業種別開業ガイド
菓子製造販売店
2019年 11月 14日
トレンド
(1)市場規模
「全国菓子卸商業組合連合会」と「全日本菓子協会」が共同で運営する「e-お菓子ねっと」の「平成30年 菓子統計」によると、2018年の菓子市場規模は、生産額では2兆4,985億円(対前年比99.9%)、同小売金額は3兆3,909億円(同100.0%)と、ほぼ横ばいでの推移となっている。
(2)人気のお菓子
矢野経済研究所の調査によると、最も人気があるのはアイスクリームであるという。また、全日本菓子協会によると、ヘルシーチョコレートの人気も高まっている。とりわけ、健康に良いとされる高ココアチョコレートの売上が増加している。同じく、同協会によると、高齢者向けに機能性を重視した健康志向の飴なども好調である。
このように最近は、機能性を重視した健康志向の製品の需要が高まっている傾向がみられる。
(3)素材への“こだわり”の高まり
素材への“こだわり”から、自らが素材を製造し、販売する事業者もいる。具体的には、チョコレートの原料であるカカオを自ら輸入し、自店で加工・販売する事業者などである。和菓子では、小豆や砂糖といった基本素材を、自ら厳選し餡を製造する例もある。
(4)異業種からの参入
カフェやコンビニなどの異業種がオリジナル商品を開発し、参入してくる事例も増えており、事業者間の競争は厳しさを増している。
ビジネスの特徴
菓子は消費用と贈答用に購入パターンが大きく分けられる。消費用は、購入者自身が食する菓子である。贈答用は根強い人気がある。遠方への贈答需要もあって“日持ち”するものが好まれてきたが、チルド並びに冷凍技術の向上、輸送体制の整備が進み、本来生菓子として店頭のみで販売されていた商品も贈ることが可能になり、工夫次第で販売数量を伸ばすことも可能である。
また、贈答用の菓子は専門店での販売が主な経路であったが、フルーツパーラーやホテル・レストランが誘客のために用いる一方、コンビニではコーナーの一角を占めるなど、有力な商品となっている。
開業タイプ
開業タイプは、主に下記の3つのタイプがある。
(1)自宅開業あるいは地域(街中)出店型
洋・和菓子製造販売店には、洋菓子と和菓子をそれぞれ単独で取り扱う、洋菓子と和菓子を取り扱う、洋菓子とパンを取り扱う、喫茶店・レストランを併設するなど、いくつかの業態がある。
(2)カフェ型
駐車スペースを確保し、自店製造のケーキを選び、友人や家族とともに店内で食べることができるようにした喫茶スタイルの店舗である。
(3)無店舗型
店舗は持たずに自宅などで製造し、定期的に決まった場所で販売する、通販のみで販売するといったタイプもみられる。認知度を向上させ顧客の定着に成功した場合は、(1)あるいは(2)に移行するパターンも見られる。
開業ステップ
(1)開業のステップ
(2)必要な手続き
事業の特性もあり、許認可が必要である。
- 食品衛生責任者の設置(保健所指定機関による講習の受講やその受講者の雇用)
- 菓子製造と販売に関する許可(保健所)
喫茶スペースを設ける場合には、飲食店営業許可も必要となる場合があるため、事前に保健所と相談しておく。また、店舗は法に基づく条件があり、工事等の終了とともに保健所職員の臨店確認が行われる。
メニュー、商品の品揃えなど
和菓子と洋菓子のどちらであっても、生菓子、焼き菓子、それぞれ季節に応じた商品の製造・販売が重要である。そして、定番となる商品を見出すことで、ファンを増やしていく取り組みが必要である。
必要なスキル
和菓子や洋菓子それぞれに、素材についての知識、それら素材を用いる製法に関する知識、そして製造技術・経験は不可欠である。加えて、経営知識や原価管理などのスキルが必要である。
それらのスキルを得るには、専門学校への就学のほか、メーカーや老舗、ホテル・レストランなどでの勤務において、製菓衛生師などの資格を取得する方法がある。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
必要な設備は、冷蔵庫や急速冷凍・解凍の設備、調理用テーブルなどの調理器具、ショーケース、レジなどである。加えて、店舗の内外装工事がある。また、持ち帰り用の箱や手提げ袋、包装用紙(店舗ブランドの認知のため、デザインも工夫すると良い)などを準備する。また、初期投資の他に経営が安定するまでの運転資金も準備する必要がある。
【店舗面積20坪程度の店舗を出店する際の必要資金例】
(2)損益モデル
a.売上計画
年間営業日数、1日あたりの客数、平均客単価を以下の通りとして、売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。なお、売上原価には製造にかかわる人件費を含めている。
※標準財務比率は菓子小売業(製造小売)に分類される企業の財務データの平均値を掲載。
出典は、東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」。
c.収益化の視点
厨房設備や什器・備品などをはじめ初期投資負担はあるものの、基本的には職人が手作りする労働集約的な業種であるため、それほど設備資金需要は高くない。
運転資金に関しては、基本的に現金商売であるため、売上代金の回収状況はよい。加えて、原材料をはじめ商品は、鮮度が重要であることから、在庫を含めた商品の回転期間は短く、運転資金需要はそれほど高くはない。
ただし、贈答品などの商品を主体に扱う場合は、受取債権及び商品の回転期間も長期化するため、必要となる運転資金の需要も高まる点には注意が必要である。
いずれにしても、大手メーカーのように大量生産を行わない限り、職人の手による地道な作業が必要となる業種であり、原材料費など一定の原価もかかるため、魅力的な商品を作り、収益性を高めていくことが重要である。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)