業種別開業ガイド

便利屋

2020年 1月 23日

トレンド

(1)スキマ産業としての便利屋

従来の便利屋といえば、引越、運送、不要品の回収・処理、雑務などが主な業務内容であった。しかし、最近では買い物代行や付き添い、話し相手、謝罪代行など多岐にわたっている。その気になれば開業に際して資本も必要なく、小規模な事業者に向いたスキマ産業となっている。

(2)高齢化により需要が拡大傾向

近年の高齢化により、介護保険の対象外のサービス、特に軽介護者や若年要介護者へのサービスのニーズが高まっている。便利屋が対応できる分野としては、買い物代行や、ちょっとした荷物の運搬などの分野でビジネスチャンスとなる。

総合マーケティングビジネスの株式会社富士経済(東京都中央区日本橋)によれば近年の高齢化により、高齢者/介護関連製品・サービス市場は2025年に9,254億円(2016年比25%増)へと成長するとしている。

このように、今後高齢化社会を迎えるなかで、需要は拡大するものと考えられる。

(3)競合の激化と専門化

便利屋はスキマ産業であり、開業に際して特別なスキルが要るわけではないが、反面、従来の引っ越し業者や廃品回収業者などでも業務範囲を拡大している事業者もおり、こうした業者との競合が激しくなるものと思われる。

そのため、単にスキマ産業に徹するだけはなく何か専門分野に特化した、あるいは専門知識やスキルがないと提供できないようなサービスにも目を向ける必要がある。

ビジネスの特徴

従来の便利屋は引越や運送、清掃、日曜大工、不要品の回収・処理、雑務などが一般的であるが、すでに引越業や廃品回収業、遺品整理業、家事代行業など、競合する事業者が多い。これから開業する場合、特に「何を主力サービスとするか」という点を熟考し、自らの提供サービスメニューを作り上げる工夫が求められる。

事業が多岐にわたる分、開業前の業務経験などが生かせる場合も多い。例えば、木材加工の業務経験があれば、日曜大工や家具の修理、家具キット製作の代行などが考えられ、家電製品の販売の経験があれば家電製品の買い物代行なども考えられる。また、介護の経験があれば、高齢者対応のノウハウを生かしたサービスを提供することもできる。

すべての業務を自ら行うのではなく、協力会社を見つけ、得意分野を持ち寄って相互に業務委託する関係を築く工夫をすれば受注の拡大につながる。

開業タイプ

(1)フランチャイズ型

フランチャイズの加盟店になるためには、一般に加盟金(初期費用)とロイヤリティ(継続的にかかる費用)がある。便利屋では、加盟金が100万円程度、ロイヤリティは固定で5~10万円、研修費用が50万円程度必要となるところが多い。ここで示したのは概算のため、金額については、各チェーンに確認されたい。200万円から300万円の初期費用が見込まれるが、未経験の方が始めるには選択肢の一つとなる。

(2)独立型

便利屋は地域に根差した事業が基本となるため、顧客の開拓や提供サービスの開発に努力を要するが、工夫次第で高収益が期待できる。店舗を持たず自宅を拠点とする場合、独立型として開店することも現実的な選択肢となる。

開業ステップ

(1)開業までのステップ

開業のステップ

サービス業であることから、提供できるサービスは「あなたが自らできる作業」「あなたを通して誰かに頼める作業」となる。したがって、最も大切なのは、提供サービスを考えることとなる。便利屋は、事業が多岐にわたる分セールスポイントが曖昧になりがちなので、得意とする分野とその不随分野に特化した便利屋を開業するのも良い。例えば、家電製品に詳しければ、家電製品の購入のアドバイス、購入代行、外注も活用した設置工事、修理、エアコン清掃などである。

(2)必要な手続き

○許認可が必要な事業を自ら行うかどうか

便利屋そのものに許認可は必要ない。開業に関する手続きも、一般的な事業者と変わらない。しかしながら、個別事業によっては必要となるケースがあることに留意されたい。

例えば、顧客から何かを引き取った物を売却するのであれば古物商があげられる。廃棄が伴うのであれば一般廃棄物収集運搬業などがあるが、許認可部分の事業に関しては協力会社を見つけ、業務委託する方法もある。

必要なスキル

(1)マーケティングに関する知識や行動

マーケティングの発想が必要なのはどの業種にも言えることだが、便利屋においても「地域の関心事」「世間の関心事」を、どのように自身のビジネスに結び付けていくか、常に情報収集を行うことが求められる。

(2)高齢者対応に関する知識及び経験

利用客は高齢者が中心となることが想定されるため、シニア世代に寄り添った対応が求められる。必須ではないが、高齢者対応ができることの指標になるため、「認知症サポーター」や「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」資格などもあると良い。介護タクシーの運転手が「介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)」取得が義務付けられていることからもわかるように、潜在顧客となりうる地域の介護福祉施設や高齢者の家族に対するセールスポイントになる。

開業資金と損益モデル

(1)開業資金

自宅に営業事務所を置き、開業する場合を想定する。業務はハウスクリーニング、エアコンクリーニング、家具や住宅修繕、簡単な水道工事、害虫駆除、床磨きや引っ越し、遺品整理を中心とし、要望に応じ付き添いや買物代行も行う。経験のない業務も想定し、フランチャイズ展開している便利屋事業者にて研修受講と機材調達のみ行う。

【必要となる資金例】

必要資金例の表

(2)損益モデル

a.売上計画

以下のように営業日数や営業時間を設定し初年度の売上高を算出した。

営業形態例の表
売上計画例の表

b.損益イメージ(参考イメージ)

上記、売上計画に記載の売上高に対する売上総利益および営業利益の割合(標準財務比率(※))を元に、損益のイメージ例を示す。

損益のイメージ例の表

※標準財務比率はその他の生活関連サービス業に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
※代表者一人で全業務を行うため、販管費の人件費はゼロとし、売上原価には本人の労務費219万円を含む。労務費除く売上原価率は15%とする。
※自動車は新車登録後46か月経過の中古軽ワゴン車のための2年の定額償却とする。
※機材一式は5年償却の定額法とする。
※自宅で開業するため賃料は計上しない。

c.収益化の視点

便利屋事業を、高齢者向けにサービスを提供する場合、利用者(高齢者)と申込者が異なる場合がある。例えば、サービスを受ける高齢の祖父や祖母のために子や孫が代わりに申し込むケースは多い。したがって、チラシや電話帳といった紙媒体には高齢者向けの広告、Webサイトは若年層向けのデザインにするといった工夫も考えたい。

また、地域に密着し「代表者の顔を売る」という視点から、地区のお祭りなどのイベント、自治会などのパトロール組織へ積極的に参加したい。地域住民に顔を覚えてもらうことから将来の売り上げへとつながるからである。

上記は一例であるが、売上拡大のための集客方法は無限にあるので、様々な方法を組み合わせてオーナー独自の集客方法を見つけてほしい。

※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時時点における情報を元に作成した一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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