業種別開業ガイド

パティスリー

2024年 1月 24日

パティスリーのイメージ01

トレンド

パティスリーとはフランス語で菓子全般を意味する言葉で、一般的には菓子を作って販売する洋菓子店を指している。コロナ禍を経て、洋菓子店を取り巻く環境や消費者意識の変化がみられる。コロナ禍の制限された生活の中で、スイーツは癒しやストレス解消に一翼を担った。手軽に買えるコンビニスイーツも、素材や材料の品質にこだわった高価格帯の商品が好調に推移した。

健康志向の高まりも、スイーツへの消費者意識変容に影響を与えている。低糖質・低カロリー・グルテンフリーなど、健康に配慮された素材や製法が求められ、砂糖や小麦粉の代わりとなる代替素材の使用も増えている。また、健康の維持・増進に役立つ効果が科学的に証明されている機能性表示食品も人気を集めている。健康志向が今後も続く限り、これらの傾向はスイーツ市場において重要な要素となるだろう。

また、SDGs(持続可能な開発目標)やエシカル消費(倫理的消費)の考え方がスイーツ業界にも広がり、人・社会・地球環境・生産者に配慮した「エシカルスイーツ」が登場している。無農薬・無添加・オーガニック・ヴィーガンの素材を使用して、環境保護やフードロス削減、地産地消につながる取り組みが注目されている。

例えば、杉などの間伐材を原料にしたパウンドケーキや、生産過程でのCO2排出量が低い素材を使ったクッキー、廃棄される無脂肪乳を主原料にした焼き菓子など、生産者のアイディアを見事に形にしている。さらに、売り上げの一部が寄付されるチョコレートもある。寄付金は、開発途上国のカカオ農場を守る取引の普及や、児童労働・強制労働をなくす活動の支援、給食支援となっている。消費者は「エシカルスイーツ」を選ぶことで、社会貢献につながることになる。

令和元年から5年にかけて民間会社のSDGsプロジェクトによる調査では、環境・社会を意識した購買行動が、10~20代の若年層を中心に年々上昇していることが示されている。

サステナブルな取り組みをしている商品は、消費者の購買行動に影響を与える。今後のスイーツ市場でも、パッケージは脱プラスチックのものや最小限の包装、素材はオーガニック認証済みのもの、生産者を支援できるもの、このような社会や環境に配慮されたエシカルな商品が選ばれる傾向にあると言えるだろう。

近年のパティスリー事情

民間調査会社が公表した「和洋菓子・デザート類市場に関する調査」によると、市場規模は2019年度までほぼ横ばいで推移していたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、2020年度は前年比94.3%の2兆1,535億円となった。

しかし、2021年度に入ると外出自粛による巣ごもり消費が拡大し下げ幅は減少、2022年度からは百貨店などの店舗の休業・営業時間短縮制限が和らいだことにより、前年比102.0%の2兆1,850億円を記録し、微増ながらも回復傾向に転じた。

2022年度下半期以降は、コロナ禍が一応の落ち着きを見せ、自粛生活で抑えられていた外食やイベント参加などの消費行動の拡大が見込まれており、しばらくこの傾向は続くと予想されている。

また、訪日外国人観光客の回復によるインバウンド需要復活への期待が高まっている。観光庁の「2023年4-6月期の全国調査結果(1次速報)の概要」によると、2023年4~6月期の訪日外国人旅行消費額は1兆2,052億円(2019年同期比95.1%)と推計される。訪日外国人の1人当たりの消費額は2023年は20万5,000円となっており、コロナ禍前である2019年の15万9,000円を上回っている。

同じく観光庁の「訪日外国人の消費動向」では、最も多く購入するものとして「菓子類」が71.1%と圧倒的な割合となっている。そして、最も満足した購入商品も「菓子類」が21.3%と1位となった。満足した理由としては、「美味しい」「お土産に良い・頼まれた」という回答が多くみられたようだ。日本のスイーツ・菓子の根強い人気がうかがえる。

買物代の費目別購入率および購入者単価(主要国籍・地域別、全目的)

さらに、訪日前に期待していたこととして「日本食を食べること」が84.8%と最も多い結果となった。スイーツも日本の食や文化を取り入れ、抹茶味や桜風味、米粉を使った菓子など、日本らしい商品が続々と開発されている。

原材料価格の高騰や円安により、食品業界全体で価格改定が相次いで実施されている。その影響で、高価格帯商品の人気は落ち着きつつある。物価高で節約志向が高まり、値頃感のある商品に推移している。

また、販路拡大を図るために、これまでにないサービスの展開がみられる。例えば、アパレルブランドとのコラボレーション企画や、日本産スイーツの海外販路拡大、冷凍スイーツの無人販売など、新たな切り口で消費者とのつながりを開拓している。ホテルではビュッフェに代わる新しい試みとして、おすすめのメニューから選んでもらうフードプレゼンテーションという形を提案し、フードロス削減や品質と値段のバランスを考慮したサービスを提供しているところもある。

個人経営のパティスリーが生き残るためには、いかに時代に合わせた取り組みを行うかが鍵を握る。オンライン販売の強化やSNSを活用したファンの獲得、消費者ニーズを意識した新商品開発などの差別化戦略を考える必要があるだろう。

パティスリーの仕事

パティスリーの仕事は「ホール」「キッチン」「運営・管理」に分けられる。それぞれ具体的な仕事内容は以下のとおり。

  • ホール:商品販売、補充・陳列、接客・精算など
  • キッチン:仕込み、調理、片付け、掃除、新商品開発など
  • 運営管理:シフト管理、在庫管理・発注、経理事務、企画・プロモーション、各書類作成など
パティスリーのイメージ02

パティスリーの人気理由と課題

人気理由

  1. パティシエとしての知識やスキルを活かせる
  2. 顧客の反応をみてやりがいや達成感を感じられる
  3. 顧客のファン化を実現できれば大きな成功を見込める
  4. スイーツ需要が拡大しており安定した販売が見込める

課題

  1. 人件費や原材料費が高騰している(価格転嫁が難しい)
  2. 洋菓子専用の設備・調理機器が必要となるため初期費用がかかる
  3. オンライン販売やSNSの活用など多様な販売チャネルの開拓が求められる

開業のステップ

パティスリーの開業には、「個人事業主として起業」「法人を設立する」という2つの方法がある。それぞれの開業ステップは、以下のとおり。

開業のステップ

パティスリーに役立つ資格

パティスリーを開業するためには、以下の資格が必要になる。

(1) 食品衛生責任者(必須)
ケーキ屋・洋菓子屋・パティスリーなどの食品業を開業する場合、食品衛生責任者の資格を取得する必要がある。資格の取得には、1万円前後の費用を支払い、各都道府県の保健所が行っている6時間ほどの食品衛生責任者養成講習を受講する。ただし、調理師、栄養士、製菓衛生師の免許保有者は講習の受講は不要だ。

(2) 菓子製造許可・飲食店営業許可
パン、ケーキ、餅菓子、飴菓子などを製造し、販売や店舗営業を始めるときは菓子製造許可の取得が必要である。また、飲食スペースがある場合は、菓子製造業許可に加えて、飲食店営業許可の取得も必要となる。申請は1万4,000円から1万7,000円ほどの費用を支払い、所轄の保健所に申告書類を提出する。

開業資金と運転資金の例

パティスリー開業にあたって必要になる費用としては、以下のようなものがある。

  • 物件取得費:初月家賃、敷金、礼金、保証金(家賃の6~10カ月程度のことが多い)など
  • 内外装工事費:内装、外装、看板など
  • 什器備品費:ショーケース、レジ、冷蔵庫、オーブン、シンクなど
  • 商品仕入費:食材、酒類、ラベル、梱包材など
  • 広告宣伝費:ホームページ制作費、印刷費など
  • 求人費:求人媒体の利用費、人材紹介費など

パティスリーを含む食品業の開業では、内装や設備が残った「居抜き物件」や中古の設備を探すことで開業資金を抑えることも可能だ。

開業資金と運用資金の例として、タイプ別に表にまとめた(参考)。

開業資金例
運転資金例

売上計画と損益イメージ

パティスリーを開業した場合の1年間の収支をシミュレーションしてみよう。

  • 事業形態:個人事業(従業員0名)、自宅開業
  • 日商:約3万円(平均客単価:約1,500円、20人/日)

月の営業日数を26日とすると、

月商:約78万円
年商:約936万円
となる。

次に、損益イメージを算出してみよう。

上表の運転資金例(個人事業)を想定すると、
年間支出:約360万~600万円
初年度売上高:約936万円
売上総利益:約336万~576万円(月の利益:約28万~48万円)
となる。

販売個数や平均単価が増えれば、さらに高収入も狙える。オンライン販売やSNSを活用した多様な販売チャネルを開拓し、消費者動向に沿ったサービスを展開したいところだ。例えば、健康志向の顧客向けに低糖質・低カロリー・グルテンフリーなど健康に配慮した素材を使用するなど、独自性のある商品を提案できると注目度が高まる。購買意欲の高い旅行者や訪日外国人向けに、テーマ性のある日持ちする焼菓子を制作し、定番のお土産となれば大きな成功も見込める。

一方、オープン当初は固定客(常連客)も居ない状態で、注文数や来店客数は低くなることが予想される。また、近年では小麦粉などの原材料費が高騰し続けており原価率は高くなる可能性がある。そのため、月の利益はある程度固定客がつき、経営が安定した場合に達成できる数値であることから、十分なランニングコストを確保しておくことが重要だ。

パティスリーのイメージ03

※開業資金、売上計画、損益イメージなどの数値は、開業状況等により異なります。

(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)

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