業種別開業ガイド
アイスクリームショップ
2020年 1月 28日
トレンド
(1)アイスクリーム業界の推移
一般社団法人日本アイスクリーム協会の調査によると、一般の小売店で販売する家庭用アイスクリームも含む業界の市場は2013年で3,322億円、以降一貫して伸び続け、2018年には5,186億円へと大幅に拡大している。
(2)最需要期の猛暑により需要が拡大
近年の温暖化により、梅雨明け以降の気温は関東以南で真夏日(30度以上)と猛暑日(35度)と呼ばれる日が大半を占め、北海道においても30度を超える日がみられる。気温はアイスクリームの需要に大きく影響するため、夏の暑い時期は売り上げが伸びる。一方で冷夏、秋から春にかけては需要が大きく減少することも想定する必要がある。
(3)写真映えとSNS
最近では、色合いや盛り付けを工夫して写真映えするアイスクリームを販売する店が増えている。大手チェーンでは有名キャラクターを起用してカラフルな色合いのアイスクリームを販売する例がみられるほか、個人経営の店ではパフェのような凝った盛り付けがなされている例がある。インターネットで検索すると百万件を超える写真映えするアイスクリームが出てくる。いずれも、来店客が「写真を撮り、SNSに載せる」ことが若者の間で文化として定着しているためである。いわゆるインスタ映えであり、こうした傾向は今後も続くものと思われ、インスタ映えするような商品づくりが求められる。
(4)従来になかった新しい「アイス」の誕生
アイスクリームと言えば、カップやコーンの上に球状の形で載っているというイメージが一般的であるが、クレープのような形状に固めたもの(冷たい鉄板で急冷)も出てきている。また、氷そのものに味がついているかき氷(台湾式のかき氷)を提供する店も増えている。新しいジャンルの商品が次々と出てきており、インスタ映えと相まって雑誌だけでなくインターネットも含めた様々なメディアに登場している。
ビジネスの特徴
一般的なアイスクリームショップは、季節や天候により繁閑の差が大きいことから、寒い時期にも最低限の売り上げを維持する工夫が求められる。
大手乳業メーカーの森永乳業が2016年にアイスクリームに関するアンケート調査を発表している。同調査では、冬にもアイスクリームを食べたいと答えた人が98.4%、アイスで重視する特徴としては、夏は「シャリシャリ、さっぱり」冬は「なめらか、濃厚」が挙げられている。つまり、冬も一定の需要はある一方で、好まれる味が変わることも示している。一般的に雪国では、冬に暖房の効いた部屋でアイスクリームを食べる習慣があり、都市部のオフィス街では夏に冷房が強い傾向にあるため、おでんがよく売れることも知られている。
このように、季節によって売れ行きが変わる商品であっても、地域によってシーズンオフの時期にも売れることがあるため、出店する地域の動向を調べておく必要がある。
開業タイプ
(1)フランチャイズ型
人通りの多い都市部の駅前など、町で一般的によく見かけるのは、このタイプとなる。フランチャイズの加盟店になるためには、一般に加盟金(初期費用)とロイヤリティ(継続的にかかる費用)があるが、アイスクリームチェーンでは加盟金は2~300万円、ロイヤリティは売上の5%程度は必要となる。ここで示したのは概算のため、金額については、各チェーンに確認されたい。店舗改装費用とあわせると1,000万円以上の初期費用が見込まれるが、未経験者が開業する際には選択肢の一つとなる。
(2)独立型
アイスクリームは、地場農産品を取り入れた「ご当地アイス」を作りやすいため、レシピの開発や宣伝のノウハウ、資金調達などの開業準備に努力を要するが、工夫次第で高収益が期待できる。一般の飲食店には向かない都市部の狭小物件や、キッチンカーでの移動販売、郊外でイートイン席も設けた店舗など、狭い物件から広い物件まで様々な店舗で開店できる。店舗の特徴を明確にイメージできるのであれば、独立型として開店することも現実的な選択肢となる。
開業ステップ
(1)開業までのステップ
開業に向けてのステップは、主として以下のとおり。
立地調査には特に力を注ぎたい。店のコンセプトやターゲットとなる客層によって適した立地は異なるが、飲食店と比較して単価が安いアイスクリームの特徴から、人通りが多い場所に出店し、客数をこなして売上に結び付けることが前提となる。店頭や内装も工夫したい。赤やピンク、オレンジといった原色系の色彩が多用されている店舗であると、中学校・高校生や若い女性客には入りやすいかもしれないが、中高年の男性客は入りにくい。一方、チョコレートやコーヒーをイメージさせる茶色や黒など落ち着いた雰囲気の店であれば、男性客も入りやすいことに加え、カフェでよくみられる色彩であるため女性客が入りにくいこともない。また、高級感も演出できるため、素材にこだわった大人のアイスなどのように商品単価を高める理由づけもできるため、客単価の上昇にもつながる。
(2)必要な手続き
○「飲食店営業」の許可申請
一般の飲食店と同じ手続きが必要となる。法律上の要件を満たせば営業許可を取得することができるが、細かい要件は保健所ごとに運用が異なる。内装工事開始前に出店地域にある保健所へ事前相談に行き、工事完了の直前に飲食店営業許可申請、工事完了のタイミングで保健所の担当に店舗に検査に来てもらうというのが一般的な手続きの流れとなる。
○食品衛生責任者の設置(調理師や栄養士の有資格者以外が該当)
飲食店では、食品衛生責任者が一人以上必要となるため、出店地域の保健所に確認し講習を受け、資格を取得する。
必要なスキル
新しいアイスクリームや、写真映えを求める若年層などの存在は無視できない。流行を取り入れた宣伝や、話題の食材を用いたアイスクリームなど、「世間の関心事」に対して常に情報収集を行うことが求められる。
また、話題の食材や地場農産物を生かしたアイスクリームを作るためには、調理の技や知識が求められる。
開業資金と損益モデル
(1)開業資金
人通りが多い大都市繁華街のビル一階にテナントとして開店する場合を想定する。
【テナント26平米程度で開業する場合に必要となる資金例】
※店舗賃貸保証金等の352万円(月32万円の11か月分)は費用としていない。
(2)損益モデル
a.売上計画
以下のように営業日数や営業時間を設定し売上高を算出した。
b.損益イメージ(参考イメージ)
標準財務比率(※)を元に、法人形態の場合の損益のイメージ例を示す。
※標準財務比率は、菓子小売業(製造小売)に分類される企業の財務データの平均値を掲載(出典は東京商工リサーチ「TSR中小企業経営指標」)。
c.収益化の視点
アイスクリームは、スーパーやコンビニでも買うことができ、近年は特に味が向上しているため、お店にわざわざ来てもらうための工夫が欠かせない。また、購買層は若い女性と思われがちだが、アイスクリームは世代を問わず食べられていることや、購買単価が高めとなる、「通りがかりの会社員の手土産需要」も考慮したい。したがって、客層を絞り込むのではなく、立地の状況、通りを歩く人々など、様々な人に興味を持ってもらうための店のイメージ作りが必要となる。
お店にわざわざ来てもらうための工夫としては、一般客向けの来店を促す「季節ごとのアイスのスタンプラリー」や、アイス好きに向けた「サブスクリプションモデル(定額会員制)」なども考えられる。スタンプラリーは、来店頻度の多くない、数か月に一度の来店客に来店を促す販売促進、サブスクリプションモデルは、購買頻度が高い顧客に向けた定着促進といえる。後者は定額制であるため、顧客に定期的な来店を促すことにつながるほか、繁盛店としての演出や冬期の閑散期における設備稼働率のアップにもつながる。
※開業資金、売上計画、損益イメージの数値は、出店状況等により異なります。
(本シリーズのレポートは作成時点における情報を元にした一般的な内容のものであるため、開業を検討される際には別途、専門家にも相談されることをお勧めします。)