、中級、上級)
【一般社団法人 子ども・青少年育成支援協会】
2.発達障害コミュニケーション指導者
【一般社団法人 日本医療福祉教育コミュニケーション協会(略称:AMWEC)】
3.早期発達支援士
【一般社団法人 こども家族早期発達支援学会】
4.発達障害児支援士
【学校法人 武蔵野東学園】
5.AS(自閉症スペクトラム)サポーター
【通信制大学 星槎大学】
6.自閉症スペクトラム支援士
【NPO法人 日本自閉症スペクトラム支援協会・日本自閉症スペクトラム学会】
7.公認心理師
【厚生労働省の定める国家資格】

施設の様子

開業資金と損益モデル

いずれのサービス業態であっても、初期投資額は、概ね1,000~2,000万円程度の開業資金が必要となるケースが多く、比較的少額で済む居宅系のサービスでも500万円程度が必要となる。

ここでは、他のサービスに比べ利益率が高いとされる放課後等デイサービスをフランチャイズにて開業するモデルを示すこととする。

(1)開業資金

フランチャイズへの加盟を前提とした開業資金モデルの表

(2)損益モデル

a.売上(事業活動収益)計画

参考情報「利用者の支払い実費」一覧
利用者の実費負担は以下の表のとおりで、9割以上が公費負担となる。

利用者の支払い実費の表
売上(事業活動収益)計画
売上(事業活動収益)計画の表

b.収支差

上記a売上(事業活動収益)計画に記載の売上高(事業活動収益)に対する収支差の割合(※)を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※1.本業種の特色として、法人形態は社会福祉法人が大半をしめ、収益性を示す指標としては「収支差率」が用いられる。
※2.収支差率は「令和元年障害福祉サービス等経営概況調査の結果について」(厚生労働省社会・援護局障害福祉部障害福祉課)に分類される放課後等デイサービスの平成30年決算の収支差率を掲載。
※3.上記、事業活動収益及び事業活動費用には、事業活動外損益及び特別損益を含めている。

c.収益化の視点

公的なサービスの側面が強いだけに開業には一定のハードルがあるものの、収入の大半は公費負担であり回収リスクはない。したがって、一定の利用者数を確保することができれば経営は安定する。

ただし、人件費の負担が大きい業種であるだけに、安易に拡大路線をとって人員を増やすと固定費の上昇を招くので注意が必要である。

なお、前述の「令和元年障害福祉サービス等経営概況調査の結果について」によると、放課後等デイサービスを含めた全サービスの平均収支差率は3.9%となっている。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討する際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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