業種別開業ガイド
探偵業
2022年 7月6日
1. トレンド
(1)探偵業の届出件数は増加傾向
警察庁の統計によると、令和2年末の探偵業の届出数(営業所数)は、6,379件であり、前年比313件の増加となっている。内訳をみると、個人が4,648件(前年比234件増)、法人が1,731件(前年比79件増)となっており、個人が7割以上を占めている。
(2)市場規模
探偵業を含む興信所の市場規模は、平成28年経済センサスによると約860億円である。相手先別の収入額をみると、個人は約37億円、法人が752億円、他の企業・団体・海外取引が約70億円となっている。
(3)法規制
平成19年6月1日より、探偵業を規制する初めての法律となる「探偵業の業務の適正化に関する法律」(以下「探偵業法」という)が施行された。それまで探偵業を規制する法律はなかったが、探偵者、興信所等の調査業については、調査依頼者との間における契約内容等をめぐるトラブルの増加、違法な手段による調査、調査対象者等の秘密を利用した恐喝等、従業者による犯罪の発生等の悪質な業者による不適正な営業活動が後を絶たなかった。このような状況に鑑み、調査の依頼者、調査対象者の権利利益を保護するため、立法化に至ったものである。
2. ビジネスの特徴
探偵業法により、探偵業務は、「他人の依頼を受け、特定人の所在又は行動について情報を収集することを目的として、面接による聞込み、尾行、張込み等により実地調査を行い、その結果を当該依頼者に報告する業務」と定義されている。一般的に「探偵」という言葉は個人を対象とする調査を指すことが多いが、企業の信用調査を扱う業者もある。調査内容は浮気・不倫調査が多いとされる。その他には、素行調査、所在調査、身辺調査、ストーカー調査、盗聴器発見調査等がある。調査のほか、依頼者との面談、契約手続、調査報告書の作成も業務に含まれる。
料金体系は、主に調査料(着手金・人件費等)、成功報酬、経費(車両費・交通費等)、手数料等の項目で成り立っている。なかでも大きな割合を占めるのは人件費である。時間単位で決められていることが多く、調査員1人1時間あたり5,000円~1万円が相場である。尾行・張込みのように複数人で行う調査の場合は人数分の人件費が発生するため、調査費用としては1日あたり数万円となる。探偵業者によってはパックプランや定額制プランを設定しているところもある。
探偵が調査した結果、依頼人が訴訟に踏み切ることも多いため、探偵は弁護士と近い関係にある。探偵業者が弁護士事務所との提携をうたっていることも多い。弁護士事務所が探偵社を設立し、調査から法律相談までを一貫して行っているケースもある。
3. 開業タイプ
(1)個人
開業にあたっては、営業を開始しようとする前日までに公安委員会への届出が必要であるが、特別な資格は不要である。探偵業は、特段の初期投資が必要なく、参入しやすいとされる。開業に必要なものとしては、事務所と調査に必要な機材等が挙げられる。事務所については自宅を事務所として使用することも可能である。調査に必要なものは、パソコン、プリンター等の周辺機器、撮影機材、盗聴器発見器、自転車、自動車等である。
開業時に大手探偵社のフランチャイズに加盟するという選択肢もある。加盟することで開業に必要なサポートを受けられ、集客しやすくなるというメリットがあるが、相応の費用がかかるため慎重に判断したい。大手探偵社の場合、加盟費用が100~150万円、研修費が50~100万円、機材・販促物・書類等が50~100万円となっており、合計すると200~350万円となる。さらに毎月支払うものとして「商標使用料」等の名目の固定料金と、売上の数%のロイヤリティが設定されていることが多い。
また、探偵業界には業界団体が多数あるため、それらに加盟して信用度を高め、人脈を作るという方法もある。
(2)法人
開業にあたって必要なものは、公安委員会への届出書類が一部異なるものの、個人と大きく変わらない。法人化により、依頼者からの信用を得やすくなるなどのメリットが考えられる。
4. 開業ステップ
(1)開業のステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
(2)必要な手続き
探偵業法により、探偵業を営もうとする者は、営業を開始しようとする日の前日までに、営業所ごとに、その所在地を管轄する都道府県公安委員会(所轄警察署経由)に営業の届出をしなければならないと定められている。書類等は次の1から3の通りである。届出をせずに探偵業を営むと、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる。届出内容に変更があった場合や廃業の際にも届出が必要である。なお、欠格事由に該当する者は探偵業を営むことができない。
届出書類等
1. 探偵業開始届出書
2. 手数料(3,600円)
3. 添付書類
〈個人の場合〉
1. 履歴書
2. 住民票の写し(本籍地(外国人の場合は国籍等)を記載の住民票で個人番号(マイナンバー)が記載されていないもの)
3. 誓約書(法第3条第1号から第6号に該当しないことを誓約する書面)
4. 身分証明書(市区町村発行)
5. 申請者が未成年である場合は、次の区分に応じた書類(婚姻により成年に達したものとみなされる者を除く)
〈法人の場合〉
1. 定款の謄本
2. 登記事項証明書(法務局発行)
3. すべての役員に係る次の書類
4. 履歴書
5. 住民票の写し(本籍地(外国人の場合は国籍等)を記載の住民票で個人番号(マイナンバー)が記載されていないもの)
6. 身分証明書(市区町村発行)
7. 誓約書(法第3条第1号から第5号に該当しないことを誓約する書面)
欠格事由(法第3条)
1. 破産手続開始の決定を受けて復権を得ないもの
2. 禁錮以上の刑に処せられ、又は探偵業法の規定に違反して罰金の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して5年を経過しない者
3. 最近5年間に探偵業法に基づく営業の停止又は廃止の規定による処分に違反した者
4. 暴力団員又は暴力団員でなくなった日から5年を経過しない者
5. 心身の故障により探偵業務を適正に行うことができない者
6. 営業に関し成年者と同一の能力を有しない未成年者でその法定代理人が、上記1~5までのいずれかに該当するもの
7. 法人でその役員のうちに上記1~5までのいずれかに該当する者があるもの
5. 必要なスキル
特別な資格は必要ないが、業務で自動車を使うことが多いため普通免許は必要である。備えておくべき知識としては、関連法令の知識がある。合法的に業務を行うため、探偵業法だけでなく、ストーカー規制法等の関連法令も理解しておく必要がある。求められる適性としては、不規則かつ長時間の業務に耐えられる体力面・精神面の強さが挙げられる。
探偵業務に必要な知識や技術を学ぶことができる「探偵学校」と呼ばれる機関もある。関連法令の知識、尾行・張込み等の調査技術、機材の使用方法などを学ぶことができる。独立開業についてのカリキュラムが用意されている学校もある。
6. 開業資金と損益モデル
(1)開業資金
小規模な賃貸物件での開業を前提としている。フランチャイズには加盟しない想定である。
(2)損益モデル
①売上計画
1週間に1案件、毎月4案件と仮定する。1案件あたり4日を調査に充てると仮定する。1日の売上は10万円(調査員2名)とする(1案件40万円×48案件=1,920万円)。
②損益イメージ(参考イメージ)
上記a.売上計画に記載の売上高に対する売上総利益及び営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。
(3)収益化の視点
探偵業は原価がほとんどかからず、客数が売上に直結する。競合が多く客単価を上げづらいことから、客数を増やすことが収益化の近道である。
集客方法として、まずはインターネットによる集客がある。ブログやホームページの作成、リスティング広告の掲出が考えられる。ブログやホームページにはSEO対策を行い戦略的に運営する必要がある。インターネット以外の方法では地域紙への広告出稿や、チラシを作成しポスティングをする方法がある。より安定した収益を得るために、同業者とネットワークを構築して下請けとして仕事を請け負うほか、弁護士や司法書士への営業活動を行い利用者を紹介してもらうという方法も考えられる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)